俊輔は俊輔らしく(2010/8/31付)

記事の初公開日:2010年 08月 31日

「もどってきてるよね!」

28日の対新潟戦をTV観戦したあと、俊輔ファンたちとのメールや電話、ブログ書き込みでは、この言葉が舞い飛んだ。
言葉の後ろにはみんなのうれしそうな顔が見える。
顔を知らない同士でもアイコンが笑っているように見える。

この日のゲームでの、中村俊輔は中村俊輔らしかった。

ゴールに繋がるスルーパスやゴール前に走りこんでシュートを狙うプレー、パスを出したら一気に走ってスペースを作るプレーなど、セルティック時代によく見たプレーが、復活してきた。
さらにうれしかったのは、アタッキングサード近くでボールを持ったら、パスするのではなく自ら仕掛けて積極的にゴールを狙うプレーが何度も出てきたこと。

思い起こせば、俊輔は前で仕掛けてゴールに繋げるのが好きな選手だった。
そしてそのプレーが効果的で、すばらしいゴールをアシストしたり、自らゴールしたりしていた。
「メキシコの青い空…」でおなじみのスポーツ実況の名手・NHKの山本浩さんが、かつての代表戦で「中村俊輔、前にあってこそ!」と叫んだのを今も覚えている。
点に絡むプレーこそが中村俊輔の持ち味だったはずだ。

そんな彼が、オシムさん以降の日本代表のコンセプトが細かくつなぐプレーになり、自らもチャンピオンズリーグで強豪と戦う経験から、個人プレーでなく連携して崩していく戦術が効果的だということを体感し、少しづつ自分の個性を抑えながらチームの1つの部品として機能しようとしてきた。
いつからか、俊輔にボールが行くとワンタッチではたいてつなぐプレーが増え、時に自分が持って仕掛けようとすると、周囲の評価はこねくり回すとかプレーを遅らせるというマイナス評価になっていた。
日本代表のコンセプトとは言え、俊輔ファンは、俊輔の個性が活かせていないことに残念な思いを抱えながら、それでも俊輔が自分を殺してまで作り上げようとする日本代表のスタイルを応援し続けてきた。
しかし、彼が「個の強み」を抑えてまで貢献してきた代表のスタイルは、W杯のその場で、使われないままポイと捨てられてしまった。


「マリノスに貢献するのみ」と自分をリセットした俊輔は、少しづつ本来の中村俊輔を蘇らせている。
俊輔の「個の強み」を蘇らせるために、周りが温かくサポートしてくれている。
新潟戦の「俊輔の復活」には、松田選手や小椋選手たちの下支えのプレーがあったことは見逃せない。彼らがしっかり新潟の外国人選手を抑えてくれたので、俊輔は心置きなく前でプレーできた。
「やっぱり、俊輔は前でやらないと生きない。アイツにもっとやってもらわないと。アイツが輝いているのがうれしいから(笑)。」
試合後の松田選手のコメントの一部だ。(Js Goalニュースよりhttp://www.jsgoal.jp/news/jsgoal/00106097.html) 俊輔を弟分としてかわいがっていた松田選手は今も変わりなく頼もしく温かい。

心優しいマリノスの10番は、一瞬のスルーパスを信じて全力疾走で走りながら、ここぞという瞬間に難しいシュートを決めてくれた。この美しいゴールがあったからこそ、絶妙のスルーパスはさらに輝やけた。

俊輔と連動してハードな走りを繰り返す天野選手や逆サイドから飛び込んでくれる兵頭選手、安定したプレーの波戸選手や鉄壁の中澤選手、栗原選手、飯倉選手の好プレーがあってこそ俊輔は前でプレーできているのだ。俊輔はいま、チームメイトたちの献身と信頼をどれほど頼もしく感謝しているだろうか。

さらに、チームにはブレイクスルー直前の後輩達もたくさんいるようだ。
彼らが輝けるように、惜しみなくスペースを作り、絶妙のパスを供給しつづけることを俊輔自身、密かに自分の使命にしているふうにも見える。


現在、海外でプレーする日本人選手は40人を超えている。すでに海外組はステータスでも希少価値でもなくなっている。海外でどう闘いどう生きるかは選手それぞれの価値観になってくる。
しかし、海外組のその後の生き方のモデルはまだ少ない。中田英寿氏がその経験を日本に還元することなくサッカー選手を降りてしまったので、海外での経験を日本に還元する役目は否応なく俊輔が背負うことになった。
地に足の付いた普通の生活を好むファンタジスタがどのような還元の仕方を見せてくれるか…横浜Fマリノスとどう化学変化を起こしていくか、そしてその先は…。
中村俊輔の前には、まだまだ未知の世界が続いている。

長い旅を終え、迎え入れてくれた港で、やっと自分らしい暮らしができるようになった男が、この港のためにどう生きるか…。
今また違った物語が始まったのかもしれない。


新しい日本代表の監督も決まったらしい。
しかし、今の俊輔には、それは自分には関係のないことのようだ。
俊輔は俊輔らしく、自分の価値観を大切にしていけばいいと思う。


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