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♯14_海外現地からの警鐘(アラーム)

アジア事業には、日本では想像できない様々な問題がつきまとう。勝手知った日本市場と比べるとアジア市場はよほど複雑怪奇である。

顧客面では、現地企業とビジネスをしつつ、その上流、下流に垣間見える欧米大手企業の意向に目を光らせる難しさがある。競合企業を見ると、大手から中小まで行動理念も意思決定スピードも日本企業とは大いに異なる。日本市場とは異なる様相であり、100%理解をすることなどそもそも不可能なようにも思えるほどだ。

 しかし一方で、我々は「分かったような気」になってしまうことが往々にしてある。事業を展開して10年も経ち、現地駐在を長く経験すると、現地のエキスパートになった気さえする。そこで何が起こるか。我々は現地で鳴るアラームを見逃してしまうのだ。

 具体的な例を挙げよう。ある電子部品大手のA社は、アナログ調整の必要な電子部品においてアジア市場でも大きなシェアを握っていた。そこに現地企業がデジタル技術を核とした製品を投入したのだ。A社でも現地からアラームが鳴らされた。「これは画期的な製品である」と。

ただ、本社はそのアラームを素通りしたのだ。「この価格は実現できない。交渉のためのブラフだ」「この仕様では単純すぎて肝心の精度が出ないだろう」といった具合だ。結果として、この種のデジタル技術を核にした電子部品は市場のスタンダード品となり、シェアを失った。A社の対応遅れは致命的となったのだ。

 さて、上記で「アラーム」と呼んだものは何を意味するのだろうか。我々は、市場のルールが変わるサインだと捉えている。この「アラーム」を発するのは異質なユーザーであったり、異質な製品であったり、異質なプレイヤーであったりするだろう。最初は誰も気にも留めないのだ。しかし、その異質さが成立し、求められる背景は必ず存在するはずであり、それは市場の競争のルールが変わり始めている、ということなのである。上記の例だと、手間をかけて100点の高精度から、手間いらずで70点の精度へと市場ニーズ/競争ルールが変わったのだ。

 日本企業はアジア事業において10年以上の期間に渡り成功を収めてきた、と言えるだろう。だからこそジレンマが邪魔して余計にこの「アラーム」に気づけない、いや気づかないフリをするのだ。

 アジアでは市場変化が非常に早いと頭ではわかっているが、体はなかなかついてこないということを、我々は今一度理解し直す必要があるだろう。成功した製品・事業はいつか乗り換えなければならないものであるはずだ。しかし、今の成功にすがった結果、手遅れになってから新しい市場を羨ましそうに眺め息巻いている日本企業の姿を多く見てきた。「アラーム」に出会った時、大げさに反応してみる、賞賛してみる、チャンスだとワクワクしてみるくらいの意識で丁度いいのだろう、と感じる。

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