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#3_アジア事業の再成長のため「変化」をポジティブに捉える

日本企業において、アジア事業に携わる方々が感じている「停滞」とは具体的にどのようなものか、を確認してみたい。我々がクライアント企業と相対する中で、以下のような現場レベルでの「停滞」に直面しているケースは非常に多い。
 
・売上や営業利益が著しく悪い訳ではないが、この先成長する見通しもない
・毎年新しい数値計画は作るが、うまくいかない(そもそも現場がその計画を信じられていない)
・目先の売上や利益の話に終始し、中長期的な議論がなされない

つまり、停滞は感じているにも関わらず、それを打開する策が考えられていないのだ。未来の話をすることは憚られている企業さえある。
トップには綺麗に整えられた報告が伝わるわけだが、実情として現場がこんな状況では再成長が期待できるはずもない。なぜこのような状況に陥るのか、「組織」の観点から少し考察を加えてみたい。

アジア事業を取り巻く組織には、このような特徴がないだろうか
 ・現地のトップや幹部人材は、10年近く同じような顔触れ
 ・日本からの出向者は、4年程度の任期でローテーションする
 ・優秀な現地の人材は稀に入るが、大抵すぐやめてしまう

特段珍しいわけでもなく、どの日本企業でも見られる状況だろう。ただこの当たり前が、アジア事業の再成長を難しくしている。
まず、既存事業で成功した人材がトップに居座り続ける。すると既存の顧客との関係や事業への思い入れから新しい事業は優先されない。あくまで事業の中核は過去の成功に頼り続けることとなる。この状況で再成長に思い切った舵を切るのは難しいだろう。
 加えて、日本人のトップも時間制限付きとなる。現場の実態が見えてくるころには任期は残り1、2年。リスクを冒したチャレンジは難しくなるのが現実だ。また、大抵アジア事業の立上げを行った人間などが社内に上司として残っている。その人間の功績を否定し、ぶち壊す覚悟を持つのは並大抵ではない。
 そして現場の人材。海外事業では「現場」が大事とはよく言うが、その現場は本当に戦える、強い現場だろうか。ともすると古い事業やビジネスモデルに精通した人間ばかりで、新たなチャレンジに対応できないことも多い。今の人材で、再成長を図れるだろうか。

ここまで幾つかの視点で、アジア事業の組織を見てきたが、その組織には変化するインセンティブがないのである。駐在者や本社の人間がどれだけ「このままではダメだ」と叫んでも届かないわけである。
代わりに、目の前の売上や利益を詰められることの方が日常的には由々しき問題だ。いわば「過去のアジア事業のジレンマ」に縛られ、新たなチャレンジを恐れる。一方で、その間に光る現地企業は湧いて出てきて、新たな事業を創り、市場を創っていくのだ。

では、我々にはどのような「転換」が必要だろうか。固まってしまった組織を揺り動かすための努力をあの手この手尽くしていく必要がある。
組織の評価軸を変え、中長期のKPIを導入すること、新しい人材の登用、組織の刷新や新設、一時的に本社からの働きかけを行うことなどが挙がるだろうか。ただ、有効な打ち手となり得るように見えて、そのどれもが、単体で効果があるものではないように思う。

結局、我々に最も必要なことは変化の必要性を「認識する」ことだろう。大抵の日本の企業では変化は「よくないこと」と理解されている。それは過去、日本企業が成功してきた中においては、「変えないこと・守ること」こそが成功の条件であったからだ。
しかし、時代は変わり今、日本企業がアジアで成功しているとは言えない状況に陥っている。つまり、我々はまず「今の組織ではダメだ」という認識を持ち、「変わること」は「良いことだ」、という具合に脳をアップデートしなければいけないのである。

「変化」を口にするのは簡単だが、実際やるとなると難しいことは百も承知だ。変化によって起きる悪い面はすぐに見えやすく、揚げ足取りに使われやすい。しかし誰かが変えなければ、変わらない。
現場の反対も、組織に不協和音が生じることも、いい兆候であると信じよう。その反対や不安を押し切ってでも、変えることが最も重要なのである。

この種の停滞には特効薬は存在しない。日々、継続的に根気よくやっていくより道はない。ただ、それを続けることが次の10年を切り拓く。日本企業のアジア展開が10年後どのように評価されているのか、我々コンサルタントもその一助となるような存在でありたいと常に思う。


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