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#9 「日本企業は技術力が高く、海外ではハイエンド市場でこそ存在感を発揮できる」は本当か?

 アジアを含む海外市場においては、日本で当たり前の「思い込み」が邪魔をして、正しい市場の姿を見る事ができないことが多々ある。今回は、我々に既に身に付いてしまっている「思い込み=レンズ」について考えてみたい。言い換えると視界を狭めてしまう縛りのようなものだ。

 さて、印象的なニュースの紹介から始めたい。2019年4月にパナソニック社は中国・北東アジア社(CNA)を設立した。部門間の壁を取り払い、家電事業と電材事業を融合させた「中国発の新しいビジネスモデル」を早急に作り上げる、思い切った意思決定である。その社長に就任された本間哲郎氏のインタビューではとても興味深いことが語られている。

「プレミアムへの過度な逃避」「中国サプライヤーへの適切な対応」などについても問題だったとし「プレミアム家電を戦略の中心として位置付けてきたが『主戦場から単純に逃げただけだ』という声もWGの中では生まれた。
-インタビュー記事より引用-

インタビューの中で語られた他の問題についてはここでは割愛するが、パナソニックという日本製造業の雄がこれを語ったことに驚きと称賛を覚えずにはいられない。日本企業は、確かに中国を含めたアジア地域でこれまで成功を収め「Japan Brand」を確立してきた。しかしそれは、ある種の思い込みとなって我々の視界を曇らせ、思考を止める一因になっているようにも感じる。

 パナソニック社繋がりで、家電を例に挙げよう。インドの鍵付き冷蔵庫などは有名な話だろう。韓国メーカーの三星、LGが発売した鍵付き冷蔵庫がメイドを雇うことの多いインドの富裕層を中心にヒットした、という話だ。実際に三星とLGはインド市場の実に50%近いシェアを獲得している。

勿論この商品だけが成功の理由ではないだろう。ただ、インドの人々にとっての「鍵」は日本人にとってのそれと意味合いが大きく異なり、文化的な深い理解を必要とする要素が多分にある。つまり、インドの人々の文化や価値観を理解した商品を送り出せるということを意味し、これ以外にも現地に根差した製品で消費者の心を掴んできたであろうことは想像に難くない。
 
日本企業が、技術や品質観点で発売できなかった製品では決してない。また、アイデア勝負で「負けた」のであれば、まだ許容できる。ただ、日本企業は現地に根差した製品を開発するレースに参加するという意識が希薄だったようにも見える。

今回挙げた事例以外にも、日本の企業がアジアの市場を見る際には「やはりハイエンド市場」「高付加価値・高品質が強み」という声が多く聞こえてくる。ただそれが根拠のない思い込みによるものであれば、事業の成功には赤信号が灯る。

 加えて、各国の市場環境は大きく変化している。Eコマース、介護施設(養老施設)、インドネシアのGrabに代表されるキャッシュレス決済など、我々が思うよりも発展し、遥か先を進む技術・サービスも多く出てきているため、日本=高付加価値の構図はもはや絶対ではない。

まずは思い込みのレンズを外し、謙虚に一から市場を見る目が必要だ。高品質なものづくり、という伝家の宝刀は自社が出せる付加価値や取るべきポジションを見定めたその後に、存分に振るえばいい。

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