【上田】滞在レポート by 鄭禹晨 _ 生きることとアートの呼吸〜Breathe New Life
研修プログラム参加動機
台湾から日本に来て早6年。私は日本各地の美術館や芸術祭を訪ねる旅が趣味です。今夏、長野の旅を計画した際に、研修プログラム「生きることとアートの呼吸 〜Breathe New Life」のことを知りました。
私は訪日外国人向けウェブメディアの企画・翻訳・編集の仕事をして、主にアートツーリズムや日本のカルチャーの発信。他にも東京を拠点に、都市や異文化をテーマにした演劇、映像などのアートプロジェクトにも携わっています。将来的には活動拠点を増やし、東京以外の文化芸術のプロジェクトにも関わりたいと考えています。また、長野県内の芸術企画と創作環境を考察することができて、関係者と参加者と知見を共有できると期待して、今回の研修プログラムを応募しました。
長野にまつわる記憶
まず、今回滞在期間の主要拠点である長野県の上田市の思い出を語りたいです。
高校二年生の時に、修学旅行で長野県上田市のホームステイ体験がありました。滞在時間が短かったのですが、ホストファミリーの暖かさは今でも忘れられません。日本へ留学の夢もその時に確立しました。
ホストファミリーから編み物の帽子をいただきました
この度、10年ぶりに上田市へ再訪できて、縁を感じました。
滞在初日、上田市から大町市へ出発。北アルプス国際芸術祭の東山、ダム、源流、仁科三湖エリアを巡って、たくさん作品を鑑賞しました。この中に、仁科三湖エリアの木崎湖畔に記憶に関する2つの作品と出会いました。
一つ目は淺井真至の《おもいでドライブイン》。これはかつて土産物屋兼食堂の店舗に取り残されていた物を空間全体に飾った作品。ずっとこの場で眠た物をもう一度飾ったら、ドライブインの思い出が蘇りました。また、あえて物を元の陳列場所に置かなくて、新旧混在の異次元の雰囲気を出しました。
淺井真至の《おもいでドライブイン》
もう一つ作品は木村崇人の《水をあそぶ「光の劇場」》。空き家を改造した建築の2階では、鏡、流木、砂で構成された空間。ここでは流木に座って、窓ガラスが無い窓越し、湖面の表情を鑑賞できます。
鏡に映った一文「水は輝き、映し、そして全て記憶する」を読み、再び目の前の景色を見て、故郷の湖の記憶を思い出し、新しい木崎湖の思い出も刻まれました。
木村崇人の《水をあそぶ「光の劇場」》
大自然での創作と上演
ダムエリアの磯辺行久の《不確かな風向》を訪ねた時に、同じ研修プログラム参加者の久保田さんと一緒に七倉ダムを登りました。
磯辺行久の《不確かな風向》
頂点に着いた後、ダンスアーティストの久保田さんは山に囲まれたダムを背景にして、即興で踊りました。雲の隙間から水面に差し込む太陽の光、室内舞台はない大自然の美しさとダンサーの身体と融合して、隣で静かに見てた私は非常に感動しました。
北アルプス国際芸術祭の作品鑑賞以外、長野県内の美術館やアート施設を見学しました。この中に、小諸市在住、ブルーベリー農家・劇作家・わかち座の黒岩力也の直売所が印象的。
私たちは黒岩さんの案内に従って、ブルーベリー直売所の奥に行き、シアターが目の前に現れました。こちらは公演やワークショップが行われる場です。
さらに進むと、直売所の裏にもう一つ劇場があります。また、屋外のブルーベリー畑が舞台として使われます。私も実際に畑で歩き、青空の下の浅間山と田園風景、蛙やバッタが跳ねていて、ここはどんな環境演劇が作れるか、いつか台湾にいる演劇家、アーティストを招き、ここでパフォーマンスできるかと想像してみました。
これからの活動に向けた考え
その後、黒岩さんに話を伺い、演劇との出会いから現在農業と劇場を一体化した軌跡がわかった。会話中も「ながの演劇ネットワーク」という話が出て、台湾と日本の架け橋になりたい私にとって、とても重要なヒントです。今後は日本のArtist-in-Residence、劇場などの紹介をまとめて、情報共有のプラットフォームを作りたいです。
大町市にあるArtist-in-Residence「あさひAIR」
一方で、日本の情報を片方に台湾へ輸入ではなく、台湾のことを日本人に伝えたいです。
今回の研修で、台湾映画をはじめとした字幕翻訳者でノンフィクション作家の田村志津枝さんを初めてお目にかかります。
来日後の数年間、私は関心がなかった台湾の歴史や映画に興味が湧いて、日本人の観客と一緒に台湾ニューシネマを鑑賞しました。このように日本で台湾映画を再認識できるのは、台湾映画を日本に持ってきた旗手である田村さんのおかげです。現在、田村さんも台湾の映画や歴史を日本人に紹介する活動を行なっています。台湾人として、非常に感謝しています。
台湾映画《返校》トラゥム・ライゼにて上映
台湾は過去日本の植民地であり、未だに日本文化から影響を受けていて、現在の台湾の若者も日本のことに非常に詳しいです。それに対して、私が日本で「台湾では何語を使う?」「台湾はどこ?」と聞かれた経験は少なくはないです。
しかし、台湾のことを日本語で紹介する時に、自分が育った土地をよく分からないことに気づきました。今後私も勉強しつつ、自分の視点で、台湾の物事や在日外国人をテーマにして、様々な手法で創作したいと考えています。この度、田村さんとお会いできて、温かい言葉をいただいたのが大きな励みになりました。
人が集まる文化の街
上田の滞在期間で、犀の角とその主催イベントを見学して、近くの上田映劇とトラゥム・ライゼも訪れました。
自然、芸術、地元の文化を愛する人々に出会い、彼らは演劇祭、映画のラインナップ、地域の活性化に力を注ぐ姿を見て、なぜUターン、Iターンの若者がここに続々集まる理由がわかる気がしました。今後、日本国内ではなく、海外の人も芸術文化の街・長野に集まってくると感じます。また、自分の創作や企画が長野の文化芸術活動に繋げていけるように積極的に取り組んでいきたいと思います。
鄭 禹晨 Tei Ushin(編集者)
1993年台湾・台北生まれ。台北芸術大学映画学科卒業。2016年来日、東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻研究生を経て、2018年より訪日・在日外国人向けWebメディア会社に入社、企画・翻訳・編集を担当。アートツーリズムを企画する傍ら、都市や異文化をテーマにした演劇、映像などのアートプロジェクトに携わっている。