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【上田】滞在レポート by 岡澤 由佳 _ 生きることとアートの呼吸〜Breathe New Life

はじめに

 こんにちは、岡澤由佳です。私は現在、東京の大学に在学しながら舞台芸術への関わり方を模索しています。自分で演劇作品を制作をしたり、芸術祭のインターンスタッフをしたり等、東京で様々な活動に関わってきました。 今回の参加理由はそれらの活動の中で、原点である長野県の舞台芸術について実践を通じて学びたいと思うようになったからです。私が演劇や合唱を始めた地元・長野県のいまを知りたい。そして、この先の自分の生きる時間をどんな形で舞台芸術に割いていきたいか考えたい。そうした思いから参加を決めました。

大町と作品と、自分自身

 北アルプス国際芸術祭に足を運びました。大町市内の5つのエリア(市街地エリア・ダムエリア・源流エリア・仁科三湖エリア・東山エリア)のうち、私は一日目に東山エリアと仁科三湖エリア、源流エリア、二日目に市街地エリアを訪れました。尋ねた作品をまとめたものが以下のリストです。

一日目
~東山エリア~
目[日本]/信濃大町実景舎
菊地良太[日本]/尊景のための展望室
ヨウ・ウェンフー(游文富)[台湾]/心田を耕す
青島左門[日本]/いのちの記憶
持田敦子[日本]/衝突(あるいは裂け目)
~仁科三湖エリア~
杉原信幸[日本]/アルプスの玻璃の箱舟
マーリア・ヴィルッカラ[フィンランド]/何が起こって  何が起こるか
淺井真至[日本]/おもいでドライブイン
木村崇人[日本]/水をあそぶ「光の劇場」
~源流エリア~
マナル・アルドワイヤン[サウジアラビア]/私を照らす
エマ・マリグ[チリ / フランス]/シェルター -山小屋-

二日目
~市街地エリア~
コタケマン[日本]/Newま、生ケルノ山
原倫太郎+原游[日本]/ウォーターランド~小さな大町~
渡邊のり子[日本]/今日までの大町の話
布施知子[日本]/OROCHI(大蛇)
ボウラ・ニチョ・クメズ[グアテマラ]/自然の美しさと調和
麻倉美術部[日本]/ひみつの森
ニコラ・ダロ[フランス]/クリスタルハウス
蠣崎誓[日本]/種の旅

 こうしてリストアップしてみると二日の間にこんなにも数多くの作品と出会ったのだなと感じます。一つ一つに感じたことは書ききれないほどあるのですが、全体を通して特に印象的だったことを2つ記しておきたいです。

 一つは、大町という土地と作品の調和です。大町に住むアーティストだけではなく海外のアーティストも含め、大町という土地に存する意味を感じられる作品が多かったことが記憶に残っています。なかでも、ボウラ・ニチョ・クメズ[グアテマラ]/自然の美しさと調和 はアーティスト自身の手法で大町を描いていました。解説にもあったような、大町の自然を愛する気持ちが表れた晴れやかな絵画でした。作品を見た時、思わず自分自身が眺めてきた大町の山々など自然を思い起こしました。

 もう一つは、大町の自然と自分自身の身体が調和する感覚です。作品に対峙する時、大町に調和する作品を通して自分の身体が馴染んでいく感覚もありました。それだけではなく、作品に向かう際にもそうした感覚があったことを覚えています。作品がある場所には入り口に芸術祭の青い旗が立てられているのですが、それを目印に向かっていく際にふと、吹く風を肌で、川の流れを耳で感じました。

都会と上田の街と上田の自然

 上田市の劇場/ゲストハウスである犀の角にて、犀の角が場としてどう成り立ってきたか、また上田という地域についてお話を聞きました。自己紹介を経て、犀の角の荒井さんと参加者の大宮さんと私は共通して「舞台芸術」と「地域で生きること」の関係性に関心があることが分かりました。三者三様の舞台芸術との関わり方・生き方なのに、いやむしろ、だからこそ、このようにお話しできたことが貴重な体験でした。

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 午後は別所神社神楽殿や常楽寺へ。上田の街を抜けて高台に位置する境内にたどり着くと、都会でこわばった身体がのびのびと呼吸をし始めるような心地がしました。向かう車内で便利な都会で生きることや不便な田舎で生きることを選び取るということなどについて話題に上がったためかもしれません。特に、常楽寺の石造多宝塔がある辺りは一歩足を踏み入れた瞬間に空気が変わったのを感じました。しんと静かで、しっとりした湿気が少し冷たく心地いい。

松本の街と人と舞台芸術

 今年度から始まったフェスタ松本にも足を運ぶことができました。劇場のホールだけではなく、そのロビーやオフィスビルのスペースやカフェなど街中の至る場所が上演空間になっていました。中でも印象的だったのは、フェスティバルの最後の演目として上演された『月夜のファウスト』です。17:00開演で、場所はあがたの森公園。野外、しかも肌寒い気温の中、4~50人が上演を見届けていました。ゲーテの『ファウスト』に串田和美さん自身の経験を織り交ぜて語る一人芝居はさながら悪魔がもたらした幻のようでした。コロナ禍の今だからこそ始まったこのフェスティバルの一催しにこうして人が集い、上演が行われている。幻のように奇跡的で一瞬ではあるけれどこれが実際に起こっているということに、ほのかにけれど確かに希望を感じました。

おわりに

 このレポートを記すにあたって、言葉にできたことは本当にわずかな一部分であると感じます。それほど、滞在期間中の出会いやお話しできたことは私にとって大切なものです。
 この滞在を経た今、これから先も暫くは舞台芸術に携わって生きていきたいと思っています。鑑賞するだけでなく、表現することも止めません。そしていつか、この経験を授けてくれたこの土地や人々に手渡せるものをつくり出せる人間でありたいです。それまで、呼吸を続けます。

岡澤 由佳 Okazawa Yuka(学生)
長野県松本市生まれ。中学入学を機に演劇部と合唱団に入り、中学高校と演劇をつくること・歌うことに取り組む。大学入試を終えた翌日に『K.テンペスト』を観に行き、演劇にまた心惹かれる。大学入学後の2017年から2021年まで劇団コギトで創作を行う。また、2018年散策者の発表会 vol.1 から散策者に携わる。

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