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ご挨拶
ネットパトロールをしているボランティア団体、ひいらぎネットの永守すみれと申します。2024年6月8日に放送されたNHKスペシャル「調査報道・新世紀 File3 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇(前編)」に取材協力をさせていただいたところ、たくさんの反響をいただき今回記事を書くことにしました。
放送に関して自分の言葉で補足したいと感じたことも書きますので、ぜひ「☆放送への補足」の部分だけでも読んでいただけたら嬉しいです。
また、この記事自体は最後まで無料で読んでいただけますが応援したいと思ってくださった方がいたら、下部にあります「この記事へのサポート」からご支援していただけたら励みになります。
私自身のこと
平成元年生まれで、二人の子どもの母親です。自身も10代の頃に性的な被害にあい、同じような悲しみや辛さを味わう人が出ないで欲しいと思っています。
ひいらぎネットはどんなことをしているのか
Xやdiscord、telegramといったSNSや掲示板など、ネット上には性的加害を記録した画像や動画が投稿する人がいます。ひいらぎネットは、そうした画像の拡散を防ぐため、関連機関に通報したり被害者の相談にのったりする活動を行っています。
このような投稿は未成年者が被害者になっていることも多く、どうにかして被害をとめなくてはという危機感と「被害者も加害者もうまない」という志をもった女性有志で集まり、約3年にわたって活動を継続しています。
性的な被害画像や動画に関する問題を中心に活動しているため、若年層の女性が被害にあっているケースを発見することが多いですが、男性が被害者になっている例のご相談も受けてきました。
きっかけとなった投稿
XがまだTwitterという名前だった頃の話です。私のタイムラインに衝撃的な投稿が流れてきました。
「高校内での盗撮を販売しているアカウントがあるので、一緒に通報してください」
投稿者に通知がいかないように、引用リツイートではなくスクリーンショットが張られていたのですが、そこにあったのは着替えをしている女子生徒さんの画像と購入希望者はDMへという言葉でした。画像にはモザイクがかかっていましたが、モザイク越しでも強い衝撃を受けました。通報を呼びかける投稿にはアカウント名も書かれていたので検索してみると、モザイクのかかってない写真とともに、購入を呼び掛けるその投稿が確かに存在していました。
盗撮って、こんなところでもおきているの?
こんなに堂々と売られているの?
私はそのときまで盗撮というものはアンダーグラウンドな世界でひっそりとやりとりされるようなもので、被害も混雑する都会のターミナル駅のようなところで起きているというイメージをもっていました。
しかしその投稿で、私がもっていたそうしたイメージと社会に対する信頼感に大きなヒビがはいりました。
私がネットパトロールをはじめたのは、この一つの投稿がきっかけだったと言えます。
娘の存在
盗撮の投稿を見過ごすことができなかったのは、娘の存在も大きく影響しています。
今はまだ幼いこの子も、きっとあっという間に中学生、高校生になる。
被害にあっている女子学生は、数年後の自分の娘かもしれない。そう思うと、この状況を見なかったことにすることはできませんでした。
彼女がこれから何十年も過ごしていくであろうこの社会がこれでいいのか?
いや、こんな状況は絶対に変えなくてはいけない。
この気持ちは活動を始めた当初から今までずっと変わっていません。
私は、祖母や母が子供のころと比べるとずいぶん治安のいい時代に子ども時代を過ごすことができました。それは、その時代の大人たちが少しずつ社会をよい方向へかえていってくれたからだと思っています。私も今より少し良い社会を作って次世代にわたすリレー走者の一人でいたいなと考えています。
続くいたちごっこ
当時のTwitterにも通報機能はあり、私は見つけた盗撮画像やアカウントをその機能を使ってTwitter社に通報していました。この通報はスマートフォンを何回かタップするだけで可能で、見つけては通報し、たまに凍結のお知らせが届いて胸をなでおろす……ということが続いていました。
しかし、しばらくするとあることに気が付きました。凍結したはずのアカウントが復活しているのです。
アカウント名の後ろについている数字が大きくなっていたり、プロフィール欄に「元○○の新しいアカウントです」と書いてあったり……何度も何度も復活して、投稿を繰り返していたのです。
も ちろん中にはお金が絡まない投稿もあるのですが、盗撮画像や動画を投稿しているアカウントは画像や動画を販売しているものが少なくありません。一つ数百円~高くて数千円程度ですが、それでも購入者が多ければ、少なくない金額が販売した人の手にわたることになります。
無料で使うことができ、また簡単に複数のアカウントを作れるSNSでは、凍結することはもはや前提で、事前に「避難用アカウント」や「凍結用」のアカウントを用意していることも珍しくないのです。
また、一度バズった画像や動画は
「あの動画もってます。欲しい人DMください」
「例の動画売ります」
と、最初に投稿した人とは別の人が転載や転売をするようになります。
そうしたいたちごっこの状況に、私は次第に無力感を感じるようになりました。
ポルノじゃない、これは犯罪記録物だ
プラットフォームに通報することも、決して無駄だとは思いません。拡散を防ぐことになりますし、何度も凍結するうちに投稿をやめる人もいるかもしれません。
しかし、これだけでは根本的な問題解決にはなっていないのではないか……という思いが日に日に強くなりました。
盗撮投稿にいいねボタンを押したり、称賛のコメントをしたりしている人にとっては盗撮画像や動画はポルノなのでしょうが、実態はれっきとした犯罪記録物です。根本的な問題解決のためには、警察が事件として取り締まる必要があるのではないかという結論にいたりました。
犯罪なのだから警察に通報しよう、これはしごく当然のことに思えるかもしれませんが、実際に通報をしようとすると、いくつもの壁がありました。
通報の難しさ
当時の私は想像もしていなかったのですが、世の中には成人女性に高校の制服を着てもらい盗撮風の画像や動画をとる「ヤラせの盗撮風ポルノ」が存在します。そういったものはよくアダルト系の動画販売サイトで販売されているのですが、発見した画像や動画がそのようなポルノ作品ではなく被害者がいる犯罪行為によるものであるという確証がないと、なかなか警察は事件として捜査することができません。
同様のハードルはいわゆるリベンジポルノに該当する画像や動画にもあり、これが一つ目の壁でした。
また2023年に撮影罪が制定されるまでは、盗撮に関しては各都道府県の迷惑防止条例によって取り締まりの対象になっていて、特に県を跨ぐような電車の中など、どこに通報したらいいのかわからないケースもありました。
電話越しに口頭でURLを伝えるといったこともそれまで経験したことがなく、最初はとても苦戦しました。
どうしたらいいんだろうと頭を悩ませていた時、私はまた衝撃的な投稿と出会いました。
被害児童に忍び寄る影
「この動画に写っている子のSNSのアカウント特定してくれたら、動画+謝礼あげます」
その投稿は、通報の効率をあげるために作った閲覧専用の「潜入アカウント」に流れてきたものでした。
そんなことをするの?できてしまうの?
私はスマートフォンを持ったまましばらく固まってしまいました。被害画像を投稿されるだけで被害が終わらないということに、加害者が子どもたちにジワジワと迫っている事実に、どうしようもない恐怖と絶望を感じました。
もし、それで脅迫されたら?個人が特定できる形でさらされたら?身体的な被害にまで発展してしまったら?それまでとはレベルの違う危機感を持ちました。
こんなことがおきているなんて!と衝撃を受ける一方で、あるアイディアが浮かびました。
被害者が誰なのかわかれば……これがポルノではなく被害者がいる画像や動画であるとわかれば、警察も動けるのではないか。
あの投稿が私に与えたものは、恐怖だけではなかったのです。
それまでただただ、おぞましい、気持ち悪い、と思ってみていた画像を、どうにか心を落ち着かせ冷静に見てみると色々な情報が隠されている場合があることに気が付きました。
加害者側は被写体の個人まで特定しようとしているようでしたが、私はそこまでする必要はありません。どこの学校かわかれば学校に電話できますし、場合によっては自治体の教育委員会に伝えるという方法もあります。
動画プラットフォームで販売されていた駅構内で女子高校生を盗撮している動画の通報が、はじめて盗撮犯の逮捕に繋がった通報でした。
仲間との出会い
他のボランティア活動をしている男性が、同じように通報活動をしている女性とひきあわせてくださったのが、ひいらぎネットのはじまりでした。彼がいなければ、私は心がおれて活動をやめていたかもしれません。
子どもが被害にあっている画像や動画を見ることは、今でも慣ることはありません。ひどい投稿を発見した日の夜は、なかなか寝付けなくなってしまうこともあります。
それでも続けることができているのは「被害者も加害者もうまない」という同じ志をもった女性たちとの連帯があるからです。
残念ながら、ネット上には児童に対する加害画像や動画が今も投稿され続けています。この終わりの見えない問題に私は一人では向き合い続けることはできなかったと思います。
メンバーには本当に感謝しても感謝しきれませんし、彼女たちの仲間になれたことは、私にとって大きな誇りです。
メディア出演
2021年の12月、Abemaの盗撮に関する生放送に出演したのが人生ではじめてのメディア出演でした。
きっかけは私の潜入用のアカウントに「盗撮する人」として番組に出てみないかと一通のDMが来たことでした。実はこのアカウントはネットパトロールの潜入用のアカウントで……と説明をしたところ、ではパトロールする側で出演してみませんかとご提案頂き、放送に出ることになりました。
そのときに、何か肩書があった方がいいかもしれないと、ひいらぎネットの「代表」として出演したのですが……実際はリーダーシップがあるわけでもなく、いつもメンバーに助けてもらってばかりです。
顔出しをしてメディアに出ることは不安もありました。正直に言えば今でも不安はあります。ですが、子どもがいる女性がやっていることがわかれば通報した学校、被害者や保護者の方に少しでも安心してもらえるかもしれないと考え、顔出ししてメディアに出ることを決めました。
元々人前に出ることや話すことはあまり得意ではなく、取材をうけた後は毎回「うまくできなかった……」と落ち込んでいます。それでもまとまりのない私の話を簡潔にまとめてくださるプロの仕事には毎回驚かされています。
メディアに出たのはこうした全くの偶然がきっかけだったのですが、少しずつお声をかけていただく機会が増え、先日放送されたNHKスペシャルにも取材協力という形で参加させて頂きました。
同世代~自分より若い世代の女性ディレクターたちがこの問題を徹底的に取材している姿に、私自身強くエンパワーされました。被害を直視する取材は精神的に大きな負担があったと思いますが、数か月にわたり粘り強くこの問題を追い続けてくださったことを感謝するとともに、尊敬の気持ちでいっぱいです。
宣さん、二階堂さん、村山さん、大間さん 本当に本当に、ありがとうございました!
また、番組の最後に流れたスタッフロールを見て、他にも多くのスタッフの方が番組に携わっていることを実感しました。今回かかわってくださった全ての方にお礼を申し上げたいです。
「SNSコミュニティー」で広がる子どもへの性的搾取の実態に迫った番組の内容がまとまったNHKさんの記事もありますので、こちらも読んでいただけたら嬉しいです。
☆放送への補足
NHKスペシャルの最後の方で「私としては小石の裏の虫というよりはカビの胞子みたいだなと思っていて」という言葉を語っているのですが、それについて私の言葉が足りず、私の考えと少し違った形でとらえている方もいるようなので、この場で少し補足させてください。
この言葉は、ものすごいスピードで拡散していく画像や動画をカビにたとえたものであり、加害者になった人や小児性愛者を虫やカビにたとえたわけではありません。児童に対する性加害行為は許すべきことではありませんが、罪を犯してしまった人も、罪を償ったあとまたこの社会でともに生きていく一人の人間です。
日本では、被害者ケアはもちろんですが、加害者に対するアプローチやケアの意識もまた弱いように感じています。難しい問題ですが、加害者を再び加害者にさせないことが新たな被害をうまないために必要なことだと思っています。
また、番組への感想で「警察は何をしている」といった感想もちらほら見かけたのですが、実際に活動をしている中で関わった警察官はどなたも真摯に話をきいてくださり、いつも大変感謝しています。
私たちは通報するまでしかできず、その後逮捕が可能なレベルで証拠を集め、令状を請求し、実際に加害者と対面して逮捕までするという膨大な事務作業とリスクを担っているのは一人一人の警察官の方です。
地域やそこに住む子供の安全を昼夜問わず守ってくださっている警察官のみなさんには、本当に頭が下がる思いです。
今後について
私たちはこれからも、この活動を地道に続けていきます。
警察の内部にこうしたことを専門に扱い、積極的に発見し摘発していく部門ができたらベストだと思うのですが、それまでは誰かが発見して通報しなくては、被害拡大をとめることは難しいと思うのです。
これまで警察や学校への通報の電話などの通信費、交通費など全て自分たちの身銭をきって活動をしてきました。学校や警察への電話は長いと一回数十分にも及び、思った以上にお金がかかります。
またパトロール用の資料などがあれば、もっと効率的に通報ができるのにと感じることもあります。
今回放送後に寄付をしたいというお申し出を何件か頂いたのですが、そうした窓口をこれまで用意しておらず、どうしたものかと悩んでいました。
素人の文章ですし、読みづらい部分あったかと存じますが、もしよかったらこの記事を通して応援してもらえたらありがたいです。
個人的なことになりますが、いつも見守り応援してくれている家族にもあらためてこの場をかりて感謝の気持ちを伝えたいです。本当にありがとう。
最後までお読みくださってどうもありがとうございました。拙い文章でこのようなことを申し上げるのも恥ずかしいのですが、記事の無断転載などはご遠慮いただければ幸いです。
ひいらぎネット代表 永守すみれ
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