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七つ目の話題「こだわりって何?」

人それぞれにある「こだわり」
それって一体何者なのかを、私の頭の中の男子高校生2人が話し合っております。
彼らにとって「こだわり」とはなんなのか。
高校生の出す答えを覗き見していってね。


「ねぇ、ヨウちゃん」
「うん?」
「これは…何かな?」
シロが指差す先にあるのは俺が書いたシロの肖像画。
「何って、シロだけど」
「いやまぁ聞かなくても分かってたんだけどさ、だって俺とペアだったもんね。相手の顔描けって言われてんだから、俺に違いなんだけど…にしても、何これ」
それ以上首曲がんないよってとこまで傾けるシロ。
そんな反応をされるとは思っていなかった。
「そっくりだと思ってたんだけどな」
「…ちなみにどこら辺に自信があるのか聞いてもいい?」
「え?そうだな、大きな目とか?」
「これ大きいんだ…」
「それと柔らかそうな髪」
「…柔らかいというか爆発してるというか」
「そんなに変かな?」
「いや、その、う〜ん」
明らかに目を逸らすシロ。
「あ、あのさ」
「うん」
「ヨウちゃんのこだわりって何かな?」
「…それは、この絵に対しての?」
「うん?あぁそっか。いつもの質問みたいになっちゃったね」
「そっちなの?」
「うん、そっちにしよう」
シロの目はチラチラと俺の絵を見ている。
きっと絵のこだわりを聞きたかったんだろうけど、そんなもの「シロの可愛さを表現するのをこだわりました。」としか言いようがない。
そんなことを正面から伝えるのは恥ずかしかったから、逸れた方の話題がいい。
ここは乗っておこう。
「俺のこだわりは…って、改めて考えるとすぐには思いつかないな」
「無いの?」
「う〜ん。無いってことはないよ?頭から洗ったり、家に帰ったらすぐにコンタクトを外したり、必ずそうしてるってことならたくさんある」
「それってこだわりとは言わないの?」
「…うん。それが出来なかったとしても特に何も思わないから」
「こだわりの場合は、出来ないと嫌な気持ちになるのかな?」
「そういう人もいると思うよ」
今日の質問の答えは、俺の中にはどうやらないのかもしれない。
そうすると、この話し合いの中で考えていくしかない。
「こだわりって、好きだからこだわりがあるのかも…?」
「好きだからこだわり?どういうこと?」
もしも話が逸れずに『この絵のこだわったポイントは?』って聞かれていたら、俺は即答できた。
好きな人を描くとなれば、こだわりたいと思うポイントが自然と浮かんできた。
でも仮に『空の絵を描いて』と言われたら、絶対に外せないというこだわりは浮かんでこなかったと思う。
って、これどうやってシロに説明したらいいんだろう。
「ええと、なんていうのかな」
「…もしかして俺でいう、おにぎりは絶対ツナマヨ!!みたいなこと?」
「えっ…あ、そう…だね」
確かにシロは必ずツナマヨを選ぶようになった。
夕日が綺麗だったあの日から、必ず。
言われてみれば、俺よりもよっぽど人に説明しやすいこだわりを持ってるのはシロの方だ。
「俺のこだわり思ったよりも近いとこにあったんだね」
「ツナマヨがコンビニに置いてなかったら少し機嫌悪くなるもんね」
「うん。妥協してシャケとか選びたくないもん」
「俺には思い浮かばなかったこだわり、シロにはあったね」
「…ヨウちゃん?」
顔を覗き込まれてハッとした。
最近シロと話すたびに、自分がどんどん黒く染まっていく気がする。
『どこにも行かないで』と、真っ白なシロのことを引き止めようとしている自分がいる。
そんなんじゃないのに。
色んな色を知って、色んな場所へ行って、目を輝かすシロを見たいはずなのに。
「そろそろ絵出しに来いよー」
「あ、俺も完成させないと。えっと、ヨウちゃん大丈夫?」
「…うん」
俺の肖像画を描き上げるために、シロは真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。
(そっか)
そんな真っ直ぐな瞳の中に、無いと思ったはずの俺の中の『こだわり』への答えがあった。
俺はずっと『こだわり』が欲しかった。
シロにとっての〝絵〟みたいな。
こんな誰も入って行けないような透明な瞳を、俺も持ちたいと思ったんだ。
でも俺にはここまで澄んだ瞳で、熱く向き合いたいと思える何かなんて無かった。
いや、今も無い。
だから俺の人生は何かが〝また〟崩れたって、何も問題はない。
それがずっと虚しかった。
透明から真っ白に染められてしまったシロのことを、どこかでほんの少しだけ羨ましいと思っていた。
シロにはそこまで自分が崩れるような熱くなれる何かがあったってことだから。
そんな絶対に口に出したくない答えを、大好きな人の瞳の中に見つけてしまった。
「…ヨウちゃん、なんで泣いてるの?」
「…え?」
暖かい手が俺の頬を撫でた。
なんで、泣いてるんだ俺。
こんなにも幸せな時間に、夢だと思っている時間に、涙なんて必要ないのに。
「ヨウちゃん?」
「…花粉、のせい」
「え?」
「目が痒くてさ。ほら絵描かれてるから、目閉じないほうがいいかな…って思って」
「…ふぅ。…そっか!!もう!!もしかしたら俺ヨウちゃんが目閉じてるとこ書いてるかもしれないでしょ?聞いてくれたら良かったのに」
無理に明るくさせているのが伝わってきてしまう。
ごめんシロ。
最近、上手く話せなくてごめん。
…でも、ありがとう。
「目、閉じてるとこ書いてるの?」
「いや空いてるとこだけど」
「じゃあまだ目開けとかないと」
「いいよ。ヨウちゃんの目なんて見なくても描けるから」
「っ…」
こんな言葉ばかりをシロには求めてしまう。
少し前までは浮かびもしなかったシロへの真っ黒な気持ちたち。
そいつらがだんだんと膨らんでいく感覚が確かにある。
俺の中での『こだわり』がシロだけになろうとしている。

それにどう向き合えばいいのか、俺には少しも分からない。

~続く~
⇒八つ目の話題「求めるって何?」

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