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十一個目の話題「終わりが来ると信じて。」

前回お別れを迎えたヨウとシロ。
ヨウの大学生活が始まります。
『死にたいと思いながらポジティブに生きる。』
シロと再びその言葉について話し合うまでのヨウの歩む道をどうぞご覧ください。


シロが居ないなら何もかもがどうでもいい。
とは、ならなかった。
どうせなら美味しいご飯が食べたいし、着るものだって見栄えがいいものを選びたい。
やっぱり帰ってすぐにコンタクトは外したい。
面倒くさいからってメガネをかけて外出しようともならない。
その日常に大切なものが欠けてしまったとしても、全てを投げ出すことはなかった。
「陽くん、おは〝よう〟」
「…毎日飽きずに強調してくんなって」
「だってこれした時最初笑ってくれたじゃん」
「最初はな?普通3ヶ月続けないんだよ、ほとんどの人は」
「えー?そうなんだ。私気に入ってるもん」
「気に入ってなきゃ怖いよ」
大学生活が始まって早いことに3ヶ月が過ぎた。
桜はすっかり散ってしまった。
けどこの3ヶ月俺の隣に居る人物はずっと同じだ。
永野光莉、高校生の頃にクラスメイトだった女子。
…そして、俺にラブレターを渡した人物。
「ねぇ陽くん、今日パフェ食べに行こうよ!」
「パフェ?どこの?」
「駅前の!!なんかね、カップル割なんてものがあるらしいのよ」
「光莉…ほんとそういうのすぐ見つけてくるよな」
「うん。だって甘いもの食べるの好きじゃん!私も陽くんも」
光莉が大学の入学式で声を掛けてくれて、その帰りに寄ったカフェで甘い食べ物トークで意気投合した。
ラブレターの件は一切話していない。
けど、俺から触れようとは思わないし、何より一緒に居るのが楽だ。
このまま甘い物食べに行ける関係が続くなら…それ以上に望むことはない。
「…あれ?雨?」
「うわ、まじか。走るぞ光莉」
「うん!!…ちょっとちょっと!!いきなり強くなんじゃん!!!」
いきなり降り出した雨を凌ごうと近くのコンビニまで2人で走った。
「っ、はぁ…はぁ」
「はぁっ…まじ、なんで急に?」
「…わかんない、っ…予報雨じゃなかったのに…」
「…まぁ…7月の天気なんて、こんなもんか」
そろそろ梅雨も終わりに差し掛かってた時期の急な雨なんて、光莉の言うように確かにこんなもんだ。
もはや折り畳み傘すら持ってない人間の方が悪いまである。
「光莉、傘って…」
「ないよ!あったら走る前に言うって」
「だよな。あー、この中歩きたくねぇ…」
「…」
「光莉?」
「ねぇ、陽くん」
「何…?」
何やらニヤニヤしながら俺の袖を掴む光莉。
まぁ嫌な予感しかしない。
「パフェやめて、大学も今日は一旦やめといて…あっこ行かない?」
「…まじで言ってる?」
「うん、大マジ。めっちゃ行きたくなっちゃった」
光莉の指さす先にあるのは、ここから走って10秒以内にある猫カフェ。
こんな早い時間からやってることもビックリだが、あっさりサボりを提案してくる光莉にも驚いた。
「いいの?俺ら今のところ真面目で通ってるよ?」
「いいっていいって。真面目で通ってるからこそ一回ぐらい大目に見てくれるよ」
「甘過ぎ…」
「甘党が何言ってんだよー。自分に甘くしてこそ真の甘党じゃん?」
「…まぁ、一理ある」
「ほらね?はい。また走るよー!」
猫カフェ目掛けて走り出した光莉を追いかける。
こういうところが一緒にいて楽な理由だ。
俺のことも、光莉自身のことも…光莉は否定しない。
だから俺は俺でいて、光莉は光莉でいる。
なんというか…シロといた時は、そうではなかった。
でもあの時間が恋しいかと聞かれたら、もちろん恋しい。
「…え、ちょっと。語彙力失うんですけど?」
「まだ入ってもないよ。」
「いやだって見なさいよあのモフモフ。今から触れていいんだよ?」
「猫カフェの猫餌持ってないと来ないイメージあるけど」
「陽くんったら…確かにそのイメージあるわ」
「共感力高いな」
「うん。不思議と意見合うからなー」
「…それは、うん同意する」
「まじ!?じゃあ、どの子が一番可愛いか選手権もしようね」
ウキウキな光莉と一緒に受付に行って注意事項を聞いた。
いよいよ入るって時に言われたばっかりにも関わらずピアスつけたまんまな光莉。
「光莉、これ外さないと」
「っ…あ、ごめん!ありがとう」
「うん?」
思わず耳を触ったのがいけなかったのか顔を背けられてしまった。
「ごめん。嫌だったか」
「違くて…ちょっとビックリしただけ!」
「そう?」
「うん。ほら!外したから早く入ろ?」
光莉に手を引かれてソファに座った。
「あらあら?陽くん、これは…中々」
「中々だね」
座ってすぐに猫たちが近寄ってくれた。
こういう時に気づく。
偏見は良くない。
「うはぁ〜かわよ…しかもモフじゃん」
「モフだね…」
おまけに機嫌よく触らせてくれる。
気分屋な猫にこんなにおもてなしされると嬉しい。
「あ、早速やろうよ。どの子が可愛いか選手権」
「これで一致したら流石にすごいよ」
「そうだね。一緒に猫飼えちゃうもんね」
「…シェアハウスでもするつもり?」
「え?あー、いや。出来ちゃうけどね?」
「まぁ、出来ちゃうね」
「…シェアハウスは一旦いいの!猫ちゃんたち見て、ほら」
光莉に肩を押されて周りを囲む猫たちを見る。
どの子も綺麗で、可愛い、それにモフモフ。
これはよりどりみどりすぎて…悩む。
「…私決まっちゃったな」
「え、はや。ちょっと待って」
「あら。陽くんったら悩んでんだ。浮気性だなさては」
「違うよ。浮気も何もまだ心に決めた子がいないだけだから」
「気がないのに誑かしてんの?そんなお膝で寝てくれる子もいるのにー」
「いや…確かに可愛い」
「お?じゃあその子?」
「…ちょっと待ってって」
待ちきれ無さそうな光莉を止めて、もう一度店内を見渡す。
寝てる子、別のお客さんのところで餌をもらってる子。
黒い子、模様が可愛い子。
一番って、決められんかもしれん。

「…!」

決められないわ、って言おうとしたその瞬間に見つけてしまった。
お店の隅っこで窓の外をぼーっと見つめる真っ白な子。
外を見つめる瞳に光が当たって、キラキラと輝いて見える。
「…陽くん」
「え、あ…うん?」
「私のお気に入りの子返して…」
「えっ?あ、いつの間に」
さっきまで光莉の膝にいた子が、俺の膝の上にいた。
というかさっきまでいた子がどっか行ったことにも気づいてなかった。
「あの子、気になるの?」
「…え?あ、うん」
「そっか。あとでお話ししに行こうね」
「お話しって…1人が良さそうだからいいよ」
「…そうなの?」
「うん。きっとそうだよ」
真っ白で、隅っこに1人でいる。
それに誰を感じたかなんて、そんなことは言葉にしなくても分かってる。
でもきっと終わりが来る。
そんなことも感じなくなる。
きっとそう。
俺が居なくても1人でも大丈夫なんだ。
…もしかしたら俺じゃない誰かが良かったのかもしれない。
「わ、いいなスリスリされてる」
「ふっ…なんかこの子光莉みたいだよ」
「うぇっ?どこら辺が!」
「んー?自由気ままなところが」
「…そうかな」
俺の膝の上でくつろぐ猫を撫でる。
今はこの暖かさがあったらそれで幸せだと思える。
…終わりがあったとしても、今そう思えるならそれでいいんだと思う。

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