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言葉って面白い。ドイツ語のヒント「おしゃべりなドイツ語」著・綿谷エリナ(左右社)

弊社のメディアパーソナリティ綿谷エリナで本を上梓した。詳しくはこちら↓
https://note.com/sayusha/n/n27d71c3371cb
ドイツ語を学ぶすべての人々にとって、これほど面白いエッセイは近年なかったという大評判の書籍になった。

実は、彼女は世界的にも稀なマルチリンガルタレントである。なんと8か国語の素養がある唯一無二のタレントだ。バレリーナを目指していた彼女のしなやかさは、体だけでなく脳も相当なしなやかさである。よく言われることだが「どれだけ優秀な脳なのでしょう」とか「きっと3か国語覚えたあとはするすると他の言葉もはいるんですかね」とか言われることがある。

私の経験上、そのスルスルというのはどんなに優秀な人であっても正直あまりない。語学のスキルというのはUse or Loseですこしくらいかじっただけではどんどん忘れてしまうものである。つまり対話の経験の積み重ねが必要だ。それを保つというのが実は大変なのことである。なんというか、勉強というより、楽しんでいる人や、必要に迫られている人は、脳や体に入っていきやすい。しかし、対話で使わないと誰でもその言語の音、語彙、感覚が離れていく。残念ながら。人は忘却の生き物であるから。

言葉は人が人としての文明を発展させてきた大事な道具であるし、
言葉によって、人は命をだれかにつないでいくともいえる。

あのヘレン・ケラーは目も耳も口もきけなかったが、アン・サリヴァンという教師と出会い、大学まで卒業してバチェラー・オブ・アートを修めた初めての盲ろう者だ。
私が子供のときヘレン・ケラーはまだ生きていて、「奇跡の人」と呼ばれていた。その三重の障害があっても、彼女は言葉を覚え、女性のため、障碍者のため、労働者のため、人権の自由のためにその奇跡の言葉を使った。

そう、言葉は使い方によって奇跡を起こすのだと思う。


私がドイツ語を学んだのは、必要に迫られて・・・がきっかけだった。夫がドイツ人で、向こうの家族はほとんどがドイツ語。オランダ語、フランス語という大陸の言葉を使う人もいる。家族になるというのは、様々な場面でやはりその母国語を必要とする。しかもほとんどは教科書にでてこない使い方で。そのたびに、なんだその使い方はと、体あたりで吸収した。資格試験などはもう序の口で、そのあとの実生活での「対話」こそが人の言葉の力を伸ばすと実感している。一人きりで机の上にかじりついて学んでも、言葉の本質に触れられない。

この「おしゃべりなドイツ語」は28年間ドイツに暮らし、ベルリン自由大学で主席をとった綿谷エリナが、自分のルーツである日本に向けて、日本語で書いたドイツ語学習を「たのしく」するためのヒントが満載の本である。
言葉の本質は「対話」の中にあり、一人でしゃべり続けるわけでもなく、相手があってどう切り返せばいいのか、どうフォローすればいいのかを、「楽しく」「いい空気」を醸し出しながら、「連続」していくことに妙味があるのだと、綿谷は教えてくれる。

そして、そんな彼女の声をオーディオでも残すことができて、心から嬉しく思う。声は、言葉の対話性を伝えてくれるからだ。

あなたは知っているだろうか。
生まれてきた人間は、すべてのことばの音をもっているということを。

つまり、私たちは、一つの母国語を学ぶために、多くの音を忘れ、捨てていくのであるという著名な言語学者の理論がある。(その話はまた次回)

日本語にはRの音がない。しかし生まれてきた赤ん坊は持っている。
だから、育つ環境によって、我々はその能力を狭め、母国語に合わせた音を作っていく能力を育てる。だから、母国語以外の言葉を学ぶというのは、得てして、忘却の中にある自身の言葉の音を思い出すことと等しいのである。

ドイツ語学習は難しくない。なぜなら、私たちすべての人間が、もともと持って生まれてきた言葉の音を、もう一度思い出すだけなのだから。

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