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「晴れの日も雨の日も」#63 心の声(臨時投稿/創作小説) #夏ピリカ応募

鏡の中の自分をのぞきこむ。
今日はずっと大事に想っている彼女をデートに誘おうと決めている。
でも自信が無い。そもそも彼女が誘いに応じてくれるかどうかもわからない。オレは鏡の中のもう一人の自分に励ましてほしかった。

大丈夫。きっとうまくいく。

そう言ってほしかった。
でも、鏡の中のオレは実はオレそのもの。オレの心の中にあるもの以上のものは返してくれない。

そりゃそうだ。頼れるものは自分しかいない。自分の道は自分で切り開け。鏡の中のオレはそう言っているのだ。

オレは鏡から離れて、彼女にLINEをうった。
「ビールの美味しい季節になりました。一献行きませんか」
あっさりした文面だ。本当はもっと言いたいこと書きたいことがいっぱいある。でも、彼女はそういうことを好まない。あくまでもあっさり軽く。

待つことしばし、彼女からyesの返事が届いた。

うわー!
マジか!
ホンマに会えるんか!

この時点で、もうオレの心は舞い上がりそうだった。
いや、舞い上がってはいかん。過去にそれで失敗している。
落ち着け落ち着け。
オレは懸命に自分を抑え込んだ。

そうしていつものペースを取り戻したオレは、やってきた彼女とカウンターに並んで座って一献傾けた。

久しぶりに会う彼女。
その笑顔は変わっていなかった。
コロコロとした感じのステキな声も変わっていなかった。

それからオレたちはいろんな話をした。ような気がする。だけど、その内容は何も覚えていない。
よく考えると、オレはずっと彼女の顔だけを見ていた。それだけで満ち足りていたのだ。

そうなんだ。話なんかどうでもいいんだ。
ただ一緒にいてその笑顔をみていることができればそれで良かったんだ。
オレは自分の心の声に気付いた。

そして、さらに気づいた。そうか。今日こうやって自分の心の声に気付けたのは、今朝、鏡の中のもう一人のオレと対話してきたからなんだ。

また彼女と一緒に仲良く楽しく酒を飲めるといいなあ。
彼女が笑顔でいてくれれば、その笑顔を見ることが出来れば、オレにも少し幸せのおすそ分けが流れ込んでくるんだ。

よし、オレは彼女の最強サイコーの酒飲み友達になって、彼女を笑顔にするぞ!
オレは鏡の中のオレにそう誓った。
(892文字)

#夏ピリカ応募

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夏ピリカ応募、ということで、「かがみ」をお題とする創作小説に初チャレンジ! 堅物ながいコーチの意外な一面をご披露?

7/2(土)はいつものながいに戻って投稿します。

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