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言葉の聞き取りを調べる語音明瞭度検査

どうも!!!
長洲ヒアリングのみやたです!!!

聴力検査というと、音のきこえを調べる検査がメジャーですが、実は言葉のききとりを調べる「語音明瞭度検査」も非常に大事なので、今回はその事に触れていこうと思います!!!

語音明瞭度検査とは?


語音明瞭度検査とは、「言葉を聞き取る検査」です。具体的には、「あ」や「き」といった単音節を、どれだけ正確に聞き取れるか、その正答率を調べる検査になります。この検査の結果から、被験者の一番良い正答率(最高語音明瞭度)がどの程度なのかがわかります。仮に同じようなオージオグラム(音のきこえの検査結果)だとしても、最高語音明瞭度も同じような結果になるとは限らないので、言葉を聞き取る検査もとても重要と言えます。

①検査の方法

検査に用いる機器は、基本的にはオージオメーターに内蔵されている事が多く、純音聴力検査で用いられる機器と同じになります。被験者には、聞こえた言葉を書きとるか、復唱してもらい、検査者が記録します。

誤答には、

  • 「あ」と聞いて「う」と聞き取る

  • 「き」と聞いて「なんと言ったか分からない」

など、異なる単音節に聞き取ったり(異聴)、そもそも聞き取る事ができなかったりといった反応が見られますので、それらも忘れずに記録しておくと良いでしょう。

また、単音節を提示する音の大きさについては、純音聴力検査の結果をベースに考えます。参考書などには「健聴者では、閾値上30~40㏈程度大きい音の提示で最高語音明瞭度に近くなる」という事が書いてあります。例えば、4分法50㏈の方に50㏈で単音節の提示は小さく、100㏈での提示は大きいと言えます。ただし、オージオグラムの結果によっても変わりますので、あくまでも目安として覚えておいてください。

そして、純音聴力検査でもありました「マスキング」を使用するケースもあります。純音聴力検査でのマスキング同様、「小さすぎず、大きすぎない音の大きさ」が重要になりますが、使用するノイズの種類によりマスキング効果が異なるため、具体的な数字は割愛します。

また、語音明瞭度検査は閾値上(閾値よりも大きな音を出す)検査のため、マスキングが必要なケースは気導聴力検査よりも多くなります。例えば、「(骨導の値も重要ですが、今回は置いておいて)気導の左右差は30㏈なのでマスキングは不要だったが、語音の提示音圧が閾値+40㏈の場合には70㏈の左右差が生まれる」といったケースがあります。気導での両耳間移行減衰量は約50㏈という事を思い出してもらうと、マスキングが必要だという事がお判りいただけるかと思います。

②注意点

・提示する音の大きさ
注意点の1つ目は、純音聴力検査と同じく、提示する音の大きさに気を付けましょう。提示する音源の始めに「ただいまから~」といった説明が入りますので、その際に、「ビクッ」となる反応がある場合は、一時停止し被検者に「音が大きく響いたりしていないか」を聞きましょう。もし響くようであれば、大きさを下げて再度提示します。その際にも、被検者の反応には注意しましょう。参考書には、純音聴力検査70㏈以上の場合は+20㏈の提示音圧とありますが、純音聴力検査の信頼性や補充現象の有無、音過敏の程度なども考え、被検者の反応には注意することを意識しましょう。

・提示する速度
注意点の2つ目に、提示する速度に気を付けましょう。高齢者や聴力、被検者の性格によっては、聞いた言葉をすぐに書きとったり復唱することが困難なケースもあります。もし、提示速度が速い場合は、一時停止し被検者の反応を待ってから再度提示するようにしましょう。

・被検者の体力や集中力
注意点の3つ目は、語音検査は基本的に、純音聴力検査後に実施する事が多いため、被検者の体力や集中力などにも気を付けましょう。特に、小児や高齢者では集中力が切れたり、眠たくて検査に集中できなくなる可能性が高いので、注意しましょう。

③検査結果の読み取り

言葉の聞き取り検査の結果からは、最高語音明瞭度や日常会話の聞き取り、そして日常生活での聞き取りに関する不便などを予測することができます。ただし、あくまでも予測なので、生活環境によって日常会話の聞き取りや生活での不便の度合いは異なります。

また、正答率が100%に近いからといって「日常生活で不便が無い」という訳でもありません。重要なのは、正答率とその正答率を取ることができる音の大きさに着目することです。

例えば、100㏈で提示すると100%の正答率だが、70㏈だと20%の正答率という事もあります。普段の会話で補聴器を使うなどの手段を用いなければ、話しかける側がとても大きな声を出さなければいけません。また、聴く側としても、日常生活に溢れている音が聞こえなかったり、聞き返しをしないといけない場面も多いと思われます。なので、正答率だけに着目するのではなく、その提示音圧にも着目しましょう。

その他にも(補聴器を検討する場合では特に)「ロールオーバー」の有無にも注目します。これは、提示音圧を大きくすることで、正答率が下がる現象を言い、補充現象により音が過剰に響く事により生じると言われています。また、補聴器の調整を行った際には、補聴器を使用する事によって、最高語音明瞭度が低下していないかも確認しましょう。

④ことばの聴取成績と補聴器使用時のコミュニケーションの状態

標準言語聴覚障害学 聴覚障害学より引用

最高語音明瞭度の値と補聴器の有効性を予測することも非常に重要であり、最高語音明瞭度が高いほど言葉を聞き取りやすくなります。ただし、日常生活上で、有効かどうかは補聴器装用者の主観的な評価も重要になりますので、最高語音明瞭度が低いからといって「あなたには補聴器の有効性が低い」とはならない事に注意しましょう。

語音明瞭度と発話明瞭度の関係

前述にありました語音明瞭度、そして言語分野で活躍されている言語聴覚士の方からするとなじみのある「発話明瞭度」について、それぞれにどのような関係があるのかを少し調べてみたのでまとめてみました。

【聴覚フィードバック】

人は言葉を話すと同時に、自らの声を聞いています。そして、無意識のうちに自分の声の大きさ、発生した言葉の正確さなどを調整しています。周りが騒がしい場所だと自然に声が大きくなったり(ロンバード効果)、言葉を正確に言えなかった時はすぐに言い直しをしたりと、様々な調整が日常生活で行われています。これは聴覚フィードバックといわれ、もし正確に行われない場合には、どのような影響があるのでしょうか?

語音明瞭度と発話明瞭度の関係

自らの経験により感じる事として、聴力が低下している方で補聴器などの手段を使用していない、またコミュニケーションの機会が少ない方の中に、明瞭な発話が見られない事が多く感じます。それは、加齢や病気によって発生発語器官の機能低下も関係していると考えられますが、自分の発した言葉を正しく認識できずに、少しずつ不明瞭になっているという可能性が考えられます。なぜなら、難聴が重度になるほど自分の声も聴きにくくなり、語音明瞭度が低下するほど言葉がはっきりわからなくなるために、聴覚フィードバックが正確に行われなくなるからです。

成人と小児の違い

成人と小児を比較すると、言語の習得をしているかどうかが大きく異なります。成人であれば、補聴器を使用する事により、聴覚フィードバックが正しく行われ、これまでに習得した言語を再学習することができます。これまで不明瞭だった言葉が、明瞭になる事も当たり前の事なのかもしれません。

また、よくあるシーンとしては、補聴器を使用する前と後での声量の違いです。聞こえにくい状態だと大きな声になりやすく、その声量で補聴器を使用すると煩わしく感じるため、大きかった声が小さくなるケースがあります。
一方で、小児では言語学習が不完全なため、補聴器や人工内耳などの補聴手段を使用し一から学習しなければなりません。言葉を言葉として聞き取れるように、インプットを繰り返し、そして自らが発した言葉を聞き聴覚フィードバックを繰り返し行う事が重要と考えられます。実際に、補聴器や人工内耳装用児の語音明瞭度と発話明瞭度の関係性を研究した論文もありました。なかには、同程度の聴力の場合、①補聴手段有②コミュニケーションモードの主体が聴覚③語音明瞭度が高いほど発話明瞭度も高い傾向があるという報告もありました。

今回の内容について色々と調べる中で、大人も子どもも、聴覚フィードバックを無意識にしているため、その重要性に気付きにくいのかなと感じました。(自分の声、生活に溢れる音などを)【聴く】という事がどのように影響するのかは、注目するととても面白く今後も調べていこうと思います。

ちなみに、騒がしい場所で自分の声を調節するロンバード効果について、5歳以降で成人と同様の効果がみられるそうです。

最後に、言語聴覚士が関わる失語症、構音障害、そして語音の聞き取り、発話明瞭度、声量の課題には、もしかしたら聴覚機能が関係している方もいるかもしれません。コミュニケーションに関わる言語聴覚士で聴覚領域が無関係な方はいません。今回の記事を参考に、皆様の職場でできることから取り組んでいかれると幸いです。 

参考文献
同志社大学 赤ちゃん学研究センター (doshisha.ac.jp)
発話明瞭度からみえてくる背景と言語発達 ja (jst.go.jp)
藤田 郁代 標準言語聴覚障害学ー聴覚障害学 第2版ー 医学書院


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国内外11人の言語聴覚士を中心に執筆。このmagazineを購読すると、言語聴覚士の専門領域(嚥下、失語、小児、聴覚、吃音など)に関する記事や、言語聴覚士の関連学会に関する記事を読むことができます。皆さんからの体験談など、様々な記事も集めて、養成校で学生に読んでもらえるような本にすることが目標の一つです。

国内外の多くの言語聴覚士で執筆しているので、言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事を提供することが実現しました。卒前卒後の継続した学習…

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