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木が受け継いできた物語を、暮らしに取り入れる|地元の生木を使った食器づくりに挑む伏木剛さん

地元の木材に込められた物語を、日常に届けたい──。

本来廃棄されるはずだった地元の木材を使い、独学で食器や小物をつくっている人がいます。長浜市の浅井エリアで活動している、伏木剛(ふしき つよし)さんです。

木工に多く使われる乾燥した木材ではなく生木を使い、一つとして同じものが完成しないものづくりを試みています。今回は、仕事と両立しながら自分の作品をつくるおもしろさについて教えていただきました。

完成形が想像できないからこそおもしろい

──  伏木さんはどのような作品をつくっていらっしゃるんですか?

木の器やスプーンなどの食器をつくっています。特徴は、乾燥していない生の木を材料に使っていることです。

ホームセンターで販売されている乾燥した木を使う方法もあるのですが、せっかく山の近くに住んでいて生木が手に入る環境なので、あえて地元の生木を使っています。

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──  乾燥した木材と生木では、完成形がどのように変わってくるのでしょうか。

削る段階でも削り終わった後も、生木は予測不可能なことがたくさんおきるんです。削っていく段階であれば、ひび割れしたり節目が出てきたりするのは日常茶飯事。それらを避けていると、削る前にイメージしていた完成形とは全然違うものが完成します。

それに、生木であれば削り終わった後も変形するんです。乾燥している木材を使うと、制作した形がそのまま完成形になります。一方の生木は水分が残っている状態で制作するので、乾燥の過程で変形していく。だから真円で制作したとしても楕円になったり、予測不可能な変形をしたりします。

生木でつくる場合は設計図を書けなくて、常に木に合わせるしかない。思いどおりに進まないし正解がないことが、生木の難しさでもありおもしろさですね。

──  最近はどんなものをつくっているんですか?

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よく通っている飲食店の方がお皿をオーダーしてくださったので、その制作を進めています。どんなシーンでお皿を使うのかヒアリングして、持ちやすさや具の入れやすさを考えながらつくっているところです。

──  ご自分の工夫を入れていらっしゃるのですね。

そうですね、自分なりに気を利かせるようにしています。使っていてもなかなか気づかないとは思うのですが、せっかく手作業で制作しているので「こっちのほうがおもしろいよね」「どうやってつくったら喜ばれるかな」と思いを込めた工夫を入れていきたいです。

自分の正解を探しに行くものづくり

──  どのような経緯で木工を始められたのでしょうか。

一年前にお皿づくりを始めるまでは、ベッドや椅子、棚などの大きな家具を中心に制作していました。大きさが決まっている既製の家具だと、家具のサイズに生活を合わせていく感覚があって。それならぴったりのサイズの家具を自分でつくってみよう、と思ったのがきっかけです。

だんだん知人からも「つくってほしい」と言われるようになり、これまでにベッドや彦根のご当地ゲーム「カロム」を作ってきました。人からリクエストされて初めてつくってみようと思うものがあるので、クイズのように難しいほうがおもしろいですね。

──  そこからお皿づくりを始めたのは、どんなきっかけがあったんですか?

続けていたら、自宅の家具をだいたいつくり尽くしてしまって(笑)。その頃たまたま出会ったのが、ろくろを挽いて木工品を制作する木地師の方でした。それでお皿づくりに興味を持って西洋ろくろを購入し、独学で制作を進めています。

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写真:西洋ろくろ木材をはめ、回転する木材に刃を当てながら形をつくっていく

──  制作と工場のお仕事を両立されているんですよね。

はい。工場のラインで正解が決まった仕事を続けるなかで、自分で正解を見つけていくものづくりをしたいと思うようになりました。食器は手を動かしながら自分なりのアイデアを取り入れられるので、仕事とは違うおもしろさがあります。

小学生からおじいちゃんまで、日常にいる「先生」たち

──  独学で知識を身につけているとのことですが、どのように勉強していらっしゃるんですか?

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プロに限らず、さまざまな方から日々学びをもらっています。特にこの倉庫を作業場にしてからは、シャッターを開けて作業していると、小学生からご近所さんまで幅広い年齢の方が入ってきて意見を言ってくれるようになりました。

この前も、学校帰りの小学生に何をしているのかと聞かれて「お椀をつくっているんや」と答えたら、「それしかできんの?」と言われて(笑)。彼らのように凝り固まらずに自由に発想しなければ、と目が覚める思いでしたね。

あとは完成した作品や制作の過程をInstagramで発信していると、コメントでアドバイスをいただけるんです。特定のプロに弟子入りするよりも、そうやってフラットに情報交換できることにおもしろさを感じます。小学生からおじいちゃんまで世代を横断してコミュニケーションしながら、自由に自分のものづくりをしていきたいですね。

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伏木さんのInstagramはこちら。

取材・文・写真/菊池百合子

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