生きものをモチーフに、自然のなかにある動きをおもちゃで表現する|玩具作家・蓮渓円誠さん
自分の手でからくりを動かすおもちゃ。規則的でありながら予想できない動きを取り入れ、生きものの魅力を凝縮した愛らしいおもちゃをつくる人がいます。
「生きものの動きに、おもしろさを感じてもらえたら」。
木材や金属で手づくりのおもちゃをつくる、長浜市湖北町在住の玩具作家・蓮渓円誠(はすたにえんじょう)さんです。蓮渓さんのおもちゃは、第19回目の東急ハンズが主催したおもちゃのコンテストで、約2,000点の応募作品のなかからハンズ大賞を受賞しました。
生きものをモチーフにしたおもちゃの大きな魅力は、その動きにあります。30年以上おもちゃづくりを続けてきた蓮渓さんに、手づくりのおもちゃに込める想いを伺いました。
身近にある生きものの「動き」をからくりに
── 東急ハンズが主催しているハンズ大賞で、グランプリを獲得されたと聞きました。
写真:ハンズ大賞を受賞した作品「シュプール カルテット」
このおもちゃですね。下にある弾み車をまわすと、スキーヤーの手足が動くようにつくりました。
── すごく繊細な動きをしていますね!
この仕掛けを考えるのが、おもちゃづくりの過程で最も難しくて時間がかかります。でもやっぱり、思いついた瞬間が一番おもしろいです。
さまざまなおもちゃを見せてくれる蓮渓さん。手にしているのは「コミュニケーションのカエル」
── どのおもちゃにも動きがあるんですか?
はい。動きがあるものをつくりたいので、全て生きものをモチーフにしています。そして、あえてなかなか予想しにくい動きを取り入れているんです。
決まった動きのみだと、からくりが分かってすぐに遊び飽きてしまいますよね。私のおもちゃも本当は規則的に動いているのですが、不規則な動きが入っているように見える。おもちゃがいきいきしていると感じてもらえたらいいなと思っています。
── しかも、自分で動かせるのがおもしろいですね。
木の感触や動きのリズムを感じ取ってもらえるので、自分で動かせるからくりを取り入れています。小さなお子さんにも触ってもらえるように、できるだけ単純な仕組みにしているんです。
シンプルな設計にするためには細かい調整が必要なので、どうやって形にするのか考えに考えて設計図に落とし込んでいます。制作に時間がかかっている分、どのおもちゃにも愛着がありますね。
生きものの動きから、からくりのヒントを得る
── いつ頃からものづくりがお好きだったのですか?
幼稚園に通う前から木材を触っていた記憶があります。家族の影響で、小さい頃から絵を描くよりもものづくりが好きでした。今のような形のおもちゃをつくり始めたのは、高校で美術の教員を始めた30年以上前のことです。
── おもちゃのアイデアは、どんなときに思いつくのでしょうか。
生きものの動きを見ているときです。普段から「おもちゃに取り入れてみたいな」と思う動作をストックしていると、あるときふと「こうすれば形にできるかもしれない」と思いつきます。
私が子どもの頃はこの湖北町にもっと自然があって、生きものがたくさんいたんです。春になるとチョウが一気に飛んだり、水が黒く見えるくらい魚が泳いでいたり。そうやって自然の変化を見てきたので、生きものの動きを表現することに興味を持ったのかもしれません。
── アイデアを思いついてから、どのように制作を進めるのですか?
モチーフを決めてから、からくりを考えます。一年に一つ程度新しいおもちゃを開発していて、現在は全部で50種類程度です。全て設計図を描いているので、過去の作品と同じものを制作できます。
のびやかな自然を取り込んだおもちゃづくりを
── 現在はどのように制作を進めているのでしょうか。
2019年3月に退職したので、今は一日中おもちゃの制作に時間を充てる日もあります。自分で手を動かすのが好きなので、畑仕事をして自然に触れる機会も多いです。
── 退職されてからの変化はありますか?
自然の力強さを感じます。制作をしている小屋の窓を開けると、植物のにおいがふわっと入ってくるんです。特に春から夏にかけて花の香りが強くて、「自然って身近にこんなに存在していて、気持ち良いものなんだな」とあらためて気づかされます。これからも自然や生きものの魅力をおもちゃで表現して、たくさんの方に届けていきたいです。
取材・文・写真/菊池百合子
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