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なぜ「おでかけ応援制度」を見直すのか

1.なぜ「おでかけ応援制度」を見直すのか

ただいま開会中の堺市議会(令和4年第1回定例会)に、「おでかけ応援制度の見直し」を提案しています。

「おでかけ応援制度」は、満65歳以上の市民の方を対象に、「おでかけ応援カード」を使うことによって1乗車100円で路線バスや阪堺電車をご利用いただくことができる仕組みです。

何も前提が無ければ、市民の皆様にとって喜ばしい制度だと思いますし、「今のまま、見直しなんてしてほしくない」というお気持ちも分かります。

では、なぜ制度を見直そうとしているのか

一言でいうと、「堺市の厳しい財政状況を改善するため」です。

私は市長として、住民サービスにかかわる事業の範囲を狭めるようなことはできればやりたくありません

議会で激しい論争を巻き起こすことになったり、街頭活動や配布されるチラシではまるで極悪人のように扱われるなど、私自身にとって損なことだらけです。

しかし、厳しい堺市の財政状況を考えれば、おでかけ応援制度の見直しは堺の将来のためにも必要なことと考えています。

「たとえ非難されようとも、堺のために誰かがやらなくてはいけない、それができるとしたら市民の皆様の負託を受けた市長しかいない」という思いで、困難な道を選びました。

私は「おでかけ応援制度」そのものは大切な事業だと認識しています

しかし、平成16年の制度開始時は年間1600万円弱だった費用が、令和元年には5億円を超えるほどに膨らみました。一方でこの間、対象者の方の健康寿命は延び、体力も向上し、「高齢者は20年前と比べて5歳から10歳は若返っている」とされています。高齢者の就業率も大幅に増加するなど、社会の状況も大きく変わっています

人生100年時代」とされる今後は、より健康で長生きしていただくために、65歳以上の方を一括りとするのではなく、それぞれの年代に応じて効果的な施策を実施することが効果的と考えています

おでかけ応援制度は高齢者の健康増進を図るための一つの手法ではありますが、制度開始時からの様々な状況の変化を踏まえて、時代に合った形で継続できる見直し案を提案しました

2.堺市は本当に「財政危機」なのか

「財政危機だと煽るのは、改革をアピールするためのパフォーマンスだ」という声もあるようです。

財政危機を煽ってパフォーマンスなんてしても私にメリットはありません。
改革だって、やらない方が楽です。(口だけではなく)本気で改革することは本当に大変です。

しかし、私は市長として、市民の皆様に事実を伝え、目の前に課題があることが分かっているならそれを解決するために行動する責任があると考えています。

ですから、平成28年以降は更新されていなかった「財政収支見通し」を毎年公表し、市の財政の「事実」をお伝えしています

堺市の財政状況については、過去に市から「財政は健全」と発信してきた経緯がありますので、議員の中には「(今も)堺市の財政は厳しくない」などと主張される方までいます。

堺市の財政は、「これまで抱えてきた借金を返せるかどうか」で言えば、返済のための積立は着実に行っており、返すことができる見込みです。(このことが「財政は健全」とする重要な根拠だったように感じます)

しかしそれは、「借金を返すことができる」というだけで、「財政状況に余裕がある」こととは全く別の話です。

令和2年に4年ぶりに公表した「財政収支見通し」では、期間内は毎年数十億円もの多額の収支不足が続き、近い将来にはその穴埋めのために使っている基金が尽きてしまう見込みでした。

現在はコロナ禍の特殊要因もあり、想定ほどは基金を取り崩さずに済んでいますが、収支不足が毎年続く状況は変わっていません。

昨年度には、予定されていた「2子目の0~2歳児の保育料無償化」も、そのままの実施は見送り、所得制限を付けることとしました。

当事業を所得制限なしで実施するには、年間約8億円を要します。
平成28年に市が公開した「財政収支見通し」上ではかろうじて確保できていた黒字は、この事業を行うだけで一気に収支不足に転落する状況でした。事業の実施を予定していたにもかかわらず、収支不足に陥るという事実を公表していなかったのは不誠実と感じています。

所得制限を付けたことは、「毎年多額の収支不足が見込まれる中で、更に大幅な収支悪化につながる事業をそのままで実施することはできない」と考えた末の決断でした。

このような厳しい財政状況で、収支改善を図り、社会状況の変化や新たな課題に柔軟に対応し、今後の住民サービスを維持し、さらには拡充をも目指すことができるように、「事業の抜本的な見直しを行って収支均衡を達成する」ための財政危機脱却プラン(案)」を策定しました。おでかけ応援制度の見直しはその項目の一つです。

3.おでかけ応援制度ではなく、他の見直しを先に進めるべきではないか

2019年6月の市長就任後は、選挙の時にお約束した「全事業チェック」を繰り返し行ってきました。

毎年全庁的な見直しを進め、令和元年度から3年度までの収支改善額は初期費用(イニシャルコスト)等で約83億円、運営費用(ランニングコスト)等で約47億円に上ります。3年弱の間にこれだけの効果を出してきました。

これまでに多岐にわたる大幅な見直しを進めてきた上で、それでもまだ毎年多額の収支不足が発生する見込みであることから、「財政危機宣言」を発出し、「財政危機脱却プラン(案)」を策定しました。「おでかけ応援制度」の見直しもその中に含まれています。

尚、財政危機脱却プラン(案)」では約33億円の効果額を見込んでいますが、(「おでかけ応援制度」を含む)掲載している見直しを全て実施したとしてもなお、期間中ずっと収支不足が続く見込みです。

4.おでかけ応援制度をどのように見直すのか

おでかけ応援制度は、今後も継続して実施します。

現在は、市の財政状況を改善するために市民の皆様にご協力をいただきたく、以下の見直しを市議会に提案しています。

・現在ご利用の皆様は、これまで通りお使いいただけます

70歳以上の方、および65歳から69歳の住民税非課税世帯に属する方も、これまでと変わりません

・これから65歳を迎える上記以外の方は、令和5年度以降、2年ごとに1歳ずつ段階的に対象年齢が上がります(令和14年度からは70歳以上が対象)

このような見直しを行うことによって、堺市の厳しい財政状況であっても、おでかけ応援制度を今後も継続したいと考えています

5.公約違反ではないのか

市長選の際の公約には「おでかけ応援制度の拡充を検討」と掲げており、公約にお示ししたことは全て実施したいと考えています。

実際に就任後は、拡充するための方策を多面的に検討してきました

ところが、市長就任後に4年ぶりに財政収支見通しを更新すると、多額の収支不足が見込まれることが判明するなど、これまで公表されていなかった市の財政問題が明らかになりました

財政収支見通し」は人口動態や税収の見込みなど様々なシミュレーションによって算出されるもので、市として緻密に計算して公表しなければ知ることはできません。以前大阪府議会議員だった私はもちろん、堺市議会議員の方々もこのような状況は把握していなかったはずです。

財政状況が厳しいことを知っていながら、見て見ぬふりをして自分の公約を強引に押し進めることもできます。ですが、それをすると収支不足を更に膨らませて、将来の堺市の行政運営を窮地に追いやることになります。

公約は実現したい。一方で、深刻な課題が新たに判明した時には、一度立ち止まることも必要だと考えます。

止むを得ない事情で制度の見直しを決断しましたが、私の「拡充したい」という思いは強く、ただいま議会に提案している「令和4年度当初予算案」では、おでかけ応援制度の利用者に限らない「高齢者の健康増進」の拡充策を打ち出しています

6.高齢者の健康を軽視するのか

堺市では、いくつになっても健康で長生きしていただける「健康寿命の延伸」を最重要目標の一つに掲げ、私自身も強い思いがあります

昨年3月に策定した市政運営の大方針『堺市基本計画2025』では重点戦略に「人生100年時代の健康・福祉」を定め、2016年時点で男性71.46歳・女性73.6歳だった健康寿命を、2030年度に男性74歳・女性77歳とすることをゴールとして取り組んでいます。

おでかけ応援制度は、一定の効果はあると考えますが、それが健康増進に関する唯一の施策というわけではありません健康増進には様々な面からの取組が必要であり、厳しい財政状況の中で最大限効果的な施策とするために、市では多角的に検討し、実施しています。

また、現在市議会に提案している令和4年度当初予算案」の重点項目に「健康長寿の実現」を掲げ、高齢者の健康増進のための施策を充実します

上記については、おでかけ応援制度の見直しと併せて、公約に沿って「制度利用者に絞った拡充策」も検討しましたが、当初の目的(高齢者の健康増進)を踏まえて、制度の利用者だけでなく、全ての高齢者の皆様にご利用いただける仕組みとして拡充策を提案しています

引き続き、堺で健康に長生きをしていただくために力を尽くします

7.堺のために、先送りせずに正面から取り組む

このことは何度も申し上げたいと思いますが、市長が危機を煽っても何の得もありません。ですが、事実を明らかにして市民の皆様に正しくお伝えすることは大切です。

事業の見直しも、もしも次の選挙のことを考えているとしたら、厳しい財政状況に目をつぶって、見直しどころか、むしろ住民サービスを次々に拡充させた方が得策です。その方がきっと票につながるでしょう。

しかしそれではあまりにも不誠実です。
問題を見つけたならば、それを先送りせずに真正面からぶつかって取り組む賛否が分かれることでも、隠すことなく表に出して議論していただく

これは堺の将来を見据えたならば、誰かがやらなくてはならないことです。
それをやるのが、市民の皆様に選んでいただいた政治家の役目だと私は考えています。

真面目すぎるかもしれませんが、それが私の信念です。

「おでかけ応援制度の見直し」は、ただいま堺市議会でご議論いただいており、引き続き、議会での真摯かつ丁寧な説明を尽くします。

市民の皆様には、ご理解とご協力をどうかよろしくお願いいたします。

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※掲載している文章については、皆様に分かりやすくお伝えできるように、随時加筆・修正します。