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欠けた王と、『紅の豚』。

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

さて、前回の『魔女の宅急便』に引き続き、『紅の豚』(1992)です。

さて、この映画、前作までの成功もあってか、宮崎駿監督が好きなものを詰め込めた作品という感じです。

原作として『飛行艇時代』という本もあり、これも航空機趣味の本みたいになってます。

でも、映画のストーリー自体は超王道ですので、とても面白く、そして登場人物が皆カッコいい。

やっぱり、「王道」というのが大事ですね。


ということで、ストーリーの「王道」のお話をしましょう。

神話の「本質」を見つけた人、ジョーゼフ・キャンベルをご紹介しつつ進めたいと思います。

ジョーゼフ・キャンベルと言えば、ジョージ・ルーカスのが彼の授業を聞いて、『スターウォーズ』を作ったのは有名な話です。

彼によると、世界中の神話には、一貫する基本構造があるそうなのです。

それは、大きく言うならば、旅立ち、通過儀礼、帰還。という3つのイベント構成です。

これは、J.J.R.トールキン『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』から着想を得たような感じがあります。

そして、その最初のモチーフとして「欠けた王」というイメージがあります。

それでは、この「欠けた王の物語」として、詳しく見ていきましょう。

1. 欠けた王

まず「欠けた王」とは、例えば高貴な出身であったり、神様の子供だったりする英雄のことです。

まさに、仏陀やキリストが思い浮かびます。

仏陀は高貴な地位を捨て出家し、キリストは(不完全な)人となって現れた神ですね。

日本神話でも、素戔嗚(すさのお)が天から落とされた時、両手両足の健を切られて神の力を失う、という記述があったりもします。

ジブリ映画『紅の豚』のポルコ・ロッソ(イタリア語で赤い豚)の場合も、彼はもともと第一次世界大戦の元エースパイロットでした。

でも、何らかの原因としてブタになってしまったようです。

『スターウォーズ』で言えば、ルーク・スカイウォーカーですね。

彼もまた、両親を失う(また、そもそも養子である)という「欠落」を持っている。

これは、もともと何らか力を持っているはずなのに、それに気づいていない、もしくは失われている、という事です。

漫画『ドラゴンボール』やゲーム作品『ドラゴンクエスト』も同じく、とにかく英雄モノには欠かせない要素なんですね。

最近はものすごく簡略化されて、スタート時ですでに最強みたいな漫画の設定がありますが、あれは面白くない。

そもそも人間は、全然強くありません。

むしろ人間は「弱さ」を克服していってこそ、「強さ」が現れるわけです。

また、英雄でも自分の「弱さ」が明確になるからこそ、物語になるんです。

これは、人生と一緒なんですね、私たちはまず「弱さ」を発見するところから始まる。

でも、その「弱さ」の前にすると、やはり尻込みしてしまいます。

「弱い私にはできないんじゃないか?」誰しもそう思うわけです。

でも、それで終わってしまっては、物語にならない。

英雄になるには、つまり人生を芳醇なものにするには、旅立たないと行けないんですね。

2. 旅立ち(または別離)という「逃げられなさ」

まず、英雄の物語では、主人公が旅立ちます。

そもそも旅立たないと、物語が始まりませんが、「旅立ち」には深い意味があります。

旅立ちとは、「安全だと思い込んでいる場所から離れる」という意味です。

英語だと「別離(セパレーション)」と言われます。

ビジネス用語でも、この安全地帯を「コンフォート・ゾーン」とか言いますね。

「安全だと思い込んでいる場所」は、逆に言えば「永遠に成長のない場所」なんです。

いわゆる、「偏見」だけで生きれる世界です。

例えば、親元のように「安全だと思い込んでいる場所」は、最も危険な場所でもあるわけです。

ネットのコミュニティも似たような性質があって、ここへの依存度が高い人ほど抜け出せなくなります。

安全であるからこそ、その場所に引き籠もってしまうんですね。

しかし、安全な場所から離れないと、人間はなかなか成長できず、最悪自滅します。

かと言って、自ら進んで危険な場所へ行こうという人も決して多くはない。

ビジネス書の『チーズはどこへ行った?』なんかでも、よく表されています。


そこで、英雄の物語では、必ず外から「誰かがやってくる」わけです。

ロード・オブ・リングなら魔法使いのガンダルフ、風の谷のナウシカならユパ様などです。

まぁ、だいたい老人が多いです。

棺桶に片足突っ込んでるわけです。

これは悪口ではなく、棺桶に片足を突っ込んでる人間じゃないとダメなんですね。

なぜなら彼らは、村や町などの「安全な場所の外」に平気で行けるからです。

そして、知恵を持っている人であったりするんです。


つまり、「あっち側」へ行ける人や、「あっち側」を知っている人、というわけですね。

ラピュタのようにシータでもいいんです、とにかく外へ出ざるを得なくなる人が必要なんですね。

こうした「あっち側の人たち」によって、英雄は旅立ちを勧められます。


しかし、主人公は必ずしも「よっしゃ行くぜ!」とはなりません。

普通の人生でもそうですが、ちょっと行くのが嫌なんです。

もしくは、嫌なことが起こって、行かなければならなくなる。

なので、仕方なく旅立ちます。

この「仕方なく」っていうのも重要です。


例えば、「世界を救うために旅立ってくれ!」って言われて旅立つヤツはいません。

だいたいは「いや、俺じゃ無理だし」って言います。笑

でも、「その指輪持ってたら、あんたの村が滅亡するで、(一緒に)捨てに行こ。」って言われたら、嫌でも旅立たざるをえない。(例:ロード・オブ・リング)

つまり、意識を変えさせられるんです。

主人公は、外からやってきた人に、今のままじゃダメだと思い知らされるんですね。


『紅の豚』の場合は、アメリカ育ちの若造(ドナルド・カーチス)がちょっかいを出してくるわけです。

他にも、映画では世界恐慌があったり、戦争も起こりそうだったり、それまで安泰だった生活が崩れていくんです。

そして、ポルコも気づくんですね、自分自身が賞金稼ぎをして「逃げていた」ことに。

だから呟くわけです、逃げてる場合じゃない。

「飛ばねぇ豚は、ただの豚だ。」


いや〜、カッコいいですね。笑


そして、英雄の物語が始まるんですね。

しかし、次のステージが待っているわけです。

それが成長です。

3. 成長(通過儀礼)という「弱さ」の実感。

さて、いきなり旅立った主人公ですが、いきなり問題を解決できるわけではありません。

例えば、ドラマ『水戸黄門』で、最初に印籠を出したらダメですよね。

これは、一瞬で物語が終わるからじゃなくて、きっと逆に問題がややこしくなるからですけれど。笑


だいたい小さなコミュニティで自分が最高だと思っていても、外の世界では話が違います。

たいてい外の世界に出ると、人は失敗しますし、挫折します。

例えば、地方大会に出て1位をとった人が、世界大会1位の人と対決するようなものです。

これはとてつもない衝撃になります。

そして、この衝撃こそ、とても大事なことなんですね。

衝撃的な出会いがなければ、人間は成長のキッカケにならないんですね。

スターウォーズでも、主人公はダースベイダーに、「I'm you Father」とか言われて、「Noooo!」ってなるんです。

こういった衝撃が、成長のキッカケになります。

「勝てない理由は、自分の中にあるんだ」と気づくわけです。

つまり、弱さに気づくわけです。

『紅の豚』だと、例えばフィオという女性の出現によって、自分の「弱さ」に気づかされるわけです。

そして弱さから成長するキッカケとは、「自分の物差しが間違っていること知る」ことです。

そして、「これを知らなければ絶対に先に進めないもの」に触れることなんですね。

仕事でも勉強でもそうですね、仕事にもコツがあるから、コツを知らなければ仕事できない。

コツを知って、コツに触れて、コツをつかむまでが成長なわけです。

だいたい、最初にコツ教わっても、理解するまでが大変です。

そもそも、コツなのかどうかも理解できない事すらあります。笑


しかし、衝撃的な出会いやヒラメキによって、コツを理解し始める事ができるわけですね。

そして、コツを理解した瞬間、頭の中が氷解して、目から鱗がボロボロ落ちたりします。


これは絶対に一人ではできないんです。

仲間や人々との関わり合いがなければ、そう簡単にはできません。

でも、「そうだったんだ〜!」って腹落ちすれば、あとは問題を解決するだけです。


かくして、いよいよ英雄は試練をクリアできるようになるんですね。

やったー、めでたしめでたし!って、短編なら終わることがあります。

でも、家に帰るまでが遠足です。

英雄は旅に出たから、帰らなければならないんですね。

ここから、英雄の物語は佳境に向かっていきます。


4. 帰還(リターン)と仲間との絆。

英雄たちは、納得した!じゃあ、帰るか!って帰れるわけではありません。

帰るために必要な課題というものが出てくるんです。

例えば、最強になったところで魔王を放置して帰ってくる勇者はいませんね。笑

例えば、『スターウォーズ』ダースベイダーは自分の父という葛藤がなければならないんです。

ここで、「自分一人じゃ無理(意味がない)」って事に気づくわけです。

ここからは、物語が一番盛り上がるところなんですね。


物語の場合、一人では出来ない課題が、大量に出て来ます。

試練と大問題の連続です。

そして、このタイミングで登場するのが、「よくわからないけど凄い仲間」です。

だいたい友人のうちに一人くらいは、「よくわからないけど凄いヤツ」がいたりしますね。

彼らが協力してくれることによって、問題が解決できていくんです。


これは、チームの力です。

実際チームのメンバーは英雄に賛同して、勝手に動いているだけです。

言い換えれば、自分の得意なことを、自分のやり方で解決してくんですね。

これが、とっても良い結果を生むんです。

なぜか最強の敵を倒せたり、最大の問題とかを解決したりできるわけです。


この頃、主人公やメンバーには得意分野、つまり「独創力」というものが生まれているんですね。

得意分野とは、ひたすら手放さないもの、です。


「独創力」については、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』にあるJAXAの的川泰宣さんの言葉が、完璧なまでに正鵠を得てたので、そのまま転記させていただきます。

『糸川英夫先生はよく「独創力」の大切さについて話されていましたが、一般向けに行われた講演会でこんなことがありました。先生は、幼い男の子を抱いて前の席で座っているお母さんに「その子を独創力のある子に育てたいと思いますか?」と聞かれました。

「もちろん」と答えたお母さんに、「そのためにあなたはどう育てるつもりですか?」と聞くと、そのお母さんは「独創力を発揮するには自由でなければいけないから、この子がやりたいと思ったことは何でもやらせます」と答えました。

先生は天井を見てしばらく考えていましたが「あなたは数年すると、絶望するでしょうな」と言われたんです。「何でも好きにやって独創力がつくのならチンパンジーには皆、独創力がある」と。

先生が続けて言われるには「人間には意志というものがあって、自分はこれをやりたい、という思いにどこまでも固執しなければいけない」と。いったんやりたいと思ったことは、絶対にやり遂げるという気持ちがなければ、やっぱり何もできません。一度決心したことは、石にしがみついてでもやり遂げる強い意志が必要だ、と第一に言われました。

第二には、過去にどんな人がいて、何をやったかを徹底的に学習しないとダメだ、と。アインシュタインは、ニュートンのことを徹底的に学習して、ニュートンが考えることはすべて分かるという状態にまでなった。そうやって初めて、ニュートンの分からないことが分かるようになったんです。

だから過去の人がやったことを決して馬鹿にしてはいけない。これまで先人が残した考えの上に乗っかって、初めて新しいことが生まれる。だから、徹底的に勉強しなきゃいけないと言われました。

第三は、少し意外だったんですが、自分が何か独創力のある凄い仕事をしたと思っていても、世の中が認めなければそのまま埋もれてしまうことになる。世に認められるためには、他の人とのネットワークをしっかり築いてよい関係をつくっておくことが大事ですと。

先生はその後、「私は独創力と縁のないことを言ってるように聞こえるかもしれないけれど、世の中の独創力はそうやってできてるんですよ」と話された。先生はまさしくそれを貫かれたと思うんですね。同時代の人がやっていることを真似るようなことは決してしないけれども、過去のことは非常によく勉強されていますよ。

糸川先生は、誰も考えなかったことを考えるのが大好きなんですよね。でもその基盤には、自分が正当に継がなきゃいけないものを物凄くしっかり勉強しているということがあるわけです。その上に立って、初めて独創力が生まれてくるんだなということは、先生を見ていてよく感じました。』


いやー震えましたね。

これこそ英雄の物語なんですよね。

そして、こんな独創力のある仲間達が集まれば、ハッピーエンドまで一直線。

目的を達成して、めでたしめでたしと、お祭り騒ぎのようになって、物語は大円団を迎えます。

このように英雄の物語は、は読み方さえ知っていれば、かなり多くの教訓を伝えることができるんです。

もちろん、個人としては独創力なんて無くったっていいんです。

英雄でなくても、英雄の手助けをできなくても全然問題ない。笑

ただ、英雄を知ると言うことが大事なんです。

そして、教育的である必要はないからこそ、物語として残った訳です。

「こうやって生きればいいんだ」という気づきになりさえすれば、物語はその存在価値があるんですね。

5. 英雄たちの生き様を生きる。

しかしながら、最近では英雄譚も単なる「あらすじ」にまで切り刻まれて、いまでは何が言いたかった分からない「まとめ」ばかりがネットに漂流している。

勿体無いですね。
ちなみに、宮崎駿だけでなく、ピクサーや、J・キャメロン、S・スピルバーグなんかも、この物語のパターンを使って、映画を作り続けています。

そりゃあ、面白くないわけがない、だって人生そのものですもの。


ちなみに、英雄はハッピーエンドの後、ひっそりと去っていきます。

なぜなら、帰還した場所は、もう目的の場所ではないからですね。

次なる目標に向かって、歩み始めるんですね。

これこそ「帰還」の最大のポイントだと私は思ってます。


そうそう、イチローがとってもいいこと言ってました。


彼はヒットを打って走る瞬間に、耳を触るクセがあるそうです。

自分でも気づいてなかったそうですが、あるインタヴュアーに指摘されてこんな事を伝えたそうです

「僕はヒットを打つと(目的が達成されて)うれしくなってしまう(中略)、だから、次に(目標である)走ることに切り替えるために耳を触ってるんです。」

まさに全てに集中して目的を達成するからこそ、言える言葉ですね。


そうそう最近では、「全集中」という言葉になって『鬼滅の刃』でも現れていますね。

まずは目の前の物事に「全集中」するから目的を達成でき、そして次のステージに迎える。

ちなみに、『鬼滅の刃』の敵である「鬼」たちは、必ず「何かから逃げた人」たちだったりして、とてもストーリーとしてよくできています。

しかも、主題歌『紅蓮華』の歌詞も完璧にマッチしている。

これは、流行るわけですわ。笑

個人的な話ですが、こうやって英雄の物語は受け継がれていくんだなぁ、と、感慨深くなりました。笑

どこか「背中を見る」思いを子供達がしているらしい社会現象のも、まさに「生き様」というやつを感じたから、なのかもしれません。

『紅の豚』からも、私たちは生き様を感じるからこそ、名作と呼ばれ続けるのでしょう。

(おわり)


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