【コラム】ドゥラドーレス〜二律背反の能力を併せ持つ東の超新星〜


はじめに


大寒の府中に衝撃が走ったセントポーリア賞。一部でオークス最有力という声まで挙がっていたウィズグレイスを1戦1勝のドゥラドーレスが鮮やかに差し切った同レースが、今後のクラシックを占う一戦であったことは言うまでもない。

今回のコラムでは勝利したドゥラドーレスに焦点を当て、その底知れない能力に迫っていく。
新馬、セントポーリアと異なるレース質で見せた絶対能力の高さ、そして常に父ドゥラメンテの一歩先を行くパフォーマンスについて解き明かして行こうと思う。



新馬で見せた大器の片鱗


初めに新馬戦のパフォーマンスについてラップ面から掘り下げていく。このレースの評価については先日の予想記事で見解を述べているので、まずはその文を引用する。

“まず私が勝手に2021東京18新馬四天王と呼んでいる4レースがあるのだが、それがジオグリフ戦、モカフラワー戦、サリエラ戦、そして今回本命のドゥラドーレス戦である。これらはいずれも「勝ち時計1:48.9以内かつレース上がり3F34.5以内」に該当したレースで、この数値をクリアしているか否かは能力面での一つの評価基準となる。過去に2歳の新馬戦でこの水準をクリアしたレースはドゥラドーレス戦を含めて6例しかなく、それが上記の4レースとグレートマジシャン戦、ラブユアマン戦(2着ドゥラメンテ)である。この点からもこの基準をクリアする価値の高さが読み取れるだろう。
またこれらのレースは後半3F34.5以内という基準を満たしていることもあり、基本的にはどれも後傾色が強くなっている。1:48.9以内という基準で極端なドスローを除いているとはいえ、それでも全体的にはスローが多く、ラップ推移的にも先行勢に有利なレースがほとんど。このような中で真に評価すべきはそれぞれのレースで中団から差し損ねた(もしくは差し切った)上がり最速馬となる。一番分かりやすいのはラブユアマン戦で、このレースは早め抜け出しの勝ち馬よりも、差し損ねたものの上がり最速を記録したドゥラメンテがその後大きく出世している。これに関しては極端な例だが、基本的に後半ラップが優秀な水準である上では上がりの順位は純粋に能力の評価基準となり得るのだ。今年の4レースで言えば、モカフラワー戦がこの基準で2着のインダストリアを上と評価することができる。実際に同馬はその後未勝利、ジュニアCとともに秀逸な内容で連勝した。
だいぶ話が脱線したが、この基準を踏まえればドゥラドーレスは破格のパフォーマンスを見せたことが分かるだろう。
12.8-11.5-12.2-12.7-12.9-12.5-11.5-11.2-11.6
このラップを10番手から2位に0.4差をつける上がり最速で、しかも直線で進路取りに手間取るシーンがありながらまとめて差し切ったパフォーマンスは圧巻の一言。過去の6例の中でも最も高いパフォーマンスを見せたと言っても過言ではない。”

上記の見解では、「2歳時に東京18の新馬戦で勝ち時計1:48.9以内かつレース上がり3F34.5以内」という基準をクリアした6レースの中でもドゥラドーレス戦が最も高いパフォーマンスだったと述べられている。

ということで、ここではドゥラドーレス戦とその他5レースを勝ち時計、レース上がり3F、1着馬上がり3F時計、上がり最速馬3F時計の4点で比較を行う。それをまとめたのが以下の表である。

2歳時東京18新馬戦勝ち時計1:48.9以内かつレース上がり3F34.5以内

これを見ると勝ち時計、レース上がり3Fともにドゥラドーレス戦が1番遅く、一見すると同レースが最もレベルの低い一戦に映るかもしれない。ただ、これらは馬場差が考慮されておらず、単純に時計を鵜呑みにするのは早計である。
とはいえ私個人の力で上記の6レースについて正確な馬場差を割り出すのは困難。そこで今回はnetkeibaの馬場指数を参考値として参照することとする。各レース毎の指数を以下に表としてまとめた。

上記6レースの馬場指数(netkeiba参照)

この指数は数字が小さくなるにつれ馬場が高速化していることを表す。この表から、ドゥラドーレス戦が行われた当日は上記6レースの中でも最も時計の掛かるコンディションであったことが分かるだろう。
もちろん正確な馬場差を割り出せていないので不十分な指標とも言えるが、少なくも実質的な時計の価値が数字以上に高いことは読み取れる。

次いで上記6レースにおいて特に高いパフォーマンスを見せた個々の馬について分析を行う。
これを行う上で一つの指標となるのが、レース上がりと馬自身の上がりの差異である。引用文でも述べられているが、これらのレースはラップ推移的にそのほとんどが先行勢に有利な展開となっており、そのような中で真に評価すべきは、それぞれのレースで中団から差し損ねた(もしくは差し切った)上がり最速馬となる。特にレース上がりと自身の上がりの間に大きな差がある馬は、それだけ不利な展開で結果を残したことが読み取れるだろう。もちろん「道中離れた最後方を追走していただけで着順もイマイチ」といった場合は安直に評価すべきではないが。今回の記事においてそのような例外的存在は登場しないので素直に上がり最速馬を評価する。

ということで、ここからは実際に上記6レースで上がり最速を記録した馬を見て行く。便宜上既出の表を以下に再度示す。

2歳時東京18新馬戦勝ち時計1:48.9以内かつレース上がり3F34.5以内

レース上がり3Fとの差異が最も大きいのがドゥラドーレスの0.9差で、次いでレッドロワの0.8差、ドゥラメンテの0.6差、インダストリアの0.4差と続く。
前述の通りレース上がりと自身の上がりに乖離が生まれればそれだけ展開的な不利を被ることとなり、実際にレッドロワ、ドゥラメンテ、インダストリアはそれぞれ2着と取りこぼしている。
これを踏まえれば、6レースで最もその差異が大きい0.9差を記録しながらも勝ち切ったドゥラドーレスが如何に秀逸なパフォーマンスであったかが分かるだろう。

このように、ドゥラドーレスは新馬戦から過去の名馬やその他素質馬と比較しても傑出したパフォーマンスを見せていたのだ。そして2戦目のセントポーリア賞、ここで同馬はさらなる衝撃を我々に与えることとなる。



真価を見せたセントポーリア賞


前章ではドゥラドーレスが新馬戦で見せた素質の片鱗について触れた。しかしこの馬が真の意味で大器だと証明されたのは紛れもなく2戦目のパフォーマンスである。

この点に迫る為には、まず母ロカについて触れる必要がある。
2014〜2015年にかけて活躍した同馬。鳴り物入りでスタッドインしたハービンジャーの初年度産駒かつ名牝ウインドインハーヘア一族出身ということで元々期待は高かったが、その名を一躍有名にしたのはやはり新馬戦での衝撃的なパフォーマンスだろう。超が付くドスローで前に行った3頭がそのまま残る流れを中団からまとめて差し切る秀逸な内容。ラスト2Fは11.0-11.0という圧巻の数字を記録した。上がりの出やすい京都と言えどこの時計はなかなかお目にかかれるものではなく、同条件の新馬戦でラスト2F22.0を切って勝利した馬はレガッタ、クルミナル、ダノンシャンティ、そしてロカの4頭しか存在しない。
これだけ優秀なパフォーマンスを見せたとなれば当然世間の期待は高まり、続く阪神JFでは1勝馬の身ながら1番人気に推された。しかしこのレースは道中の早い流れに対応出来ず8着に敗戦。以降も重賞戦線でそれなりに見せ場は作るものの新馬で見せた輝きには到底及ばず、結局1勝も出来ないまま現役生活の幕を閉じた。
このような母の元に生まれたドゥラドーレスだけに、緩い流れの新馬戦で高いパフォーマンスを見せたのはある種驚くことではなかったのかもしれない。ただ血の宿命があるとするならば、真価が問われるのは2戦目以降、道中のペースが一気に上がった時ということになる。

前置きが長くなったが、ここからは実際にセントポーリア賞のラップを見て行く。以下は同レース及び新馬戦のラップ推移である。

ドゥラドーレス過去2走ラップ推移

新馬戦が1〜6F目まで緩い流れで推移しているのに対し、セントポーリア賞は2〜4F目で11秒台前半が続くタフな流れになっている事が分かる。
ちなみにグラフで比較すると以下の通り。

ドゥラドーレス過去2走ラップ推移のグラフ

グラフだと中盤のラップ推移の違いが一目で分かるだろう。新馬戦と異なり、早い流れへの対応を求められた一戦となったことが見て取れる。このようなペースの中でもドゥラドーレスはしっかりと末脚を伸ばし、2着に0.5秒差、上がりも2位に0.7差をつける圧巻のパフォーマンスで見事に連勝を飾った。
母ロカが対応できなかったレース質を、息子は事も無げにクリアしたのだ。


怪物と呼ばれた父を超える才能


前章、前々章では過去2戦の秀逸なパフォーマンスについて触れてきた。ここまで記事を読み進めた方には十分この馬の強さが伝わったと思うが、最後にとある名馬との比較を行いたい。それが怪物と呼ばれた2015年の2冠馬、そしてドゥラドーレスの父であるドゥラメンテだ。
ドゥラメンテとドゥラドーレスの道筋はよく似ている。ともに東京18に拘り、セントポーリア賞を経由してクラシック路線へと向かった。さらに言うとこの2頭のレースはラップ推移が極めて似通っており、血統も相まってまさに生き写しと言うべき存在である。ただ、似通ったパフォーマンスの中でもここまでの内容では常に息子であるドゥラドーレスが先を行っている。

まずは新馬戦。この2頭の新馬はともに前々章で取り上げた6レースに該当しており、どちらも極めて高いパフォーマンスであったことは既に説明した通りだ。そしてその中でドゥラドーレスが最も強い競馬であったことも同時に述べた。では実際この2頭間のパフォーマンス差は一体どれ程のものだったのか。2レースのラップから掘り下げて行く。以下はラップ推移とそれをグラフ化したものである。

ドゥラメンテ及びドゥラドーレス新馬戦ラップ推移
上記ラップ推移のグラフ


これを見ると全体的なラップバランスは極めて似通っていることが分かる。相違点としてはテンの2F推移が挙げられるか。ドゥラメンテ戦が1F目→2F目で2秒加速し、2F目→3F目で1.1秒の減速をしたのに対し、ドゥラドーレス戦は同様の区間で1.3秒の加速、0.7秒の減速と後者の方が振れ幅は少ない。一般的にラップが乱高下する方が差し勢有利になりやすく、そういう観点で見ればドゥラドーレス戦の方がより差しにくいラップ推移だったことが読み取れる。
このようなラップの中でドゥラメンテが先行馬を捉え切れず取りこぼしたのに対し、ドゥラドーレスがキッチリ差し切った点からも後者の方が高いパフォーマンスであったことが分かるだろう。

続いてセントポーリア賞。ここもまずは2レースのラップ推移とそのグラフを以下に示す。

ドゥラメンテ及びドゥラドーレスセントポーリア賞ラップ推移
上記ラップ推移のグラフ


テン2Fの入りはほぼ同じだが、道中はドゥラドーレス戦の方が締まったペースで流れている。ラスト3Fの中でドゥラドーレス戦はL3、ドゥラメンテ戦はL2が最速となっているが、これは逃げ馬がバテたかそうでないかの違いであり、2頭のラップバランス自体にはそこまで差はないと考えられる。
このグラフを見ても分かる通り、バランス自体は似通っているが、道中のラップからドゥラドーレス戦の方が高いパフォーマンスかつGIレベルのペースに対応し得る水準の内容であることが分かる。また単純な時計面でも1.2秒早いというのは評価できるポイントだろう。もちろんこの時計差の要因として馬場差(ドゥラドーレス戦-19、ドゥラメンテ戦-2)が大きく関係している点に留意しなければならないが、それを差し引いても同等以上の内容だったと評価することが出来る。

それともう一点、上がり時計でドゥラメンテの方が0.9秒上回ってる点についてだが、これに関しては単純に個別通過タイムの差だと考えられる。ドゥラメンテ戦は1000m通過が58.8となっているが、このレースは逃げ馬が後続を大きく離していたこともあり後続はそれほど早いペースの追走を求められなかった。同レースは過去映像を見てもドゥラメンテの1000m通過時が見切れてしまっているので正確な個別通過タイムが分からないものの、前後の隊列から推測するにおそらく60〜60.5秒程度。対してドゥラドーレス戦は先頭のウィズグレイスで1000m通過が58.3となっているが、ドゥラドーレスはそこから0.1秒ないし0.2秒の位置で競馬をしていた。1000m通過で言えば58.4〜58.5程度だろう。この2頭間の個別1000m通過タイムは少なく見積もっても1.5秒程度の差があり、それを踏まえればドゥラドーレスの方が上がり時計が遅いのは当然と言える。
総合的に見ても2レースの比較ではドゥラドーレスの方が優秀なパフォーマンスだったと結論付けることが可能だろう。

ちなみに成長力という観点で見ても、ドゥラメンテが10月の新馬戦から未勝利、セントポーリア賞でそれぞれ1.4秒、0.6秒の計2秒詰めたのに対し、ドゥラドーレスは11月の新馬戦からセントポーリア賞の間で実に3.2秒詰めている。もちろん様々な前提条件を全く考慮していないので単純比較はできないが、後者の方がキャリアも少なく、時期も短い中でこれだけ時計を詰めたのならば先を見据える上でも非常に楽しみな存在と言えるだろう。



おわりに


今回は個人的に注目しているドゥラドーレスについて掘り下げてきました。常日頃から「今年のダービーはこの馬」と言い続けている理由が少しは伝わったのではないでしょうか。
昨年他界したドゥラメンテの後を継ぐ大器がクラシックでどのような活躍を見せるのか。
関西馬4連勝中の日本ダービーに東の超新星が挑む。




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