【コラム】スタセリタという牝系


はじめに

皆さんはスタセリタという馬をご存知だろうか?
デビューから無傷の6連勝でフランスオークス、ヴェルメイユ賞を制し、凱旋門賞でも1番人気に推されたフランスが誇る名馬だ。
それと同時にソウルスターリング、シェーングランツの母でもある。我々にとってはこちらの顔の方が馴染み深いだろう。

世界でも有数の名牝であるスタセリタだが、実は同馬の牝系には決定的な弱点が存在する。
今回のコラムではそれを解き明かすとともに、今週のクイーンCに出走する”とある有力馬”について考察を行いたい。



世界的名牝が抱える弱点

さっそく本題に入る。スタセリタ一族が抱える弱点とは何なのか。
それは中盤が緩まないラップで著しくパフォーマンスを落とす点である。実際に同牝系出身馬のレースラップからこれを検証していく。

まずは同牝系を代表する存在であるソウルスターリング。3歳春の時点で6戦5勝と同世代の牝馬では傑出した存在であった同馬だが、唯一取りこぼしたのが桜花賞。以下に同レースと、比較として同条件で勝利した阪神JF及びチューリップ賞の計3レースのラップを示す。

桜花賞(3着)
12.7-10.9-11.1-11.8-11.8-11.5-11.9-12.8

阪神JF(1着)
12.4-11.0-11.3-12.0-12.1-11.5-11.5-12.2

チューリップ賞(1着)
12.4-10.7-11.1-12.2-12.2-11.4-11.3-11.9

3レースを比較すると、桜花賞が最も中盤で緩んでいないことが分かる。ただ1000m通過自体はほとんど差がなく、テンの3F自体はむしろ勝利した2レースの方が早い。この3レースから、全体的なペース自体が早くなることは苦にしないが、ワンペースで推移するような流れは不得意だと言うことが分かる。
重要なのはペースの早さではなく、レース中に脚を溜める区間があるか否かということになる。
同馬はその後、オークスを圧倒的な強さで勝利することになるが、そのレースは前半〜中盤まで緩い流れで推移した一戦であった。

この特徴を踏まえた上で、次はシェーングランツのレースを見ていく。
まずはアルテミスS〜桜花賞までのマイル4戦でラップ比較を行う。

アルテミスS(1着)
12.3-10.4-11.2-12.3-12.5-11.8-11.4-11.8

阪神JF(4着)
12.2-10.7-11.9-12.2-12.1-11.0-11.8-12.2

チューリップ賞(5着)
12.7-11.1-11.7-12.3-12.1-11.3-11.0-11.9

桜花賞(9着)
12.2-11.1-12.1-12.3-11.7-10.8-11.0-11.5

前半のペースだけで言えば一番早いアルテミスSだが、中盤では4戦の中で最も緩んでいることが分かる。この点からも、ペース云々よりも脚を溜める区間があるか否かが重要であることが読み取れるだろう。これはソウルスターリングのところで言及した通りである。

最後にタイムリーなところで先週勝利したスパングルドスターの勝ち鞍3戦のラップを見ていく。

未勝利
13.1-11.7-12.7-12.2-11.8-13.1-11.8-11.6-11.3

1勝C
13.0-11.2-11.7-12.4-11.9-12.2-11.1-11.2-11.7

2勝C
12.7-11.3-12.4-12.9-12.2-12.6-12.4-11.2-11.3-12.1

上記のラップから3レースとも中盤が大きく緩んでいるのが分かるだろう。同馬はこのようなラップ推移に滅法強い一方、オリエンタル賞やかもめ島特別のようにワンペースで推移したレースでははっきりとパフォーマンスを落としている。同馬もまたスタセリタ牝系の特徴を色濃く受け継いでいるのだ。

このようにスタセリタ牝系は中盤が締まったレースを極端に苦手としている。



クイーンCに登場する有力馬


そんなスタセリタ牝系出身馬が今週のクイーンCに出走する。
それが2番人気のスターズオンアースだ。同馬の近3走パフォーマンスをラップ面から考察する。
まずは未勝利戦と赤松賞を見ていく。

未勝利
12.4-11.4-12.0-12.1-12.5-12.4-11.4-11.3-11.8

赤松賞
12.5-11.5-11.9-11.9-11.9-11.0-11.4-11.7

詳細を話すと長くなるので割愛するが、未勝利戦は極めて優秀なラップ水準。高いパフォーマンスを見せた同レースは中盤で緩んで脚が溜まったレース。
その一方で人気を裏切った赤松賞は中盤もほとんど緩まずワンペースで推移した一戦。ラスト3Fで早い時計が刻まれているのは勝ったナミュールが破格のパフォーマンスを見せた為であり、全体的なレース質としては持続戦の部類にカテゴライズされる。

この2戦のパフォーマンスを見る限りでは、やはり同馬もスタセリタ牝系の特徴を色濃く受け継いでいることが分かる。

ただここまで読んでいて違和感を感じた方がいるかもしれない。そしてその違和感の正体はおそらくフェアリーSの好走だろう。
中山マイルはコース形態上ほとんど中盤が緩まない故、スタセリタ牝系とは水と油の関係にある。にも関わらず好走した点は確かに疑問が残る。

ただこの違和感についてもラップ面から解消することが出来る。ということでここでは今年のフェアリーSのラップと、全体の時計において各区間毎の占める割合を示す。

レースラップ
12.4-11.3-11.8-12.1-12.3-11.8-11.6-11.9

区間毎の割合(%)
13.0-11.9-12.4-12.7-12.9-12.4-12.2-12.5

これを見ても分かるように中山マイルとしては中盤が緩かったことが分かる。とはいえこの説明だけでは信憑性が低いだろう。ということで以下に比較として過去5年(2017〜2021)のフェアリーSの区間毎割合平均を示す。便宜上2022年のものも再度示す。

過去5年平均(%)
13.1-12.0-12.3-12.4-12.6-12.7-12.3-12.6

2022(%)
13.0-11.9-12.4-12.7-12.9-12.4-12.2-12.5

これを見ても今年は例年と比較しても中盤が緩んでいることが分かるだろう。スターズオンアースが好走したことにも合点が行く。

このようにスターズオンアースもまたスタセリタ牝系の特徴を色濃く受け継いでいることが分かる。



まとめ


今回は名牝スタセリタの牝系としての特徴について話してきた。記事内で何度も言及したように、同牝系は中盤で脚を溜められるレースに強い。
クイーンCに有力馬として出走するスターズオンアース。東京マイルは一般的に中盤が緩みにくいだけに牝系的な適性には反する。ここを能力で乗り越えるようならば、クラシック候補筆頭にまで躍り出るだろう。



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