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【コラム】苦境の新種牡馬が送り出す完成形のニュースター


はじめに


ここまで10頭がデビューして勝ち上がったのが1頭のサトノダイヤモンド産駒。頭数に換算すれば苦境というのは大袈裟かもしれないが、今年の目玉として鳴り物入りで産駒がデビューした割には地味な成績と言わざるを得ない。ただでさえ熾烈なディープの後継争い。コントレイルやフィエールマンといった強力なライバルがスタッドインした背景を鑑みてもやはり明確な結果が欲しいところ。
この現状を打破すべく札幌2歳Sに出走するのがダイヤモンドハンズ。現時点で同産駒唯一の勝ち上がり馬であるが、そのただ1頭が現2歳世代における最高傑作である可能性を秘めている。
今回はダイヤモンドハンズの新馬戦を主にラップ面から分析していく。過去の名馬、その中でも昨年の2歳戦を沸かした”あの”1頭との比較を通じて同馬の強さを解き明かしていきたい。



2歳戦の活躍が約束された数字


では早速新馬戦を紐解いて行こう。ラップ推移は以下の通り。
12.7-11.2-12.2-12.4-12.3-11.7-11.2-11.7

勝ち時計の1:35.4は翌週のマラキナイア(このレースもハイレベル)に劣るとはいえ優秀な水準。ただそれ以上に特筆すべきは上がりの34.6という数字だろう。
2歳時に中京マイルで上記の基準をクリアした馬はダイヤモンドハンズを含めて17頭しかおらず、その殆どが後に世代重賞で活躍している。それをまとめたのが以下の表。

2歳中京16で上がり34.6以内が記録されたレース一覧


これを見ても非常に優秀な水準である事が分かると思うが、ダイヤモンドハンズに関してはこれらの馬の中でもとりわけ評価できるポイントが2つある。

まず1つ目が施行時期。一口に”2歳時”と言っても成長著しい若駒時代ともなれば時期によって完成度はまちまち。勿論これに関しては馬個体毎の差異が非常に大きいので定量的に推し量ることはほぼ不可能なのだが、それでも一般論で言えば同様の基準でも早い時期に記録している方が優秀、もしくは完成度が高い馬である可能性が高い。
実際6月に上記の時計を記録したアドマイヤマーズ、セリフォス、ラインベックはいずれも2歳GIで掲示板入り、特に前2頭はともに朝日杯で勝ち負けレベルの結果を残した。
ダイヤモンドハンズは上記3頭と同じ6月、それも1週目に記録した点から、2歳重賞で活躍する可能性は非常に高いと考えられる。

そして2つ目が風向き。気象庁のデータによるとレース当時は直線4〜5m/sの向かい風。直線向かい風となれば当然上がり時計は遅くなるだけに、ダイヤモンドハンズが持つ数字の価値はより高くなる。
ちなみに他の16例についても開催当時の風向きを全て調べたが、直線向かい風で行われたレースは1つもなかった。上がり時計のみにフォーカスすれば33秒台のレースも存在するので一概に風向きだけでパフォーマンスの評価を下すのは早計だが、少なくとも上記の数字以上の内容だったのは間違いないだろう。



早熟の天才を超える完成度


ここまでは大まかな時計感や施行時期などマクロ的な要素からレースを紐解いてきた。既にレース内容が優れている事については伝わったと思うが、それをより明確に示す為、ここからはミクロ的な分析を行いたい。
そこで比較対象として登場するのが昨年の朝日杯2着馬セリフォスである。なぜセリフォスなのかと言うと、ともに上記の基準をクリアしたのが6月かつ2レースの馬場状態(時計感)が酷似、それでいて勝ち時計とレース上がり、1000m通過タイムが非常に近しい為である。

2レースの比較を行う前にまずはセリフォスに対する評価について、安田記念時に述べた見解を一部引用して以下に示す。
“セリフォスの完成度についてだが、2歳8月の新潟2歳S時点で既に同週古馬3勝Cを上回る時計で勝利しており、この時点で既に2歳馬にあるまじき水準に到達していたと読み取れる。しかも前半から流れて時計が引き上げられた3勝Cに対し、新潟2歳Sはドスローから上がりの質だけで同等レベルの時計を記録しているのだから実質的なパフォーマンス差はより大きかったと考えられる。ちなみにこの時の3勝C勝ち馬はクリノプレミアムなのでレベルはむしろ高かったと見て問題ない。このパフォーマンスからも中内田流の早期育成による完成度の高さが見て取れる。”
上記の通り2歳時の能力、完成度に関して言えば歴代でも最高クラスのセリフォス。実際その後のデイリー杯を勝利し、超ハイレベルの朝日杯でも最も強い内容の2着と申し分のない結果を残した。

ということで本題。ダイヤモンドハンズとセリフォスの新馬戦を比較していく。まずは以下に2レースのラップ推移を示す。

勝ち時計/前半5F/後半3Fという切り口だと近しい水準にある2レースだが、こうして見るとその中身はだいぶ異なる。
ダイヤモンドハンズ戦はテンで負荷がかかった後に中盤で緩んで再加速。対してセリフォス戦は遅い入りから中盤→終盤にかけて緩まず速いラップが踏まれ続けている。

グラフにするとこのように。序盤〜中盤にかけてのラップの違いが一目で分かるだろう。
一般的に一貫ラップでは勝ち時計が、中緩みラップでは上がりが出やすい。つまりこの2レースにおいて時計的価値ではダイヤモンドハンズ戦、上がりの価値ではセリフォス戦がそれぞれ高くなる。ただ前章で述べた通り前者は直線向かい風という条件の下で行われている為、ラップによる価値基準も相殺可能。総合的に見て前者の方がハイレベルな一戦だったと考えるのが妥当だろう。

前述の通り2歳時の完成度では過去類を見ないレベルであったセリフォス。あくまで新馬戦のみの比較とはいえ、それを凌駕するパフォーマンスを見せたダイヤモンドハンズは2歳戦線を制圧できる存在だと言えるのではないだろうか。



まとめ


人は不思議なもので憎きライバルに対する負の感情も時が経てばプラスへと変換される事が多々ある。マカヒキのファンとしてクラシック時は親の仇にも似た感情を覚えていたサトノダイヤモンドも、今ではかつての盟友として産駒の活躍を心から望むようになった。
そのサトノダイヤモンド産駒最初の大物になり得る可能性を秘めたダイヤモンドハンズ。まず札幌で伝説の序章を見届けたい。

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