【読書記録】「感動ポルノ」と向き合う-障害者像にひそむ差別と排除- 著:好井裕明


初めに


それは障害者の姿を感動の対象としてだけ利用することに対する批判から産まれた言葉ですが、だからといってある映画やドラマ、ドキュメンタリーを断罪するためのレッテルではありません。

「感動ポルノ(Inspiration Porn)」という言葉をTwitterなどのネット空間で聞いたことある人は多いかもしれない.特に私は日本テレビが毎年放映している「24時間テレビ」の批判するにあたって見たことがある.また,「感動ポルノ」という言葉はステラ・ヤングのTEDでのスピーチで有名だろう.この言葉自体がステラ・ヤングのウェブマガジン記事が初出らしい.

この動画でステラ・ヤングが投げかけているのが以下の言葉である.

I really want to live in a world where disability is not exception, but the norm.

ステラ・ヤング: 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく https://youtu.be/8K9Gg164Bsw?si=YDVzvBJrGXoXGF2Q より

障害が特別視されずに普通とみなされる社会をステラ・ヤングは望んでいる.この普通とみなされる社会の妨げになるものが感動ポルノであるのだ.

感動ポルノから考える差別と障害者表象

この感動ポルノを出発点として差別や障害者表象について考えてみようという趣旨が好井裕明著の本書である.

障害者が頑張る姿を感動を生み出すためだけの道具であるとして感動ポルノというレッテル貼りをして作品を批判することは建設的ではない.感動を消費されているという感情的な視点で障害者にまつわる諸問題を論じるのは些か勿体ないのだ.そのことを本書は教えてくれる.

本書ではメディアが提供する感動ポルノを批判をしていない.感動ポルノそれ自体ではなくて,メディアで作られてしまう障害者表象(障害者のイメージ)が問題でありそれが障害者たちに生きづらさを生み出しているということを指摘している.


感動ポルノの課題

本書では明示的には書かれていないが,感動ポルノにまつわる課題は2つの視点で成り立っていると考える.

  1. メディアの課題

  2. 受け取り手の課題

メディアの課題は障害者のイメージを作品に利用しないことである.メディアが障害者のイメージを固定化してきた罪がここにある.本書の第二章では障害者が映画やドラマなどでどのような対象として描かれてきたかを実例に沿って解説している.昨今の描かれ方として「称賛や感動の対象としての障害者」が多くされている.障害者が自身の障害に立ち向かいスポーツを頑張る姿であったり,障害者の人徳が強調された作品が障害者のイメージを作り上げてきた.

自分もこのような描き方をした作品が悪いとは思わないが,これをステレオタイプな障害者のイメージとして世間に認知させてしまったことが原因により,そのイメージを神聖化させた安易な障害者表象を用いた作品が作り続けられてしまったことが問題だと思う.そのように固定化されたイメージを利用して感動を誘う作品は評価はされないだろう.また,固定化されることによって一般人の障害者理解の妨げになる.こういった固定化されるイメージを使った「わかりやすい」表現を多用することを批判しなければならない.

メディア作品を享受する受けとり手の課題はp54で書かれている通り,障害者を理解する志向と他者として障害者と向き合う志向を持つことである.障害者を扱ったメディア作品を見るとき,そこで表現された感動以外にも障害者を同じ世界を生きる他者として向き合うことを鑑賞する時の頭の片隅に入れておきたい.ステレオタイプな障害者表象を持って作品を見ることはある意味で障害者に対する偏見を加速させるような行為なのだろう.

最近話題になったのはイオンシネマ調布での出来事だ.

中嶋涼子さんが発信したtwitter(X)の投稿が発端となった話題であり,

車椅子の人が段差が多い劇場で見るためにスタッフの力を求めるのは不当な要求か,妥当な要求かが議論が分かれている.

この件に関してはネットなどで多く議論されている.この一件を見聞きして障害者の苦悩を映像などを通さずとも,SNSがある時代ではもっとリアルの声を聞いての議論ができるのかと思った.それと同時にSNSという短い文で話題の前提条件と伝えたいことをしっかりと伝えることは難しいのだなとはこの一件で思った.

余談

感動ポルノも該当するのだが,インターネットというのは強い言葉が流行ってしまう.「片親パン」「負け組ランドセル」などなど.こういった差別的な,当事者の一部は自虐的に使用される言葉がネット上で不特定多数の目に留まるといった事実は人の加虐性を実に身近に感じてしまう.

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