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あの世行きのケーブルカー

副駅名というのが増えているらしい。
本来の駅名のあとに周辺の施設名などを併記したものだ。目的の1つは利用者の利便性を図るというもので、東京都営地下鉄の「御成門(東京タワー前)」「両国(江戸東京博物館前)」などがある。2つめにはポートライナーの「計算科学センター駅(神戸どうぶつ王国・「富岳」前)」など、ネーミングライツとして広告収入になっている例。神戸市営地下鉄「駒ヶ林(三国志のまち)」などは、街のイメージアップの手法として使われている。

12月15日から摩耶ケーブル虹の駅の副駅名が「旧摩耶観光ホテル前」になった。これが上記の3つにはあてはまらない画期的な副駅名なのだ。
まず、利用者の利便性を図っていない。つまり、この駅に降り立っても摩耶観光ホテルは営業していないし、摩耶観光ホテルに近づくことすらできない(立ち入り禁止)。そして旧摩耶観光ホテルの現オーナー(ややこしい)から依頼されたわけでも、広告料をもらってるわけでもない。さらに摩耶観光ホテルは崩れかけの廃墟壊れかけのRadio(by徳永英明)の比ではない。街のイメージアップどころかむしろイメージダウンになりかねない。

そしてこの駅の正式名「虹の駅」が話をややこしくしている。そのメルヘンさ加減は北海道の「幸福駅」にひけをとらない。虹は地名でも周辺施設でもなんでもない自然現象(2001年のリニューアル前は摩耶駅だった)。しかしここにくれば確実に虹が見えるわけではない。つまり幻。そんな駅名ありか? たとえば六甲道駅に降り立って「あー残念!今日は六甲道じゃなかった」だったら結構不便だ。なぜ虹なんだ。だいたい虹の駅の「の」ってなによ。調べてみると近畿運輸局的には「虹」が正式名称で「虹の駅」は公式通称らしい。ああややこしい!考えれば考えるほど悩ましいのに、幻のような公式通称に実態のない副駅名をつけるというのだからどうかしている。

結果的に「虹の駅(旧摩耶観光ホテル前)」は虹と廃墟をくっつけるというあの世感のある、日本のどこにもない駅名になった。しかし摩耶ケーブルの歴史を少し紐解いてみればこの駅名も納得できる。大正14年に村と摩耶山中腹にあった天上寺とをつないで参詣客を輸送するために開設されたこの鉄道は、もともと此岸(この世)と彼岸(あの世)を結ぶアクセスだったのだ。つまり先祖返りしたということになる。

11月27日に虹の駅(旧摩耶観光ホテル前)前(ややこしい)で開催されたマヤ遺跡カフェのときのこと。15時ごろ雨雲が現れ小雨が降りだした。西の空に傾きかけた太陽が摩耶山を照らすと、廃墟に虹がかかった。街の、いや山の奇跡だ。



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