人事の問題を考える(障害者雇用を同情でしてはならない)

■障害者雇用を美談にする違和感

先日テレビの報道番組で障害者雇用の工夫の話が取り上げられていた。彼にできる仕事とそれに合わせた仕事の仕方を工夫した例になるのだろう。それ自体は悪い話でもなく、他社も倣った方が良いと思っている。

中小企業が障害者を雇用するというのは並大抵では無く工夫をしなければならない。

障害者に支払う賃金を低く抑えられるとは言え、会社自体の清算プロセスに無理がかかる恐れがあるのだから、その雇用に躊躇する理由も分かる。

私自身も起業したことがある。その時に言われたのが、「利益を出して税金を払うこと」「雇用を拡大すること」「反社会的なことをしないこと」だった。社会を健全な姿にするためにしなければならないと言うことだ。

したがって、社会貢献の一環として「障害者雇用」に取り組むことは必要だと思う。しかし、あたかも「施し」のように彼らに職を与えるのは違和感がある。なぜだろう

■法律であることは当然であること

年度替わりは、様々な法律改正に対応した施工が実施される時期でもある。

こうした法改正は当初はニュースで取り上げられるのだが徐々に忘れられてしまうことが心配だ。

障害者雇用法の改正が令和元年に改正された。と言うアナウンスがある。(下記)

 障害者雇用の促進については、2017年9月から約1年にわたって開催された「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」によって幅広く議論され、その議論の成果が2018年7月に「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書」としてとりまとめられました。
 このような中で、国及び地方公共団体の多くの機関で、対象障害者の確認・計上に誤りがあり、法定雇用率が達成されない状態が長年にわたって継続していたことが明らかとなりました。このような事態は極めて遺憾であり、制度を所管する立場にある厚生労働省及び国等はこれを重く受け止めた上で、再発防止を徹底するだけでなく、これを契機として、今後は民間事業主に先駆けた取組にも積極的にチャレンジする等、名実ともに民間事業主に率先垂範する姿勢のもとで、障害者の活躍の場の拡大に向けた取組を進めていくことが必要です。
 このような状況を踏まえ、官民問わず、障害者が働きやすい環境を作り、また、全ての労働者にとっても働きやすい場を作ることを目指すことが重要であるという観点から、「障害者雇用促進法」が改正されました。(令和元年6月7日成立し、同年6月14日、同年9月6日、令和2年4月1日で段階的に施行されます)。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00006.html

障害者雇用は法律で義務づけられていることを忘れてはならない。「親切」ではない「義務」なのだ。ただし、無制限に雇用しろといっているわけではない。

障害者雇用促進法では、事業主に対し、常時雇用する従業員の一定割合(法定雇用率、民間企業の場合は2.3%)以上の障害者を雇うことを義務付けています。

(同サイト資料)

現状はどうなっているのだろう。令和3年 障害者雇用状況の集計結果として下記が記載されている。

<民間企業>(法定雇用率2.3%)
 ○雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
  ・雇用障害者数は59万7,786.0人、
    対前年比3.4%上昇、対前年差1万9,494人増加
  ・実雇用率2.20%、対前年比0.05ポイント上昇
 ○法定雇用率達成企業の割合は47.0%、対前年比1.6ポイント低下

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23014.html

およそ2%。100人いれば2人という計算だ。しかし、50人未満であれば0人になってしまう。小数点で表される人はいないのだから。

しかし、こうした人数比率で良いのだろうか?

■障害者はどのぐらいいるのだろう

身体障害者 366.3万人
知的障害者 54.7万人
精神障害者 302.8万人

障害者の範囲(参考資料)

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf

と言う数字が確認できる。700万人近くいるということは、労働力人口が6800万人程度いることを考えると、2%程度というのが少ないことが分かる。

知的障害者や精神障害者の雇用が難しいのは分かるが、せめて5%(20人に一人)ぐらいにしなければ、人数の少ない中小企業の意識も変わらないだろう。

会社経営の中核は、儲けを出して次の投資を行ない成長を続けることだ。そのため、儲けを出すための負のリスクは避けたいというドライブが働く。すなわち、利益を出すバリューチェーンでの不確定要素を減らしたいという気持ちは分かる。

しかし、これは時代遅れとしか思えない。

■企業の対応の実際

少し旧いが、東洋経済から下記の記事が掲載されている。

一定の関心がある証左であろう。

「障害者の雇用」に積極的な企業ランキング100

コロナ禍で障害者雇用が「後戻り」する懸念も

2020/10/13

障害者雇用は景気の影響を受けにくいとされるが、雇用者数の前年増減比をみると、就職氷河期やリーマンショックなど景気低迷期は増加ペースが低下あるいは減少に転じている。実際、厚生労働省の集計によると、障害者解雇者数は2020年2月から6月にかけて計1104人、前年比152人(16%)増となっている。
もちろん、一般事業者の雇用の落ち込みはより深刻だ。しかし、今後「第2の就職氷河期」に陥るような事態になれば、官民で取り組んできた障害者雇用の浸透が後戻りする懸念もある。
しかし、こうした懸念を払拭してくれるのは、障害者雇用に積極的に取り組み、法定以上の雇用率を達成している企業が少なくないという事実だ。
1位は、障害者に特化した就職・転職サービスを展開するゼネラルパートナーズだ。雇用率は20.53%(43人)。同社は精神障害者の雇用創出のために、菌床シイタケ生産販売事業所を運営している。障害者の経済的自立と安定就業へのサポート、一般企業への就職や復帰のためのリハビリテーションの場となっている。
2位は食品トレー、弁当・総菜容器最大手のエフピコで、雇用率は13.60%(359人)。特例子会社のエフピコダックスや、就労継続支援A型事業のエフピコ愛パックなどを中心に、全国21カ所の事業所で障害者雇用に取り組む。また、取引先の障害者雇用サポートとして、工場見学なども実施している。

https://toyokeizai.net/articles/-/381087

企業戦略に「障害者雇用」を組み込んでいる組織での雇用率は高い。逆に、単に社会貢献的な枠組みでは雇用率はありきたりな水準になることが想定される。

■戦略に組み込まれていないことの違和感

法律で定められていると言う理由では、障害者雇用を特別扱いにしているに過ぎない。

企業戦略の中に組み込む必要がある。

○ハンディキャップの解消は生産性向上につながる

しかし、これは「製造現場」の発想にしか過ぎない。ITが高度化し、知的活動が重要になってくれば、身体的ハンディキャップはどうにでもなる。むしろそうしたハンディキャップを解消させる活動環境は全体の生産性向上にもつながる。

考えてもみて欲しい。屈強な男にしかできない仕事を、女性でも、あるいは車椅子からでもできる環境を実現すれば、安全性の確保や人員の流動性にもつながる。特定の要員に依存しない組織の方が、人員にかかるコストも少なくなる。

成功事例をネットで探してみよう。見つかるはずだ。

○仕事ありきから人ありきに代えることの重要性

ジョブ型雇用を考える際にも配慮した方が良い。

「○○の仕事が任せられる限られた人を探す」では無く、「この仕事を担うためにはプロセスをどう改善したら、多くの人にチャンスを提供できるのか」で考えないと、人材の争奪戦になり、採用コストが上がってしまう。

身体的なハンディキャップを持った人に意見を聞くことも重要になるだろう。

「彼にしかできない仕事はなんだろう」と考えることにより、能力発揮の場の創出ができる。上記の反対のアプローチになる。

ハンディキャップを克服することは組織能力の向上につながることは多くの事例があるだろう。仕事があるから人を採用するのでは無く、採用がしやすいジョブのあり方を検討することを勧める。

ジョブ型雇用といって、潜在的な弱者を切り捨てるアプローチはいただけない。

<閑話休題>


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