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ISO9001と経営:「8.5.1 製造及びサービス提供の管理 d) 適切なインフラストラクチャ及び環境)」(鍍金と猫と六価クロム)

ISO9001と経営:「8.5.1 製造及びサービス提供の管理 d) 適切なインフラストラクチャ及び環境)」(鍍金と猫と六価クロム)

ISO9001:2015という規格の根底には“未然防止”という考え方がある。
漫然と書いてあることを眺めるのではなく、その意味を深く考えることが重要である。

■悩ましい事件が起きた

○六価クロムの水槽に転落した猫が逃げる…広島県福山市「見つけても近寄らないで」
2024/03/11

 広島県福山市は11日、同市柳津町の「野村 鍍金めっき 福山工場」で猫が有害物質の六価クロムを含む水槽に転落し、その後、逃げたと発表した。猫は周辺にいる可能性があり、市は衰弱した猫を見つけても近寄らないよう呼びかけている。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20240311-OYT1T50198/

六価クロムはメッキに使用する溶剤であり適切な管理が必要である。

ネットで、その特徴を調べると以下のように出てくる。

六価クロムは、可燃物や還元剤との接触を避け、有機物との接触も避ける必要があります。また、局所排気装置を使用したり、容器を転倒させ落下させ衝撃を与えたりしないようにしたり、漏れや飛散などをしないようにしたりする必要があります。使用後は容器を密閉し、取扱い後は手や顔などをよく洗い、うがいをします。

○六価クロム この物質に関連する法規制等
環境基本法
化学物質排出把握管理促進法(化管法)
水質汚濁防止法
土壌汚染対策法
特定有害物質
下水道法
廃棄物処理法
水道法

https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.html?word=六価クロム&chem_id=2243&n_id=21

したがって、密封していない容器に保管することは適切とは言えず、仮に一時的な容器に移しているとしたら、それもまた適切な管理が求められるの自明であろう。

こうした事例をISO9001:2015という規格に適用しようと試みるのがこのシリーズの狙いなのだが、実はとてもわかりにくい事例でもある。

ISO9001:2015という規格では、暗黙のこととして「法令遵守は当然のこと」という考え方が含まれていると考えている。ただし、ISO9001での認証のための審査では、「法令遵守の審査を予定」することはない。プロセスの管理の上で、当然すべきことをしていないことが検出されたのであれば指摘するが、原則「適合審査」の中で、蒸気の法律に基づく審査はしない。(注:配慮しないといっているのではない。)

しかし、上記のような事件がなかったとして
・蓋のない水槽に六価クロム
が見つかったとして、どんな視点で所見を書くことができるであろうか。

■材料の適正管理の項番

実は、ISO9001:2015では、“材料”と言う言葉は一カ所しか出てこない。

8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物
組織は,顧客又は外部提供者の所有物について,それが組織の管理下にある間,又は組織がそれを使用している間は,注意を払わなければならない。

注記  顧客又は外部提供者の所有物には,材料,部品,道具,設備,施設,知的財産,個人情報などが含まれ得る。

これ以外には出てこない。そうすると、この注記に含まれるものは何に当たるのだろうか?

この先は、「類推」あるいは「一般常識」などに頼らざるを得ない。
そこで、このドキュメントでは関連しそうな項番を適帰して考えてみる。

(1)8.5.1 製造及びサービス提供の管理

組織は,製造及びサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない。
管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては,必ず,含めなければならない。
d) プロセスの運用のための適切なインフラストラクチャ及び環境を使用する。

厳密に言えば、「適切なインフラストラクチャ及び環境」に「蓋のない水槽」が含まれるかどうかはともかく、六価クロムが蓋付きの容器で管理されることが期待されるのであれば、その水槽はインフラストラクチャの一部として見なすことができるだろう。

(2)7.1.3 インフラストラクチャ
織は,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない。
注記  インフラストラクチャには,次の事項が含まれ得る。
a) 建物及び関連するユーティリティ
b) 設備。これにはハードウェア及びソフトウェアを含む。
c) 輸送のための資源
d) 情報通信技術

何をインフラストラクチャに含めるかは組織が決定する要件になる。したがって注記については参考程度にすべきこと。また、「明確にし,提供し,維持しなければならない」とは記述されているが、妥当であることは記述されていない。だからといって「法令遵守」がないがしろにされて良いわけでもなく、安全を犠牲にして良い理由にはならない。

■組織が自覚すべきこと

(1)信頼
 製品・サービスの質が損なわなければ顧客からの信頼はそう簡単には失うことはないだろう。しかし一事が万事で、確かな管理がされているかについては疑念を持たれるだろう。つまり「工場に簡単に犬猫が出入りできるのか」である。
 一般的に、工場などは「関係者以外立入禁止」であるし、「禁煙」は当然のこととして、「5S」に準じた清潔さが求められる。
 また、社会からの目も重視すべきであろう。

○いまだ行方不明の六価クロム槽転落ネコ…事態解決を困難にする2つの懸念
2024年03月16日

11日に広島県福山市の金属メッキ加工工場で液体六価クロムの含まれる槽に猫が落下。その後、現場から逃げたことが、ちょっとした騒動となっている。5日が過ぎた16日もいまだその行方は分かっていない。

前出の担当者によると、「六価クロムは赤褐色なので、おそらくその色に染まっていると思われます」と話すが、カメラに映った逃げる様子からはその確認は難しく、ひと目で有害物質を浴びた該当の猫と判別するには情報として乏しい。

さらに、周辺は海沿いの工場密集地で、猫が姿を隠す場所も豊富にある。野良猫もいるといい、特定するのは簡単ではなさそうだ。

「そもそもそんな有害物質が猫が出入りできる程度の管理しかされていないというのも問題かと」「猫だけでなく公園の遊具等に六価クロムが付着している可能性もあるから注意が必要」といった声もあがっていた。

https://www.ben54.jp/news/978

いまだ、会社のホームページに何も記載がないのも不信を生むと言うことを自覚すべきである。

株式会社 野村鍍金 福山工場
https://www.nomuramekki-fukuyama.com/continuous-casting-mold

(2)法律の改訂

ISO9001:2015という規格だけに気を取られているわけにも行かない。
定期的の法律の改訂にも気を配る必要がある。

○化学物質管理者とは 2024年4月から事業場ごとの選任を義務化
杉本崇
2024.03.15

 厚生労働省によると、化学物質管理者とは、事業場で化学物質を管理し、化学物質の表示や通知、リスクアセスメントの実施・記録の保存、ばく露低減対策、労働災害の対応などを担当する者を指します。労働安全衛生法関係法令の改正で、2024年(令和6年)4月1日から事業者が自律的な化学物質管理をする必要があり、その一環として、化学物質管理者の選任が義務化されます。

https://smbiz.asahi.com/article/15186233#inner_link_003_1

残念ながら、どの程度の量の化学物質を扱っていると専任者が必要なのかは組織に行かないと分からない。しかし、どうしているかは確認する必要ある。もし抗した法規を知らないというのであれば調べることを勧めるのも審査員の責務かもしれない。場合によっては下記の要求事項も確認しよう。

7.2 力量
組織は,次の事項を行わなければならない。
a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり,とった処置の有効性を評価する。
d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。

注記  適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結など
もあり得る。

(2024/03/24)

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