バズワード化しているジョブ型雇用と言う言葉
■目標管理制度
かつて成果主義の名のもとに目標管理制度という人事制度を組み込んだことを覚えているだろうか。それまでの年功序列の単純に増加する賃金の支払いができなくなったことを素直に認めず、賃金カットの道具にされたという記事もよく見た。
本来、ドラッガーが云う「目標による個人のマネジメント」は、何のためにその仕事をするのかという問いかけのないジョブは単なる作業になり、成功したかどうかの指標がなく生産性向上にもつながらないので組織能力も高まらないという文脈で語られていると思う。
当時の人事部が飛びついたのは、人事権を取り戻せると云うことと賃金コストの抑制のいいわけになるといううがった見方をしている。
■猫も杓子も
最近のはやり言葉は「ジョブ型」だろうか。目についただけでも以下のような記事がある。
○日本でもついに始まったジョブ型雇用、その実態は?
2022.3.24
https://diamond.jp/articles/-/299280
■ジョブが定義できるという勘違い
報道記事などを見ると比較的大手が対応していることが分かる。こうした大企業では、海外展開をする上でグローバルな体系が必要であることなども背景にあるだろう。人事制度をグローバルな人員獲得に対応しようとすると、こうした「ジョブ型」にならざるをえない。
しかし、国内でクローズしている企業にとっては、こうした制度を安易に考えることは避けて欲しい。すでに日本の人事の大半は年齢給ではなく能力に応じた報酬と云うことで職能という概念を取り入れている。その要素は、階層(部長、課長、主任、一般など)ごとに求める役割(一人で仕事ができる、指導できるなど)を定義し、職種(営業や技術職など)毎にするべき仕事の範囲を決めている。
○損保ジャパン、2022年度よりジョブ型制度を順次導入 専門人材の獲得・育成や自律的キャリア形成を支援
2022/03/18
https://hrzine.jp/article/detail/3938
既存の職能資格制度の焼き直しであることが分かる。
これをもっと細分化したところで、かえって仕事の幅を狭めるだけでモレヌケが出る。企業にとっても働く人にとっても不自由になるだけでメリットは少ない。
■一方的な押しつけも好ましくない
記事の大半は、経営側・企業側の都合でしか見ていない。
○4社に1社がジョブ型採用を導入、適性人材の獲得や離職率低下で手応え―学情調べ
2022/03/25
https://hrzine.jp/article/detail/3948
記事の中で「半数超が、ジョブ型採用導入で「適性に合う母集団が集まりやすくなった」と回答とあるが、これは見方を変えると、いままでどんな仕事をして欲しいのかという情報を応募者に提示してこなかったことの裏返しと言える。
気をつけなければいけないのは、どんな仕事をして欲しいのかというのは企業側の論理だ。どんな仕事をしたいのかという働く側の感情を配慮しないと、それ自体のミスマッチはなくならない。
■言葉のうさんくささ
この投稿の主題は「バズワード化しているジョブ型雇用」なのだが、同じようにうさんくさいと思っている人もいるようだ。
○2022.03.10 話題の「ジョブ型雇用」が見落としている「致命的な落とし穴」
そして、ジョブ型雇用も「中身が明確ではないのにブームだけが先行する」という点で、DXと同じ匂いがする。
世間で言われているジョブ型雇用とは、
働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定して雇用する形態。
事業展開に合わせて外部労働市場から機動的に人材を採用する。
特定の業務がなくなれば、担当していた人材は解雇されることも多い。
という3点が中心だ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93118
続く記事の中で
ジョブ型雇用を叫ぶ経営者たちは、ジョブ型雇用を導入して「(これまで終身雇用を前提に低かった)若年層の給与を上げる」つもりがあるのだろうか?
まったくそのような気配は見えない。
と指摘している。
その是非はともかく、本来は働き方の議論がいつの間にか賃金の話にすり替わる。
うさんくささの原点がここにある。
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