水車 第二章 第2話

 「騎士団長が面会求めているって?」軍府は参謀長が面倒を視てくれているが8日毎の定例会議には森に来る。でその折に書簡なんかだと都合の悪そうな情報、主に噂とか、を持ってくる。
 「現状では難しいと伝えてはあります」どうにも騎士団は信用できない、暗にそう言うことだろう。脳筋だから頭が悪いとか、そんな事は全く無い。むしろ専門の分野については、素人では及びもつかぬ知恵を発揮する訳で、先の団長と副団長の行動は果たして何らかの連携が有ったのではないか、と疑い得るものだった。
 うん、会おう、今度連れてきて。片眉をあげて眼を見張ったあと、ではそのように、と参謀長は退出した。
 参謀長の搭乗した、軍府に帰る飛空艦が二機の気球を曳いていく。高度を上げすぎてパイプを破裂させたのだそうだ。流石に発動機関連の修理は工廠になる。
 機体の方はと言うと意外な事に森人の工芸能力がそのまま運用出来た。資材も森からの調達でほぼ間に合うらしい。
 この際ドック造っちゃうか。撤収後は森人にも使えるし。

 なんだって?陸軍が面会要請?参謀長が帰った翌日、当人から書簡が届いた。
 憲兵隊以外なら構わない、どうせ水軍から申し入れがあるだろうから予定にいれといて、と返事を書いた。なんで水軍もって判るかって?勘?いやさ、これ絶対来るパターンだろ。
 外で歓声が上がった。なんだろうと窓の曇りを手袋で拭いて見てみると、兵達が帽子を空に放り上げていた。寒くないのか?
 どうやら飛空艇の試験飛行の最中で様々な機動を試しているらしい。見てくるか?寒いから止めよう、これから何時でも見れるし。
 当番兵を呼んで返信を託した。これこれ、ちゃんと復唱しなさい。

 工廠長から連絡があって、有望銃器の目処が付いた試射をするから来いと。工廠長は工房を設えて実験を続けていた。でもなあ、ここから遠いんだよなあ、寒いし、飛空艇乗ってくか。
 冬の上空を甘く見ていた。むちゃくちゃ寒かった、寒いなんてもんじゃなかった。こんなん毎日飛んでんのか、なんか考えないと反乱起きかねん。取り敢えず曹長には取って置きの蒸留酒を遣ることにした。
 試射はうまくいった。十間ほど先に的を置いて弾倉の十発撃ち放して、全弾命中ほぼ真ん中に集中している。
 専用の水車を必要とするので重く歩兵用には向かない。が、飛空艇の固定武装ならいける。装弾数をどれだけ増やせるか改良点も煮詰まってきた。春までに全機体に装備させたい。取り敢えず現行の図面での量産を指示した。
 これで、かつる。ごうせい魔獣じゃないよ。

 三軍の使者を戦装束の森人兵が出迎える。ここは、森人の国だというアピールだ。憲兵隊とつるんでなにかを企むなら覚悟してね、そう言った訳だ。
 騎士団長はなにか思うところがあるのか、傍らの森人兵に話し掛けた。森人兵はピクリとも反応しない。むしろそれが気に入ったらしい。「よく鍛えてあるでごわす」言葉が通じないからとは思わなかったらしい。ま、空軍所属だし通じない分けないか。そんなの教えた覚えもないし森人気質だろうよ、言わないけど。
 空軍も入るから四軍会談の形になった。まず陸水それと騎士団の三軍は長官を疑ってはいない。長官の小飼である俺の事も[白]だろうと判断している。この一連の状況は隣国からの工作である疑いが強い。
 「なぜそう思う」のですか?三軍とも長官が王命で動いていたのを知っていた。知らなかったの俺だけ?
 困った事にどうやら敵に取り込まれているのは憲兵隊の上、王弟だろう、と話が進み「恐れ多い事ながら」簒奪の恐れありと。
 「空軍にどうしろと?」「太子殿下をかくまって貰いたい」

 これ、罠じゃないよね。陸軍には、やけにシャープな顔立ちの美形の女官がいるなぁと思ったら、それが太子殿下で「宜しく」と挨拶された。
 王都には近衛と憲兵隊が本拠を構えている。建前は憲兵隊は近衛の下部であるが、王弟が実権を持つため力関係は時に逆転する。近衛上層に某かの嫌疑が掛かれば、憲兵を押し止めることは出来ない。
 今まさにその状況で、兵部省、空軍に対するちょっかいも、長官の動きを封じ四軍を牽制するのが目的であったかと、漸くにして知れた。
 「一応準備しといて」参謀長に書簡で指示を出し森の兵力の半数を軍府に差し向けた。

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