見出し画像

【MLB】新天地で発揮する”勝者のメンタリティ”

もう一週間以上前のことですが、今季もトレードデッドライン間近の各球団の動きは活発でした。

大谷のトレードの噂から始まったものの、この夏の超大目玉は結局移籍せず。
大谷の所属するエンゼルスは買い手の立場としてジオリトに加えリリーフ投手を二人、シーズン途中に獲得したエスコバー、ムースタカスだけでなく、クロン、グリチックという野手も複数人獲得。
また、売り手と思われたカブスは後半戦に調子を上げ、大谷に次ぐ野手の目玉で合ったベリンジャーを結局放出せず、エンゼルスと同様に買い手に回りキャンデラリオを獲得。

一方で、ここ数年で大型の補強を繰り返していたメッツは今シーズンをあきらめ、ロバートソンをマーリンズへ放出したのを皮切りに、シャーザー、バーランダーもそれぞれレンジャーズ、アストロズへ放出。ファムやカナといったベテラン野手も放出しました。

そしてワイルドカード獲得にまだ望みはあるが、チーム状態を鑑みると楽観視はできず、買い手に回るのか売り手に回るのか注目していたヤンキースは、まさかのリリーフ投手一人を獲得したのみで、ほぼ静観だけで終了。
8/9時点でまだ同地区のレッドソックスとは7試合、ブルージェイズとは6試合、レイズとは3試合、そしてブレーブスやブリュワーズとのカードもあり、現戦力でどう戦っていくのでしょうか。期待しましょう。


さて、トレードで獲得した選手に期待することは、新天地となるチームにブーストをかけること、チームのエンジンのギアをあげることです。

そして、そのためには実力だけでなく、経験、そして精神力が求められます。

トレード先のチームは地区優勝、もしくはポストシーズン進出を争っているだけあり、アドレナリンもドーパミンもテストステロンも最高値にある、興奮状態のチームです。

そんな中に加わるアウトサイダーの選手には期待がかかる反面、大きなプレッシャーにもなります。


また、若いチームにはポストシーズン進出、そしてポストシーズンを勝ち進むイロハがなく、不安な部分を抱えているかもしれません。そんなときにトレードで加入する”優勝請負人”には圧倒的なリーダーシップが期待されるのです。


そんなプレッシャーをはねのけ、新しいチームで躊躇なくリーダーシップをとれる精神力こそ、勝者のメンタリティなのです。


今回はこれまで夏のトレード先で、その勝者のメンタリティを発揮した選手を紹介します。




2008年 CC. サバシア(ブリュワーズ)

トップバッターにして最も勝者のメンタリティを感じた選手が、この2008年のCC. サバシア。

ブリュワーズはシカゴの北にある比較的小さな都市、ミルウォーキーを本拠地とするチーム。
一度ミルウォーキーには行ったことがあるのですが、田舎町で日中にもかかわらず街には人があまり歩いておらず、大通りの車の通りもまばらです。本当に球場に数万人が集まるのか、というイメージ。

そんなチームは1982年のワールドシリーズ出場(チャンピオンにはなれず)を最後にポストシーズンには進めず、1998年に今のナ・リーグ中地区に変わってからは3年連続最下位(2002-2004)にもなった弱小球団でした。

そんなブリュワーズは2007年に地区2位となり自信をつけ、2008年は前年ホームラン王のプリンス・フィルダーと、同じく前年新人王のライアン・ブラウンを中心とした攻撃力を武器に、前半戦時点で貯金9。十分にポストシーズン進出を狙える立場にいました。

一方で課題だったのが先発陣。
エースのシーツ、そして前年まで二年連続二桁勝利を挙げていたブッシュまではいいとして、次に続く先発投手が心もとなく、課題となっていました。


そんな中で、当時のトッププロスペクトであったラポータ(と、後に開花するブラントリー)を放出し、獲得したのがCC. サバシア。

サバシアは1998年のドラフト全体20位でインディアンズ(現ガーディアンズ)に入団し、2001年にはルーキーながら17勝5敗を記録したクリーブランドのエース。2007年まで7年連続で二桁勝利を挙げ、特に2007年は34試合登板、241イニングという令和ではなかなかお目にかかれないイニングイーターっぷりを発揮していました。

ただ、2008年にインディアンズは低迷し、オフにFAとなるサバシア放出を決断。ブリュワーズへ移籍しました。


サバシアは7/7に移籍してからというもの、経験の少ないブリュワーズに、まさしく勝者のメンタリティを注入しました。

7/8のブリュワーズ初登板で6回2失点で勝利投手になったのを皮切りに、圧巻のパフォーマンスを披露。その後の3試合は以下の通り。

7/13 vs. CIN 9回8安打2失点9奪三振
7/18 vs. SF   9回4安打1失点10奪三振
7/23 vs. STL 9回3安打無失点7奪三振

3連続完投勝利で、3試合目は完封でした。21世紀のアメリカで斎藤雅樹が爆誕した瞬間でした。

そのままサバシアは好調を維持し16試合で10勝(2敗)を挙げるなど、あっという間にブリュワーズのローテーションの大黒柱に。そして、迎えた9/28のチーム最終戦では、ブリュワーズ移籍後7度目の完投勝ちでワイルドカードでのポストシーズン進出を決めました。

ちなみに、これはサバシア自身、3試合続けて中3日での先発登板でした。

ポストシーズンでは地区シリーズでフィリーズに敗れてしまったものの、サバシアはこの年のリーダーシップを評価され、オフにヤンキースと7年1億6100万ドルで契約。

またブリュワーズも翌年以降3度地区優勝を果たし、計4回ポストシーズンへ進むチームとなりました。


移籍したチームで献身的に貢献し、これまでの実績以上に好成績を残し、チームに勢い、勇気を与えるパフォーマンスをする。まさしく勝者のメンタリティを感じた選手でした。


2016年 アンドリュー・ミラー(インディアンズ)

さて、2008年シーズン途中にサバシアを放出したインディアンズは、その後長く低迷しました。
2013年に6年ぶりにワイルドカードでポストシーズンに進出するも、レイズに敗退。翌年以降は二年続けて3位と、ポストシーズンとはかけ離れ、1948年にワールドチャンピオンになって以降、実に70年近くワールドチャンピオンになれていませんでした。

そんなインディアンズは2016年、ポストシーズン進出に値する強豪チームとなりました。
インディアンズはもともと先発陣が強く、この年も頭数は豊富。
2014年にサイヤング賞を獲得したクルーバーを筆頭に、バウアー、トムリン、カラスコ、サラザーと奪三振力が高い選手がそろい、結局この5投手すべてが二桁勝利を達成。

また、野手陣もナポリ、キプニス、サンタナに加えてリンドーア、ラミレスがレギュラーに定着し、攻撃力も備わっていました。


そんなインディアンズが久しぶりに夏のトレード市場で買い手に回り、ヤンキースから獲得したのが、アンドリュー・ミラー。


ミラーは2006年のドラフトで6位指名と高い評価を得て、タイガースに入団。
ただ、入団後すぐにミゲル・カブレラとのトレードでマーリンズへ、そしてマーリンズではなかなか結果を残せずレッドソックスへ再びトレードで移籍。この移籍は彼にとっての転機でした。

レッドソックス入団2年目にリリーフに転向し、才能が開花。53試合に投げ、40.1イニングで51奪三振。WHIPは1.19と、前年の1.82から大幅に改善しました。

リリーフ転向3年目の2014年にはリリーフ投手として100奪三振を達成。その年のオフにヤンキースと4年3600万ドルというリリーフ投手としては最大限の評価を得ました。


ヤンキースでは入団2年目にチャップマンと共に絶対的な勝利の方程式を担いましたが、チームの低迷によりチャップマンはカブスへ、そしてミラーはインディアンズにトレードされました。

インディアンズ加入後は2か月で26試合に投げ、WHIPは0.552。連日ほぼ完ぺきな救援をし、チームの地区優勝に大きく貢献しました。


そしてミラーの勝者のメンタリティを垣間見たのはポストシーズンでした。


戦術・メッシ、ならぬ戦術・ミラー。


重要な場面と判断すると、セットアップにもかかわらず試合の中盤に惜しげもなくミラーを投入。登板した10試合すべてがイニング跨ぎで、ブルージェイズとのリーグチャンピオンシップでは5試合中、4試合に登板。その内容も以下の通り相手を制圧するものでした。

GAME1 7回から登板し、1.2イニングを5奪三振無失点
GAME2 7回から登板し、2イニングを5奪三振無失点
GAME3 8回途中から登板し、1.1イニングを3奪三振無失点
GAME5 6回から登板し、2.2イニングを1奪三振無失点

権藤権藤雨権藤を超える、ミラーミラーミラー雨ミラーという圧倒的なパフォーマンスを魅せました。

続くワールドシリーズでも好投するも、第7戦で痛恨の被弾。カブスとの激闘に敗れてしまいました。



2017年 ジャスティン・バーランダー(アストロズ)

この年のバーランダーについては以下の記事でも“セカンド・インパクト”して紹介しています。

今となっては信じられませんが、当時のアストロズは3年連続最下位(2011-2013)をするようなお荷物球団。
2014年のSports Illustrated誌で、「2017年のワールドチャンピオンはアストロズ」なんて特殊が出た時は誰もが笑いました。


ところが、2017年、アストロズはワールドチャンピオンにふさわしいチームへとなったのです。
打線ではアルトゥーべ、ブレグマン、コレア、スプリンガーといった若手が急成長し、投手陣は規定投球回に到達した先発はいなかったものの、ハリス、デベンスキ、そしてジャイルズに繋ぐという鉄壁のリリーフ陣でカバーし、シーズントータルで101勝をあげ、地区優勝をしました。

そんな、若くて経験の浅いチームに8/31に加入したのがジャスティン・バーランダー。

バーランダーは2004年のドラフト全体2位で入団以降、タイガース一筋のオールスター投手。もちろん誰もが、これからもデトロイトで数々の記録を作り、デトロイトでキャリアを終えると疑わなかった選手でした。

ところが2017年、チームの低迷が続くとタイガースはバーランダーをアストロズへ放出。


ここからバーランダーのスイッチが入るのです。

9/5のマリナーズ戦で6回を投げ、7奪三振1失点で勝ち投手になると、その後も勝ち続け1ヶ月で5戦5勝。エンゼルス、マリナーズ、レンジャーズと西地区のチームに手も足も出させずに、レギュラーシーズンを終えました。

さらにポストシーズンでも、レッドソックスとの地区シリーズでは初戦に先発し勝利投手となり、第4戦目では5回途中でリリーフ登板し逆転を呼び込むピッチング。


続く、ヤンキースとのリーグチャンピオンシップシリーズでも完封を含む2勝。


ドジャースとのワールドシリーズでは、2登板で1敗という成績だったものの、チームはワールドチャンピオンを獲得。球団にとってもバーランダー自身にとっても初のチャンピオンリングを手にしました。


2021年 マックス・シャーザー(ドジャース)

ドジャースはナ・リーグ西地区の強豪チームであり、2013年から2020年まで8年連続地区優勝をしています。特に2019年は106勝をするようなMLB屈指の横綱でした。

そんなドジャースに2021年の夏のトレードで加入したのがマックス・シャーザー。

シャーザーにとって、新天地でのプレッシャーはかなり大きかったものと考えます。

というのも、ドジャースはこの年も結局106勝をしたチーム。ただし、夏に絶対的エースであるカーショウを怪我で欠き、ジャイアンツが開幕から好調で地区優勝を争っていました。
そんな中でグレイとルイーズという球団内のトッププロスペクトのバッテリーとの交換で移籍してきたこともあり、絶対に失敗は許されない、必ず地区優勝しワールドチャンピオンになるというミッションを背負って移籍してきたのです。

さて、ナショナルズ時代のシャーザーの成績は輝かしいものでした。

・2年連続サイ・ヤング賞(2016, 2017)
・最多勝利を2度獲得(2016, 2018)
・3年連続最多奪三振(2016 - 2018)
・同年に2度のノーヒットノーラン(2015)
・300奪三振(2016)
・1試合20奪三振(2016)
・ワールドチャンピオン(2019)



特に2019年のポストシーズンでは6試合に登板し、3勝。登板した全試合でチームは勝利しました。
また、ワールドシリーズ最中は初戦に登板後、怪我のため一時は全く投げられない状態になりながらも最終戦に先発し、見事チームをワールドチャンピオンに導きました。


そんなシャーザーの実力は誰もが認めるところ。
多大なコストを払いながら、ドジャースもシャーザーの実力、経験、そしてリーダーシップにチームを託したのです。

もちろんシャーザーは期待に応え、移籍後1登板で無傷の7勝。防御率1.98、WHIP 0.820と2ヶ月の間ほぼ完璧なピッチングをしました。

ちなみにドジャース移籍後、3000奪三振を記録。
このイニングは9球で三者三振と、3000という数字はあくまで通過点であるとファンに印象づけました。


ワイルドカードで進んだポストシーズンでは、カージナルスとのワイルドカードゲームに先発登板し、勝利。続くジャイアンツの地区シリーズでは最終戦にリリーフ登板し、チャンピオンシップシリーズ進出を決めました。


結局チームは、後にワールドチャンピオンとなるブレーブスに敗れるのですが、移籍後のシャーザーの奮闘によって彼の価値はさらに上がり、同年のオフに37歳になるにもかかわらず3年1億3000万ドルでメッツと契約をしました。




以上が夏のトレードの移籍先で活躍した勝者のメンタリティを持つ選手の紹介でした。

アメリカは自由の国であり、個人主義、契約社会の国でもあります。
自身の役割、範囲内では結果に対して全責任を負う一方、定められた役割外のものに対してはビジネスライクに切り捨てる側面もあります。

ただし、ここで紹介した四選手に限っては、状況に応じて献身的にチームに貢献し、見事結果を残しました。
それこそプロフェッショナリズムであり、チーム、ファンに勇気を与えられるカリスマ、勝者のメンタリティを体現する選手たちです。


さて、シャーザーは今季もレンジャーズに移籍し、相変わらずに2戦2勝。メッツからアストロズにトレード移籍したバーランダーは、負けてはしまったものの7回を投げ2失点の好投をしました。
この二選手に限らず、新天地で勝者のメンタリティをチームに注入する選手は現れるのか、期待しています。




出典、画像引用元
https://www.washingtonpost.com/sports/2021/08/05/max-scherzer-dodgers-debut/
https://www.baseball-reference.com/

この記事が参加している募集

#野球が好き

11,070件

free