見出し画像

政府は五輪組織委には監督権を持ち、日本学術会議には監督権がない件

 東京五輪の組織委員会会長である森喜朗を擁護する文脈で、「日本学術会議の人事には介入するなというのに組織委の人事には口出ししろというのは矛盾」という類の俗論がツイッターで散見されて、素人がいうのはしょうがないかと思っていたら、だんだん声が大きくなって、自民党の国会議員まで言い始めた。

 しかし、五輪組織委は「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」が適用される「公益財団法人」であり、同法第二章第三節(27条以下)はその名も「公益法人の監督」である。

 同法27条1項は「行政庁は、公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、内閣府令で定めるところにより、公益法人に対し、その運営組織及び事業活動の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該公益法人の事務所に立ち入り、その運営組織及び事業活動の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。」と明定している。公益財団法人は報告を求められた場合、報告書を提出する義務がある(同法施行規則45条)。

 政府は最悪の場合、公益財団法人の認定取消をする権限も持っており、全体として強大な監督権限を持っている。森喜朗の発言が男女共同参画法をはじめとする政府の諸法令ないしその趣旨に反していることは明白で、政府が組織委に報告を求めつつ行政指導をしたら威力は大きい。この点、森喜朗が例の「女性理事がいると会議が長くなる」旨の発言をした際、あわせて、女性理事を増やすことについて「文科省がうるさく言ってくるんでね。」と発言したことをご記憶の方もおられると思うが、これは、文科省が監督官庁として、組織委(または森喜朗は日本ラグビーフットボール協会のことを言っている可能性もあるが、いずれも公益財団法人。)に、女性理事を増やすようにチクチク指導していることを物語っている。国民からも、国際的にも大きな批判を浴びている女性蔑視発言を楯に、政府が、現在の国内・国外の世論を背景に、国民に見える形で、本気で組織委を追い詰めたら、森喜朗に退任を迫る程度のことはできるだろう。国会答弁で虚偽に近いことを言いながら、それをやる気がないのが菅義偉首相の問題なのである。

参照:男女共同参画法
(政策等の立案及び決定への共同参画)
第五条 男女共同参画社会の形成は、男女が、社会の対等な構成員として、国若しくは地方公共団体における政策又は民間の団体における方針の立案及び決定に共同して参画する機会が確保されることを旨として、行われなければならない。

 一方、日本学術会議は、政府機関だが、日本学術会議法第3条1号で「日本学術会議は、独立して左の職務を行う。」と、政府から独立し、このような監督権が及ばないことを明定している。それのみならず、政府は同会議の会員任命について、実質審査をしない「形式的任命」であることを、国会で繰り返し答弁している。これほどしつこく繰り返して明言する事例は希であり、政府が学術会議の会員任命について喙を容れることができないのは、鉄板の公権解釈なのである。これについては下記のYahoo!記事もご覧頂きたい。

 結局、法律の解釈(独自解釈ではなく国会の答弁に基づく政府の公権解釈)としては、政府は、五輪組織委の運営や人事には限定的ではあるが口出しできるが、日本学術会議の人事には口出しできない、というのが正解だろう。

 ところで、昨日知ったところによると、森喜朗は、上記の女性蔑視発言をした際、ダラダラと40分も喋り続けたようである。会議を無駄に長くしていたのは、森喜朗本人だったのであり、まさに、その無駄に長くする行為そのもので、女性委員の発言を牽制していたのである。これを悪質な女性蔑視と言わずして何というのだろうか。また、この手の行為は、女性だけではなく、結局、楯突く者全員(普段は面従腹背を含めてわきまえている男たち)にも向けられた、他者に対する寛容性を一切排したマウンティング行為であることも、確認しておくべきだろう。

(山下泰裕会長は)「一方、発言の場に同席しながらその場で指摘をしなかったことについて「40分間くらい発言した中で半分が過ぎたくらいのところで女性差別と受け取られる発言があり、そのあともいろいろな話題があったので、それを止める機を逸してしまった」と説明しました。」

追記。このような的確なご指摘を頂いた。

追記。公益法人が政府の指導に従わない場合、本当に公益認定が取り消される恐れもある事例。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?