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漫画やアニメは、自分にとっての“しっくり感”を教えてくれる:Kさん

Kさんに、コンテンツとの関わりについて、インタビューしました。 

二次元にどっぷり。『ポケスペ』『ハガレン』『デュラララ』『呪術』

ーーKさんは今までどんなコンテンツに触れてきたんでしょうか?

小学校低学年で『ポケットモンスターSPECIAL』(ポケスペ)にハマって以来、ずっと二次元に入り浸ってきたと思います。中学では『ハガレン』のアニメ(『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』)を見ていて、絵や小説など2次創作にもひと通り手を出しました。部活や勉強が忙しくてアニメから離れる時期もあったんですが、気付いたら戻ってきていましたね。

高校では『バカとテストと召喚獣』『夏目友人帳』『WORKING!!』……そして『デュラララ!!』。『デュラララ!!』は高校卒業後もずっとハマっている作品の1つです。折原臨也(『デュラララ!!』の中心人物の1人)の感性が高校のころは全然理解できなくて、というよりむしろそのわからなさがカッコいいと思ってました。

でも、大学・社会人になってからもずっと読んでいると段々と彼への解像度が上がってきた気がします。臨也は「人が好き」だとひたすら言っていますが、あれは本心からの発言というより、人を好きでいようとしているがゆえの発言だと思うんです。賢い人だから、彼は人の嫌なところもわかる。それでも、良いところが見つからないような人でも、好きでいたい。その姿勢が「人LOVE」と言わせているんだと、大人になって読み返すとわかるようになりました。こんな感じで、『デュラララ!!』に関してはあと5時間くらい語れますよ(笑)。

ーー今年の4月で社会人2年目ということですが、最近はいかがですか?

大学では『ハイキュー!!』や『五等分の花嫁』にハマっていましたが、ここ半年は『呪術廻戦』にどっぷりです。アニメを2話まで見た段階で「あ、好きなやつだ」と気づいて単行本を一気に買い、今はグッズも集めています。二次元作品でグッズにまで手を出したのは初めてですし、毎週の展開を読んで「しんどい」と思うようになったのも初めてです。

これまで「好きな作品を読んでしんどい」という気持ちがわからなかったんですよ。「そんなこと言っても、なんだかんだ楽しいんじゃない?」と思ってました。でも、好きなキャラが辛そうにしている描写が、本当に辛くて……。毎週日曜の夜、深夜にジャンプ(『週刊少年ジャンプ』)が配信されたら「しんどい、しんどい」と言いながらTwitterに1時間くらい入り浸ってます。

ーーグッズは集めたのは初めてということでしたが、それはどうして?

単純に、形ある物を手元に置いておきたいというのがきっかけでした。それからグッズは、自分が作品を通してよかったシーンを思い出させてくれます。私はアクリルスタンドを棚にかざって眺めているだけで、この作品を知れてよかったと幸せな気持ちになるんです。

ちなみに棚のひとつはすべて吉野順平のグッズで埋まっていて、「(本編で辛い展開になった分、)うちにいる順平だけは幸せにしてやりたい」と思っています。

『呪術』のキャラは、ヒーローみたいな信念は持ってない

ーー『呪術廻戦』の魅力について、どう思われていますか?

私が『呪術』の漫画に本格的にハマったのは、京都高編の野薔薇(釘崎野薔薇)のエピソードです。「自分が自分であるためならなんでもできる」という野薔薇の思いにすごく共感しました。

私、野薔薇と境遇が少し似ているんです。地元福島から東京の大学に進学したんですが、当時は田舎特有の内輪感に嫌気も差していて。東京に行きたいと言った時、親にはすごく反対されましたが、押し切って来ました。あの時は必死なだけでしたが、私も(野薔薇のように)地元では自分らしくいられないと思っていたのかな。

ーーでは、特に好きなキャラは野薔薇なのでしょうか。

野薔薇だけでなく、呪術のキャラは全員好きです。彼ら・彼女らはそれぞれ信念を持っているんですが、それは誰にとっても正しいものではありません。ある人にとってはすごく共感されるけど、ほかの人から見ると敵対するような考え方。

たとえば伏黒(恵)君は、「自分が善人だと思う人だけ助けたい」という信念を持っています。作中でも言及されていますが、これは全然、ヒーローとして正しい信念ではありません。でも、私たちが仕事をしててもやっぱり、完全に“真っ白”な人っていない。

少し自分の話をすると、私は今、フリーランスでライティングを中心にやっています。クライアントから案件が来た時には、私には言っていない、言えないような都合も何かしらあるんだろうとわかっています。それはもちろん、自分自身にも言えることです。お互いに、何かしら裏の考えはある。

その上で、私はお仕事を受けるか判断するとき、「自分がこの担当者やメディアの力になりたいか」を大事にしたい。これは伏黒君同様、相手を選別をしているし、絶対に正しいという考え方ではないですが、私の大事にしたい価値観の1つです。

ーーキャラの境遇や信念への共感、がKさんにとっての魅力につながっているんでしょうか。

それだけではないと思いますが、私が普段考えていることのいろんなところに、呪術キャラがひっかかってきているのは感じます。

……なんだか全然、魅力を言語化できていませんね(笑)。でも、「このキャラがカッコいいから」「驚きの展開があるから」なんていう一言では言い表せないところも、『呪術』の魅力だと思っています。

新卒フリーランスの道を選んでよかった、推し活ができるから

ーー先ほど話にありましたが、現在フリーのライターということは、新卒でフリーランスの道を選ばれたんですか?

はい。大学の途中までは、教師を目指していました。中学のときに体罰を振るう先生がいて、それを反面教師に目指してきたんです。でも、3年生での教育実習を経て、この仕事を前向きに続けたいわけではないことを悟りました。自分が教育をしたいというより、単にあの先生が悪かっただけだな、と。

それで大学3年の冬ごろから就職活動をし始めたんですが、特にやりたいことが見つからず。私はキャパが小さい自覚があり、よほど合う会社じゃないと週5フルタイムは無理だという判断から、色々と迷っていました。就活終盤には派遣社員に狙いを定め、結果、卒業を間近に控えた大学4年の冬に経理職が決まりました。ですが、その1ヶ月後にコロナが大流行し始めたんです。

私は喘息持ちなので、この状況で毎日出社するのがとても怖くなりました。それで、大学の時からアルバイトでやっていて、家でもできるライティングの仕事を、進路にすることに決めたのです。完全に見切り発車でした。

だから、最初は「死にたくなくて」フリーになったんです。でもなんとか1年乗り切って、フリーでよかったなと心から思っています。

ーーそれはどうしてですか?

自分自身で仕事やスケジュールが選べ、心身の自由が保障されていると感じるからです。友達にはよく、仕事がなくなるリスクが怖くないか聞かれます。確かに仕事が減ることはあって、フリーランス最初の2ヶ月は無収入でしたが、それでもここまでなんとか自分の力でやってきました。

それに、アニメや漫画のイベントがあるとき、フリーランスなら確実に時間を空けられます。好きな作品を追うのは、自分の仕事の実績になるわけじゃありません。でも、自分がしんどかったときに、アニメや漫画のセリフに心を打たれた経験が今まで何度もありました。そういう力を貸してくれるコンテンツとの時間を捨てたくなくて。おばあちゃんになっても、そういう時間は大事にしたい。

コンテンツは、自分にとっての“しっくり感”を教えてくれる存在

ーーお話を聞いていると、大学も働き方も、「自分で何かを決めたい」という人生の軸があるんでしょうか。

小さいころから根本的にわがままなんですよ。小2のときの学校の音楽会で、なぜか1回も弾いたことないピアノをやると言って譲らず、本番1週間前まで親と担任に止められ続けた、というのがいまだに家族での笑い話です。

自分の想いを周囲に曲げられたと感じると、怒ってしまう。自分が自由だという感覚がどこかにないと、いっぱいいっぱいになってしまうんです。とても不器用で、余裕がなくなると迷走しがち。

『五等分の花嫁』に、一花(中野一花)ちゃんというキャラがいます。彼女は長女として、途中までずっとほかの姉妹の恋愛のサポートをしていたんですが、途中から出し抜いてまでもその恋愛レースに勝とうと仕掛けていくんです。

『五等分の花嫁』が連載されていたときは、そのなり振り構わない様子を見た読者から批判の声も上がりました。でも、彼女はずっと自分の想いを強く持っているタイプだったと私は思います。彼女が学業の傍らでやっている女優業も、自分がやりたいからと見つけた仕事です。恋愛についても、ずっと思いはあったんですが、姉妹への気遣いから裏方に回っていた。それを、ようやく不器用な形とはいえ行動に移したんです。その、“とりあえずやってみる精神”はとても好きです。

ーー自分のやりたいという気持ちを押し殺さないこと、とりあえずやってみること。Kさん自身が大事にされていることなんですね。では今後やってみたいことはなんでしょうか?

やりたいことはすごくたくさんあります。自分でメディアもYouTubeも運営してみたいし、挙げきれないくらい。それに、今後は文章を書く以外での仕事上の強みを見つける必要があると思っています。

でも、今後どう方向転換しても、私にとって一番大事なのは自分にとっての“しっくり感”を大事にすることと、推し活に使う時間をなくさないこと。

この2つは関連していて、コンテンツは自分の大事にしたい価値観を客観的に教えてくれるものです。それを無くしてしまうと、自分にとって何が“しっくり”くるのか、その分析も止まってしまう。

アンテナを貼って、自分の大事なものを選んで生きていきたい。それをしなくなった瞬間、私はどこか遠くへ行ってしまう気がするんです。

ーー価値観まで深掘ってお話しいただき、ありがとうございました。

ちなみに、今回色々と各作品について語りましたが、あくまでいち個人の解釈です。自分の解釈がすべて正しいとは思っていませんので、その点は最後に補足させてください。私自身、解釈の多様性は気にしがちなほうですので……!

<了>

取材協力:Kさん

取材をさせていただける方は、ぜひDMくださいませ→@gohangaoishi4


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