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『まどマギ』がきっかけで起業した話:よもぎさん

よもぎ(@yomorgy)さんに、コンテンツとの関わりについて、インタビューしました。 

有線で物語を聞いていた子供時代

ーーよもぎさんがこれまで触れ合ってきたフィクションについて教えていただけますか。

小学校低学年のころ。学校から帰ってきたら有線ラジオの物語チャンネルをつけていました。日本昔話とか、子供向けの物語を朗読してくれるんです。それを聴きながら、弟と一緒にダラダラ過ごすのが好きでした。

ーーNHKでやっている、夕方のテレビアニメとかではなかったんですね。

あまりテレビを見ない家だったんです。親もニュースを見るぐらいで。むしろ音楽を聴くのが好きだったので有線が家にあったという。

ただ、小学校中学年のころに親が解約をしてしまって。そのぐらいの時期から外向的な子どもになったのもあり、家にいることが少なくなって、ゆっくり何か作品を鑑賞する習慣というものが一度なくなりました。

それでも小学校高学年からはまた復活して、児童文学をずっと読み漁ってましたね。『ズッコケ3人組』シリーズがすごく好きでした。

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画像出典:版元ドットコム

ーー中学に入ってからは?

中高もそれなりに読んでいたんですが、新書とか難しいものを背伸びして読んでいた時期ですね。中学は2年ぐらいまでサッカー部に入ったんですが、友達としゃべるのが好きで、辞めてしまいました。その時のテレビの話とか、『ワンピース』の話とか、「あの子が好き」だとか他愛もないことをずっと話していました。

当時を振り返ると、勉強をすごく頑張っていた学生だったなあと。結局理系ですらない学部に行ったんですけれど、数学はすごく好きで楽しくて。

数学って論理的に連なっているじゃないですか。2、3個式を覚えるだけで、色々な問題が解ける。記憶力に自信がなかったんですけど、数学は覚えなくてもいいけど応用が効く。それに、「こういう解き方があるよ」という問題に、違う解き方で答えを出すのが楽しかったです。

まあでも結局高校は普通科受けて、大学も文化史学科という文系学部を受けて民俗学を専攻していたので、まったく生かされることはなかったですけど。民間伝承や伝奇ホラー、それに父親とドライブに行って田舎の景色を見るのが好きだったんですよ。

『まどマギ』との出会い。1週間、考察スレに張り付いた

ーー高校時代、大学時代を振り返っていかがですか。

高校は、それこそ特段見るところのない普通の高校生でしたよ。高校の頃、精神的にバランスが良くなかったんですよ。学生生活はすごく楽しかったんですけど、小説読んだり数学勉強したりといった内省的なことにすごく精神的によくない状態だった。だから高校の頃が一番創作物に触れなかったですね。

趣味も答えられなくて、1人の時間を作りたくないし、作っても無為に過ごしてしまう、みたいな。別に家庭環境が悪かったとか、学校で嫌なことがあったとか大きなことはなかったんですが、自分の全方位で嫌なことが起こって、積もり積もって。

思い悩みやすいタイプなんですよね。自分の軸がなくて外圧に弱かった。友達づきあいは楽しかったですが、自分の内面と向き合って、悩んでしまっていた。それが体調にも顕著に現れて、なんだかエネルギーがドバドバ出ていくような感じで。身長180cmあるんですが、体重は50kgでした。しかもタチの悪いことに明確に悩みが言語化できない、というのが高校から大学にかけて続いていました。

大学では新潟の実家を離れて東京の寮に入って、いつも4、5人で集まっていました。一緒に映画見たり、桃鉄やったり、毎日が修学旅行みたいでしたよ。

それから、そのころから離れていた創作物に戻ってきました。きっかけは、そのころちょうど始まったニコニコ動画で、『ひぐらしのなく頃に』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などのアニメにハマったことです。どちらもサスペンス要素が強くて次週への引きも強烈だったので、毎週張り付いて見ていました。

「ひぐらしのなく頃に」は2020年、リメイク版が公開予定

そして何より、大学4年の時に見た『魔法少女まどか☆マギカ』。僕は2年前に起業して現在プラットフォームの立ち上げ準備中なのですが、それにつながっています。

ーー詳しく教えてもらえますか?

僕はこの作品が大好きなんです。どこを切り取っても完成度がとても高くて。当時は大学生でしたが、放送直後すぐに「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」の考察スレでひたすら議論をする、という生活をしていました。最終話(12話)の後、そして劇場版の『叛逆の物語』(叛逆)を見た後は1週間引きこもってスレに張り付いていました。

そんな風に、いち視聴者としてストーリーやキャラクターを存分に楽しんでいたのですが、作品世界の外で衝撃を受けたことがありました。ファンが作った2次創作が作品の世界を広げ、さらにその世界観が原作にも取り入れられていく流れがあったことです。

2020年5月に立ち上げた「2次創作プラットフォーム」

ーー視聴者が作ったイラストや漫画、SSなど2次創作が少なからず作品の世界を広げるというのはわかるんですが、それが原作に取り入れられて行くとは?

2次創作ではキャラクターのちょっとした言動を誇張して、原作にはない要素が付け加えられることがよくありますよね。たとえば『まどマギ』だったら、ほむらがまどかのストーカーになったり、さやかが“アホの子”になったり。

そんな非公式の設定は、普通は2次創作内だけでスラングとして消費されてしまうのですが、まどマギでは、ドラマCDや映画『叛逆』でも微妙に取り入れられていたんです。もちろんこれは賛否あることですが、『まどマギ』は上手くやっていたように見えた。

シナリオを書いた虚淵玄さんは、何かのインタビューで「『まどマギ』はお客さんとキャッチボールをしながら作った作品だ」というようなことをおっしゃっていました。僕が思うに、視聴者との創作を通じたキャッチボールがあったのかなあと。

またそれだけではなくて、僕も当時の『まどマギ』のいち視聴者として、2次創作がすごくありがたかったんです。

ご存じの通り、『まどマギ』は3話以降、10話くらいまでは鬱々とした展開が続きます。でもそのころpixivなどに上げられていた2次創作は、明るいテイストだったりハッピーエンドだったりするものがすごく多くて。それで、「メタ的に救われた」というか。暗い原作と明るい2次創作、両方があって、僕も救われたんです。

その衝撃がずっと残っていて、大学院を卒業して広告会社に勤めた後に「2次創作プラットフォーム作り」を始めることにしたんです。

ーー「2次創作」のプラットフォーム?

「2次創作」といえば同人誌がよくイメージされるんですが、あれは権利的にはグレーゾーンにあることはご存知かと思います。原作者(1次創作者)の許可を取っていることは稀で、2次創作が売れても原作者には何の利益も入らない。一方の2次創作者からしても、権利関係がグレーなために即売会でしか売れず、また可能な販売部数にも上限がある、という悩みがあります。

そこで、権利関係をクリアーにした上で関係者をつなごうと、「nizitsuku」というプラットフォームを2020年5月、立ち上げました。

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画像出典:nizitsuku

このプラットフォームを通して原作者や版元が2次創作を許可し、その2次創作物が売れればインセンティブが原作者らに支払われます。逆に2次創作を見て原作を購入した場合は、広告料として2次創作側にインセンティブが支払われる仕組みです。

さらに、魅力的なキャラクターが描ける人と面白いストーリーを作れる人が互いに契約を交わし、分業制で新たな作品を作ることも考えられます。現在、「nizitsuku」上の作品はすべて2次創作可能です。このサービスをきっかけに、2次創作の輪がさらに広がっていけばいいな、と思っています。

社会人になって、横山三国志が身に染みる

ーー1つの作品に人生を変えられたんですね。

もちろん、『まどマギ』だけがすべてではありませんが、でもこの作品をきっかけに大学院時代からこの「nizitsuku」の構想を練り始めたことは確かです。それに、ほかにもこの作品から受けた影響はあって。

僕はさっき話した通り、大学院を出た後に地元の広告会社に約1年半勤めたんですが、入社当時は本当に会社が辛くて。まず朝決まった時間に起きるのが辛くて仕方なかったんです。社会不適合っぽいですが。

それから、広告系の会社で企画にも沢山関われてクリエイティブな仕事もやらせてもらって、先輩方はみんな、すごくやりがいを持って働いているんですよね。自分も仕事自体は楽しかったのですが、先輩方とは同じモチベーションを持てず、自分なりの目標を見つけきれなかったのが何より辛かったですね。

当時通勤する車の中では、毎日『まどマギ』のオープニングを歌っているClariSのアルバム3枚をループして励まされていました。「まどかだって今もどこかで頑張っているんだから」と。

ーーそこから会社を辞められて。でも、当時はほぼ第二新卒と言える年次だったと思います。苦労はされなかったですか?

正直、会社を辞めたはいいものの、起業のために何をすべきか、まったく見えていませんでした。右も左もわからない。それで、起業家や起業支援をしている知り合いを訪ね歩いてみたんです。アドバイスをもらう中で見えてくるものがあるかな、と。

でも、何も見えてこなかった。むしろ、「そんな事業は上手くいかないよ」という反応ばかりで、落ち込んでしまいました。そんな時に助けてられたのがネットです。

ネットを介して情報を得て、仲間を集めて、自分の発信にフィードバックをもらうこともできました。

Twitterには本当に感謝しているんですよ。アカウントを1つ持っているだけで、自分のやり取りや人とのつながりが可視化されて、それが信用になるんです。自分の活動を、知らない誰かが見ていてくれていたりもします。ネットを通じて知り合った人は本当に共感してくれているぶん、リアルの知り合いよりも事業を一緒にやりやすいんです。

ーー今後、「nizitsuku」のさらなる展開を楽しみにしています。最後に、これまでに出た作品以外で好きな物語はありますか?

映画『ファイトクラブ』は、無駄なシーンが一切なくて、完成度がとても高い作品だと思います。完成度の高さって、個人的には過不足がないものだと考えているんですよね。『まどマギ』もそうでした。

アニメ『けものフレンズ』は、考察好きとしてはたまらなかったです。「サンドスター」を科学的に扱うとしたらどうしたらいいか、どういう分類がされているのか、とか半分科学的考察、半分妄想のようなものを、「#けものフレンズ考察班」というタグで議論してました。

漫画『嘘喰い』も、漠が頭脳戦でどう勝つのか、考察しがいがありますね。ネタバレを避けますが、10巻以上前の伏線を回収していた時は鳥肌が立ちました。

あと、漫画『アタゴオル物語』。かなり古い作品で、僕も親から教えてもらったんですが、初期はいわゆる“エモい”話ばかりで、心に染みます。

それから漫画『三国志』(横山光輝)も中学の時にすごく好きだったのですが、社会人になって改めて読むと心に刺さりますね。劉備や曹操でさえ、大失敗してお金も軍も失って流浪の身になって、それでも再起を図っていた。社会人が読むと、励まされると思います。

<了>

取材協力:よもぎ(@yomorgy)さん

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