江戸の名局・第3回(天才看寿の指し将棋)

マイナビ出版から図式全集として将棋図巧が出版された。芸術的な詰将棋を作った伊藤宗看、看寿の二人だが、指し将棋の実力も高い。第3回は看寿の将棋を見ていこう。看寿の将棋では「魚釣りの歩」の一局が有名だが、そちらは右香落ちのため、今回は平手の将棋を見ていく。

▲伊藤看寿─△八代大橋宗桂(1750年11月17日)
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲2五歩 △3三角
▲4八銀 △3二銀 ▲5六歩 △5四歩 ▲5八金右△4二飛
▲3六歩 △6二玉 ▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉 △9四歩
▲9六歩 △5二金左▲1六歩 △1四歩 ▲3七桂 △4五歩
▲5七銀 △6二銀 ▲2六飛 (第1図)
1750年の御城将棋より。後手の宗桂は看寿の兄で、大橋家に養子入りしたそうだ。戦型は後手の四間飛車に先手は▲5七銀~▲2六飛の構え。いわゆる古典定跡。

第1図

第1図以下の指し手
△5三銀 ▲3五歩 △同 歩 ▲4六歩 △同 歩 ▲同 銀
△8八角成▲同 銀 △3六歩 ▲同 飛 △2七角 ▲2六飛
△3八角成▲2四歩 △同 歩 ▲3一角 (第2図)
先手は3筋を突き捨てて▲4六歩と動いていく。少し軽そうだが、後に▲4五桂も見込めるのが主張だ。後手も△3六歩と仕掛けを逆用して馬を作る。もちろん先手も読み筋で▲3一角と切り返し、飛車を逃げれば▲2二角成がうるさいため、飛車を手にできる形にはなった。形勢はいい勝負と思う。

第2図

第2図以下の指し手
△4七歩 ▲4五桂 △6二銀 ▲4二角成△同 金 ▲4三歩
△4一金 ▲3六飛 △4八歩成▲3八飛 △同 と ▲7五角
△6四角 ▲同 角 △同 歩 ▲5三角 △4九飛 (第3図)
第2図では△4六飛▲同飛△3七馬とさわやかに指すのも有力だった。本譜のと金攻めも確実である。先手としては▲4二角成で先に▲4三歩はどうだったか。△同金は▲4四歩、△同飛は▲2二角成があるので△同銀と取るよりなさそうだが、それから▲4二角成とすれば本譜で▲4三歩に△同銀を限定できたことになる。そこで▲5七銀と引き締めておけば先手が指せそうだ。▲7五角はなるほどの攻めであるが、以下▲5三角の打ち込みしかないのでは少し単調で、△4九飛で後手が悪くない形勢だろう。

第3図

第3図以下の指し手
▲6二角成△同 金 ▲5三銀 △2五角 ▲5九金寄△4六飛成
▲6二銀成△同 玉 ▲5三金 △7一玉 ▲4二歩成(第4図)
▲6二角成から▲5三銀は必死の食いつきだが、駒不足ですぐに寄るわけではない。△2五角では△4八とも考えられた。▲6八金寄ならそこで△2五角や△4七角と攻めれば本譜の勝負手が消えている。先手苦戦だが▲5九金寄が受けの勝負手。△5八角成が怖いが▲6二銀成△同玉▲5八金で際どい。攻めを意識するなら△1九飛成だが、実戦は受けに回る意味で△4六飛成と銀を拾いながら桂取りを見せる。ただ、▲4二歩成まで進んだ第4図は簡単には攻めを切らすことができない。

第4図

第4図以下の指し手
△4二同金▲同 金 △4五龍 ▲3一飛 △4一歩 ▲3二飛成
△4二歩 ▲2一龍 △8二玉 ▲7一銀 △9三玉 (第5図)
すでに実戦的には大変な形勢になっている。となると、少し前の△4六飛成では△1九飛成の方が良かったように思う。△4二歩では△4二竜としてどうだったか。本譜は手順に2一の桂を拾えたのが大きい。ギリギリの攻めだが、先手玉が安全で寄せに専念できるのは大きい。

第5図

第5図以下の指し手
▲4六歩 △8五龍 ▲8六金 △同 龍 ▲同 歩 △7四桂
▲7七銀 △4四角 ▲5五歩 △同 角 ▲8五飛 △7五銀
▲同 歩 △7六銀 (第6図)
▲4六歩が手筋の一着。竜の横利きが消えれば▲8五桂から詰む。以下竜を奪って先手の勝ち筋に入った。と言っても後手の持駒は豊富なので、勝ち切るまでは油断ならない。△8六桂以下の詰みを狙った△5五角に対し、▲8五飛がピッタリ。△4六角なら▲6八金寄くらいで勝ちだろう。△7五銀から△7六銀は最後の勝負手だ。

第6図

第6図以下の指し手
▲8二銀不成△同 玉▲8三飛成△同 玉 ▲8一龍 △8二歩
▲9五桂 △同 歩 ▲7二銀
まで105手で伊藤看寿の勝ち
▲7六同銀は△8八金から詰み。だが、後手玉に詰みが生じている。▲8二銀不成で邪魔駒を消去し、▲8三飛成から▲8一竜と回り、▲9五桂の捨駒がピッタリ。投了以下は△9三玉▲9一竜△9二合に桂捨ての効果で▲9四香が打てる。うっかり▲9五桂を打たずに▲7二銀だと詰まずに逆転するところだ。

投了図

後手が押し気味の将棋に見えたが、▲5九金寄の勝負手から看寿が細い攻めをつないで競り勝った。最後はあっさりしているようだが、敗者が形作りをして綺麗な収束となったのは江戸将棋らしいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?