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世界遺産のグヌン・ムル国立公園 05/05

秘境のリゾート、巨大洞窟とコウモリ達、そして、アントゥー(精霊) 

彼は、一息ついて、続けました。
少しばかり、目が中空をさまよってました。

「そうこうすると、大きな川が出てきて、少し休みました。川は、非常に澄んでいて、中を泳ぐ魚が、よく見えました。

大きな魚、小さな魚、いろいろいました。彼女が、大きな魚を手づかみで取ると、火をおこして、焼いて、食べました。

今までに食べた事の無い、身の引き締まった、少し甘味のある美味しい魚でした。そろそろ、戻らなければ、と思い、彼女に話すと、この川の向こうが村だからと言って、引き止められました。

川の向こうといっても、ボートが無いと行けそうにも無い。
しかし、彼女は、ゆっくりと立ち上がって、川の方へ向かいました。
座っている私から見えた彼女は、濡れた髪が逆光に煌き、非常に綺麗に見えました。きっと、今戻っても、皆に怒られると思い、着いていきました。

幾つかの場所は、非常に急流で、水深が胸の高さ位あって、流されそうになりましたが、前を歩いている彼女に付いて行く事だけに集中しました。

少し前方にいた彼女が対岸に着いたので、安心したのですが、足を取られて、一瞬、おぼれそうになりました。

体制を整えて、彼女がいる場所を見たのですが、彼女の姿が視界に入らない。何とか私が対岸について、周りを探しても、彼女の姿が見当たらない」

 彼は、彼女を探している様な目をしながら、さらに、続けました。

「村は、この近くといっていたので、藪をかき分けて歩くと、村が見えてきました。ちょうど日が暮れだした頃に、この人達に会ったのです。

シャツをどこかで無くして、裸だったので、最初は怪しまれましたが、クリスマスのお祝いをしている様で、招待されました。

その時、私は、不思議に思いました。

今日は、未だ11月なのに、どうしてクリスマスのお祝いをしているのだろう。

隣に座っている人に聞いてみました。今日は、何月何日か。

その隣の人は、「今日は、12月25日」だと言う。

私は、「そんな事は無い、今日は、11月25日で、この村の娘に案内されて、朝からずっと歩いてきた。さっき、ここに来る前、大きな川を渡った後、彼女は、いなくなった。多分、自分の家に戻っている筈だ」と言った。

しかし、その隣の人は、
「この近くには、川は無いし、この村の娘たちは、今日は、朝から教会の行事で忙しい。私は、教会の人間だから、間違いない」。

私は、さらに気分が悪くなり、「ここは、どこだ」と聞くと、「バリオから、歩いて1時間位の所だ」と言う。

バリオは、ムルから100km近くある場所で、そんな事は無いと不思議に思ったのだが、急に疲れが出てきて、眠りに落ちました」

 P氏は、ここまで聞き終わって、ふと、ムルの村の長老が言った言葉を思い出しました。

「あの絶壁の近くには、女性のアントゥー(精霊)がいるんだ。一人でいる男を見つけては、話かけるそうだ。でも、彼女についていってしまうと、精霊の世界に入り込み、この後は、この男の運次第で、運がよければ出て来れるし、運が悪ければ・・・・」

P氏は、ゆっくりと、彼に伝えました。「お前は、1ヶ月行方不明だったんだぞ」。急に、この彼は震えだし、気を失ったのでした。

この事件は、2004年の末に実際に起こった事件です。

私は、これを皆さんを怖らがせる為に、話しているのではありません。熱帯雨林の中には、精霊が宿る場所でもある。

例えば、イバン族の人々は、焼畑を行っても、丘の頂にある木々は、絶対に伐りません。これは、精霊が休む場所だそうだからです。

精霊を恐れる事はありません。精霊に対して敬意を表せば、何も起こらないのです。

私も、ムルのブラワン族の人に言われた事を続けてます。観光客を連れている時に、絶壁の傍を通る瞬間、心の中で一言
「この道を通ってるだけです。森やあなた方精霊に何かをしに来た訳ではありませんので、無事に通してください」と。

「ひょっとしたらこの宇宙は、何かの怪物の歯の中にあるのかも知れぬ」(チェーホフ「手帖」) ~~~~~ ドリ鍋 (2006年12月25日)


PS. 今回のは、少し怖い話をしてみました。でも怖がらないで下さい。近い内に、イバン族の森の掟などのお話もしてみたいと思います。


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