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学習成果の可視化1:マイクロ・クレデンシャル

はじめに

文科省が管理する中央集権的な階層型大学組織から,ボトムアップな自律分散型の学びを提供するWeb3大学への変革に取り組むに当たり,Web3におけるトークンの使い方が大きなテーマになる.誰でも思いつくのが学習成果の可視化で,学習成果をブロックチェーンに記録して,学習成果を示すトークンを発行することである.Web3以前にも,いろいろな教育プログラムで,学習成果を示すポイントを付与したりバッジを発行したり修了証を発行したりしているし,Web3の世界でも独自のトークンを発行している教育プログラムもある.当たり前のことに思う学習成果の可視化であるが,Web3として取り組むために,これまでの取り組みや関連する概念や研究をとりまとめておきたいと思う.

マイクロクレデンシャル

まず,国際的な取り組みとして,マイクロクレデンシャル(Micro-credentials)を取り上げる.文科省のサイトには,『ユネスコ・文部科学省共同ワークショップ「アジア・太平洋地域におけるマイクロクレデンシャルの公正な承認にむけて」の開催について』という案内が掲載されており,「新型コロナウイルス感染症の影響により、従来のように対面での授業を実施することが難しい中で、オンライン教育の成果を記録する有効な手段として、また多様な学習形態を支援・発展させる手段としてマイクロクレデンシャルが注目されています。」と記載されている.このワークショップの報告書を見つけることはできなかったが共催者の関西国際大学のサイトには,「マイクロクレデンシャルとは、従来のマクロな学位制度に対して、小さな学修歴を表す言葉として、新型コロナウィルス感染症の影響により、対面での授業実施が難しい中、オンラインの教育成果を記録する有効な手段として、また多様な学習形態を支援・発展させる手段として世界中で注目されている試みです。」と説明されている.
 欧州での取り組みが,「高等教育質保証の海外動向発信サイト」 に詳しく紹介されている.このサイトの「欧州高等教育圏におけるマイクロクレデンシャルの共通枠組みを提示」には,欧州のMICROBOLプロジェクトの報告書「European project MICROBOL Micro-credentials linked to the Bologna Key Commitments: Common Framework for Micro-credentials in the European Higher Education Area (EHEA)」(PDF)が引用されている.「欧州高等教育圏におけるマイクロクレデンシャルの共通枠組みを提示」にはこの報告書の要約として下記が記載されている.

マイクロクレデンシャルに関する共通認識
定義:マイクロクレデンシャルは(資格によって)証明された少量の学習である。
目的:マイクロクレデンシャルは、社会、個人、文化、または労働市場のニーズにもとづき、特定の知識、スキル、またはコンピテンシーを提供することが目的である。
用途:マイクロクレデンシャルは、学習者に帰属し、より大きな証明や資格に統合することが可能である。マイクロクレデンシャルは、高等教育学位プログラムの履修前~履修中~履修後に取得でき、人生の早い段階で獲得した能力を証明する新しい手段として利用することができる。
マイクロクレデンシャルを証明する共通様式:プロバイダー(マイクロクレデンシャルを提供する高等教育機関、企業、NGOなど)がマイクロクレデンシャルとその価値を証明するには、共通の様式が必要であり、その構成要素は以下の通りである。
・学習者の情報:学習者の本人確認
・プロバイダーの情報:所在する国や署名
・マイクロクレデンシャルの情報:タイトル、発行日、成績評価日、真正性の証明・学習経験の情報:学習成果、学習量、成績評価や質保証の形態
・資格枠組みの情報:資格枠組み(NQF)レベル、欧州資格枠組み(EQF)(NIAD-QE国際課まとめ)や欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)(NIAD-QE国際課まとめ)レベル、ISCEDレベルと科目分野コード等
・学習活動への参加形態
・(学習活動への)申請要件

https://qaupdates.niad.ac.jp/2022/05/10/microbol/

これをみればわかるように詳細な規格が定められており,共通様式に記載する為に必要な情報や枠組みが整備されていれば,後はこれをブロックチェーンで実装するだけに思う.
 このサイトには,マイクロクレデンシャルの質保証に関しても以下の記載がある.

・ESG5は、欧州地域における高等教育の質保証に関するガイドラインであるが、EHEA内で提供される全ての高等教育に対し、修学期間や教育形態を問わず適用できる。そのため、高等教育レベルのマイクロクレデンシャルを提供しているプロバイダーであれば、高等教育機関ではなくとも適用できる。
・マイクロクレデンシャルは通常の教育プログラムよりも少量の学習で、頻繁に更新されることが予想されるため、マイクロクレデンシャルの外部質保証はプログラム(プログラム別評価)ではなく、提供する機関自体に焦点を当てる(機関別評価)べきである。外部質保証によって、マイクロクレデンシャルを提供する機関が、質を自ら管理するための適切で信頼あるシステムを持っていることを担保する必要がある。

https://qaupdates.niad.ac.jp/2022/05/10/microbol/

学習成果の可視化に関してここまで詳細に議論されているのはとてもありがたい.文科省もこの取り組みに関与しているので,大学のような高等教育機関での学習成果のミクロな可視化に活用すべき枠組みだと思う.文科省がマイクロクレデンシャルに今どこまで取り組んでいるか少し調べてみたいと思う.
 しかし,これをWeb3の枠組みに取り込もう(ブロックチェーンで実装)とすると課題が見えてくる.

  • プロバイダー(マイクロクレデンシャルを提供する機関)の設立.公共セサービスとして提供したいので,文科省が音頭をとって公的機関を設立するか既存の組織を活用するか,NPOを設立するかだと思うが,中央集権的になってしまうので,分散型のプロバイダーにできないだろうか.

  • 共通様式の確定.特にマイクロクレデンシャルの情報と資格枠組みの情報を決める必要がある.中央集権的に権威を持った機関が様式を策定する必要があるので,自律分散型でボトムアップに様式を提出することに馴染まない.

  • 外部質保証.これも権威を持った機関が各プロバイダーを審査する中央集権的な組織構造になると思うので,自律分散型に馴染まない.

自分がいかに中央集権的な権威の階層構造に慣れてしまっているかを痛感する.自律分散型のティール組織だと上記の課題にどう取り組むことになるのかを考えなければならない.でも,Web3の他の活動がそうであるように,最初は中央集権型で始めて,活動が軌道に乗ったら自律分散型にするという方法もあるのかもしれない.

おわりに

マイクロクレデンシャルのことを書いただけで時間切れになってしまったので,ここで一旦公開して,皆さんのご意見を待ちたいと思います.

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