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キャラメイクという前夜祭

 改めて言うまでもなく、WizardryというゲームはコンピュータRPGにおいて金字塔と呼んでも差し支えない作品だろう。1981年にApple II版が発売されて以降、各国で様々なプラットフォームに移植されたWizardryシリーズは、日本においても独自のスピンオフ作品が登場するなど絶大な人気を博した。

 自分がWizardryに興味を持ったのは、中学生になって間もなくのことだっただろうか。既にドラゴンクエストやファイナルファンタジーでコンピュータRPGに触れていた自分は仲間たちとテーブルトークRPGを遊ぶようになっていたが、そのうちに何となく「Wizardryというドラクエのご先祖様のようなゲームがある」という情報を掴んだのである。
 ちょうどファミコン版のWizardryが発売されて一年ほど経った頃であり、どうしようかと考えているうちに近所のゲームショップで中古品が売りに出ていたのでファミコンと一緒に買ってしまった。
(小学生時代MSX少年だった自分は、中学生になるまでファミコンを持っていなかったのである)

 Wizardryを買ってからは、生活がほぼWizardry漬けになった。学校に行く前に少し遊び、帰宅してから遊ぶ。友人と遊ぶ時かテスト勉強の時以外は、大体Wizardryで遊んでいた。その時期に日本ではWizardryのメディアミックス化でコミカライズやノベライズが行われていたので、さらにWizardry熱は高まった。
 中学生の頃は体が弱くて一月のうちに数日間は熱を出して学校を休んでいたものだが、休んでいる時も布団に潜り込んでWizardryを遊んでいた。大人になった今では熱を出すと一日中寝るほかないのだが、やはり十代は体力が有り余っていたのだろう。今では到底無理な話である。

 Wizardryの最終目標は、悪の魔道士ワードナを倒し奪われた護符(アミュレット)を取り戻すというものである。冒険者は地下10階に及ぶワードナの迷宮を探索し、自らを鍛えていかねばならない。
 ゲームを開始してまず最初に行うことは、キャラクターメイキングである。名前を決めて種族と性格を決定すると、ランダムでボーナスポイントが与えられ基本ステータスに割り振ることができる。そして、ステータスの値によって就ける職業が決定するという具合である。
 レベルが上がればステータスは上昇するので(下がることもある)、最終的には気にしなくても良いのだが、ステータスが高くないと就けない職業も存在するのでやはりボーナスポイントは重要であった。最低でも二桁のボーナスポイントを得るため、名前は適当に「あ」などと付けておいて何度もキャラクターメイキングをやり直したものである。

 ゲーム本編の流れは、今でも容易に思い出すことができる。先に進むためのアイテムを手に入れつつ地下4階の「モンスター配備センター」を突破し、下層階へと向かう。そして地下10階の最深部でワードナを倒して護符を手に入れ、地上に戻りトレボー親衛隊の称号">"を与えられるのである。
 ゲームのクリア自体はパーティの平均レベル13程度で達成可能だが、自分も含め多くのプレイヤーはそこでゲームを終わらせなかった。まだ入手していないアイテムを求め、延々と地下迷宮にアタックし続けたのである。俗に「三種の神器」と呼ばれたGarb of Lords(Armor of Lords)やMuramasa Blade!、Shurikensは非常なレアアイテムであり、運良く入手できた時は大歓喜の涙に咽んだものだった。なおファミコン版ではパラメータの参照に不具合があるため、防具のアーマークラスが機能していないことを知ったのはつい最近のことである。

 Wizardryを振り返ると、プレイ時間の中で一番のウェイトを占めたのはやはりキャラクターメイキングの時間ではなかったかと思う。一人のキャラクターを作るのに数日をかけ、キャラクターが作れたら名前を考え、そのキャラクターになるべく良い装備をさせるために金集めだけのダミーキャラを作っては消す。6人組のパーティを作るのに一週間以上かかることも普通であり、RTAが当たり前になってしまった現在とは比べ物にならないほど時間がゆっくりと流れていた。
 良いボーナスポイントを出した時の快感はソーシャルゲームのガチャに通じるものがあるかも知れないが、Wizardryはその後の展開も含めて色々と自分勝手な妄想に浸れる楽しみがあったように思う。ファミコン版は辛うじてBGMと壁のグラフィックがあったものの、後に遊んだPC版はBGMのないワイヤフレームの迷宮だったので、余計に妄想の余地が大きかった。

 今思えば、一番楽しかったのは妄想しながらのキャラクターメイキングではなかっただろうか。人物の名前やバックボーンを考え、どういう装備をさせるか、どういう転職でキャリアを積んでいくか。ゲームとは関係のない余地で想像を膨らませ、楽しんでいた。
 年を経た今では、休日の前夜が一番の楽しみである。翌日に何をして過ごすか、どういう酒を飲むか。実際の休日が何の変哲もないありきたりなものであっても、前日に妄想を膨らませるのは楽しい。きっと休日そのものよりも、休日を想像する前夜の方を楽しんでいるに違いない。
 自分のこのような傾向は、間違いなくWizardryのキャラクターメイキングがもたらしてくれたものだろう。祭りそのものより楽しい前夜祭、それがWizardryのキャラクターメイキングであった。

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