夕凪 ゆうなぎ
stand.fmで活動する文藝部 スタエフ文藝部『綴』 へ提出した作品です。
読むのも書くのも大好きな短編小説です。「非リアルをリアルに書く」をモットーに幅広い作品をつくります。
短編小説より更に短い掌編小説。ふと思い立ったら数分で読めるシンプルさが魅力です。
日々思うことを自由に書いたエッセイです。変な人が書いた変な文なので変ですがお許しください。
「ごめんな、中々遊んでやれなくて。今度どっか、海でも行こうな」 西暦2124年 春 「私が人間であることを証明してください」 昼下がりの街角で、少女は極めて真剣な表情をしていた。 「そんなこと、急に言われても」 「サクさんはあそこの研究所で働く研究員なんですよね?なら人間の細胞も調べられますよね?そこの案内所のとこに書いてありました!!!」 「まぁ、ま、お、落ち着け一旦、」 声を張るマイに通行人が目をやり、サクはすいません、と言うように頭を軽く下げる。 「まず、君は誰
寝癖うざい。 なんでだろ、寝相良い筈なのに。 「眠、」 真夜中の冷たい空気は好きだ。いつも私を攫ってくれる。早く真夜中になって欲しい。星なんて出なくていい。ただ、あの冷たい真夜中になって欲しい。なんて、まだ夜明けすら来てないのに。 だから私はおひさまが嫌いだ。 目が覚めちゃったらとりあえずベランダに出て煙草。空気を吐いて風を浴びながら、なんか色々考える。在り来りなこと。世界が止まってるみたいだーとか、地球滅亡が実は何分か経ったら来るんじゃないかとか考えて、馬鹿みたい
今日も空は青かった。 研究室はその日を浴びて暑く、少女は装置の前で無造作に並べられた装置や実験器具を眺めていた。 「やっぱり…いや、ごめん。ありがとう。君、名前は?」 「…わかりません」 大きなドラム缶くらいある装置の前と後。微妙に隙間を保った二人は気まずそうに会話をしていた。 「…そうか。まぁいい、座って」 検査結果が表示された端末に彼は小さく『hana』と書く。 少女は古びた木製の椅子に座り、出された玄米茶を見つめている。彼も、丈の長い白衣を気にしながら、向かいの
朝七時の快速は殺伐としていた。 いつもと違う電車で、いつもと違う出勤。けれどそこに面白みはない。 久々に会ったツバメはおとなになっていた。悪いのはアイツだって何どもを私を慰めてくれて、人の前でなんて何年振りだっただろう。たくさん悪口を言ってたくさん泣いた。 『また会いに来てよ』 朝遅刻して仕事もミスって、『もういいよ』って上司に笑われて、会社入ってほぼ初めて定時退社した昨日。嬉しくも寂しくもない夕方だった。 「何時に帰れるかなー今日は」 過ぎていく街を眺める。
どこか遠く離れても、きっと消えない。 だって記憶は厄介だから。 「中々、言えなくて」 あなたは少し笑った。 「大丈夫。ありがとう」 少し離れたところで、西から広がっていく夕焼けを眺める。涙ぐんだその声はもう消えた。 「もう、いいんだよ」 振り返ったその瞳が、じっとこちらを見てくるのを、静かに感じる。 「いいんだ」 言い捨てたわけではなかった。けれど期待も、してはいなかった。 何時間も話をした。 夕焼けは次第に消えて、空はまるで、命すらも奪ってしまいそうな暗
最近wowakaという人の曲を聴いている。 米津玄師が彼のことを「基本的な人生のBPMが違う感じがした」といったように、wowakaの音楽は独創性の塊、誰も寄せつけない魅力があると感じる。 『もういない人への印象』について考えた。 この世からいなくなった人に新しくオリジナリティがうまれることはなくて、過去作品やその生き様に浸ることしかできない。 対して今生きている人へは、単に最近の印象だったり、「昔はこうだったけど今はこうなんだ」とか「次はこういうことをする
旅をした。 ずっと行きたいと思っていた地へ、リベンジ的要素もありつつの、ひとり旅だった。 岡山では美観地区を歩いてから王子が岳という海を一望できる山へ、その後は海岸へ寄った。 大阪では食べ歩きでたこ焼き、豚まん、アイスキャンデーを食べて、それからとあるカフェへ行った。 今回はそこで感じたことを書き残します。 岡山での一番は、間違いなく、海。 山周辺で育った僕にとって海とは無縁そのもので、よくある「海派?山派?」という質問に対しては即答で「山派」と答える
俺が生まれ育った町は、都会とも田舎とも言いきれない、どちらかと言えば田舎に分類される程度の町だった。 少し歩けば山。熊や猪が出るのは当たり前で、同級生のランドセルには熊除けの鈴が付いていた。 幼馴染とは毎週のように遊んでいた。 自転車で途中の商店に寄ってお菓子とジュースを買って行って、部屋に置いてあったお下がりのブラウン管テレビとWiiを繋いでゲームをした。 近くの自販機へ行って、当たり付きのサイダーか何かを買ったこともあった。全数十種の缶と、シークレットがひとつ
この前初めて、夢に祖父が出てきた。 祖父は八年前に突然亡くなった。 うっすらとしか覚えていないけれど、祖父と祖母が二人の家の縁側に座っていた。 祖父は胡座だった。 祖母の家は庭に小さな山があって、縁側からは山を望める。二人が山を眺める、その背中を僕はただ見る。それだけ。 ほんの一瞬だけの夢だった。 だけど、その一瞬が、とてつもなく長く感じた。 何を語った訳でもなく、こちらを振り向く訳でもなく、ただ眺めるだけ。 普遍的でありつつ、絶対に現実にはできない
あの横顔が誰だったのか、未だに思い出せない。 俺が最後にあの場所へ行ったのは、大学受験の半年前だった。 「んー、だからもう、十年も前だな」 「そんな昔になるか。いやーでも、こんな所で再会して、こんな仲になるとは。分からんもんだね」 「それなー」 十年前の夏、俺は人生を捨てた。 お前なら行ける、もっと追い込んで、上にいる奴らの肩落とさして、そうすれば未来は安泰だ、って何度言われたことか。そういうこと言う奴らは大抵、評価とか名前とか、自分のことしか考えてないクソみてぇ
こんばんは。夕凪です。 3回目のワクチン接種による副反応から大分復活してきました。ご心配いただいた方、ありがとうね。 「お前スタエフ配信者なんだからスタエフでやれよ!」って思ったそこのあなた。僕も思いました。けれど、喋りで伝えたいことと文字で伝えたいことは違うので。どちらもやりますよ〜。 今日はでっかい台風が去って、今年初かな?秋晴れ!!って感じの空でした。暑〜い夏が終わって、ようやく秋が顔を出している気がしました。会社の先輩も、「ようやく涼しくなったね。」と喜
あの横顔が、忘れられない。 帰り道の列車の中で、私はふと昔のことを思い出した。 澄ました目で、黒板の汚い文字を見、拙い文字で大学ノートに書き写す。黒板から机へ首を下げ、書いてはまた首を上げ、黒板をじっと見つめる。そんな彼の顔が、素敵だとは思わない彼の横顔が、どうしても頭から離れなかった。 彼のことを思い出し浸っていた私は、間違いなく現実に帰ろうとしていた。 東京から越してきて、もう何年も経ったように思う。友達、何してるかな。通った学校は変わってないかな。給食の味は変
木曜の昼下がり、十七歳の少年は喫茶店のソファで一人、苦い珈琲を飲んでいた。 意味を持たない学生服。 財布だけをつっこんだカバン。 通知の来ないスマートフォン。 誰に話しかけられることもなく、また話しかけることもなく、窓の外を眺めては珈琲を一口飲む。ただ現実に落ちこぼれていた。 自分は何がしたいのか。何をするために今、生きているのか。大人という大人に腐るほど吐かれた言葉が頭を巡り、全てが分からなくなっていた。人生で何かをしなければ、という漠然な不安だけが彼に押し寄せ