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【間宮ひまりSS-4】 休息のひととき

ちょきちょき、ちょきちょき
新聞とにらめっこして、切ってはノートに貼り付けて、蛍光マーカーで線を引いてを繰り返してく。
一人暮らしした先で新聞を取りたい、と言ったらひまりがそんな事を言う日が来るなんて……!とパパは感激して、二つ返事でオーケーしてくれた。
アタシもまさか自分で新聞を取ろうと思う日が来るとは思わなかった。
実家でも最近までは全く見向きもしなかったし、習字の授業か文化祭の時に使った記憶くらいしかない。

「んん……さすがに頭痛くなってきた」

しばらくスクラップブック作りに勤しんだけれども、やっぱり慣れない事をすると頭がパンクしそうになる。
活字の海に溺れてしまいそうな気がして、アタシは新聞を棚の下にし舞い込んだ。

「疲れたし、糖分補給しなきゃなー
あ、そういやヴァミマで新しいスナック出たんだっけ」

疲れた時は美味しいものを食べるのが一番。
アタシはスマホを持ってコンビニへ出かけた。

​───────

「アイスとーチョコとーそれから限定スナックでしょ」

ぽいぽいと棚から商品を取って脇に抱える。
限定スナックの棚の前まで来て手を伸ばした時、こつんと誰かの手が当たった。

「ん?」
「およ?」

ぱちくりと瞬く左右の違う色の目が印象的な女の子。
この子は知ってる。
名前は確か、泡沫ゆるり。
解決部ってあんまり集まらないし、アタシもぬるっと入ってバスケよりかは力入れてないからあんまり仲間!って意識は薄いんだけど、一応解決部の後輩に当たる子だよね。

そういえば、中等部にアタシとノリが似てる子がいるって聞いた気がする。
頭の出来が中学生以下だから混ざればいーじゃん!とか言われて失敬な!!って友達と言い合ったのが思い出される。

ゆるりは目の前でアタシと同じように見た事あるような……と考え込む様子をした後、ぽん!と手を叩いて「解決部の!」と言った。

「そ!ゆるぴだよね? この後暇ー?」
「暇でーす!遊ぼ〜!!」

午前中頑張ったし、バイトまで遊んだっていーよね!
ゆるぴもノリノリで応えてくれたしね!

「じゃさ、ゲーセン行こ!ゆるぴ、確か前に掲示板で行ったって言ってたよね?
依頼でしてんの見てアタシも行きたくなっちゃった!」
「さんせ〜!ゆるり、音ゲーなら負けねぇですよ!」
「おー!めちゃくちゃ期待出来るじゃんー!」

不敵な笑みを浮かべるゆるぴと話しながらセルフレジで買い物を済ませる。
そうしてアタシらはゲーセンに行くべくコンビニから出た。

​───────

「でね〜この前えうかちゃんがそれしてて〜」
「それめっちゃ分かるー!エウちそういうとこめちゃくちゃオモロくて良いよね!前本人に言ったら『喧嘩売ってるんですか?』って言われたんだけど!笑」
「それえうかちゃんのマネ?何気に似てる〜!」

2人でたわいも無い話をしながら歩いていく。
ふと、視線の先に人だかりと泣き声が聞こえた。

「なんだろ?」
「ねー?見に行ってみよ!」

ゆるぴと一緒に軽く駆けて人だかりの方へ向かう。

「うぁぁあぁぁん!!!風船飛んでっちゃったよぅぅぉ!!!」

人だかりの中心を見ると、小さな男の子が地面にぺたりと座り込んで大声で泣いていた。
風船、と聞いて上の方へ視線をやる。
その男の子の言う風船は傍にある大きな木にひっかかってしまっていた。

「ありゃりゃ、大人の人でも届かなそ〜」

ゆるぴが背伸びしてみるが、中学生の身長じゃまるで届くはずもなく。
周りの大人も頑張ってみてるけど、中々取れる気配もなさそう。

「アタシに任せてみ?」

アタシは足を曲げ伸ばししてぐっと力を入れる。
「よっ、と」
そのまま軽くジャンプをして、手を伸ばし木の枝の隙間に引っかかった風船を手繰り寄せる。

風船の紐をしっかり握ったままアタシは地面に戻って、男の子の前にそれを差し出した。

「どーぞ!今度は離しちゃダメだよ?」
「わー!おねぇちゃんありがとう!」

男の子はさっきまでの涙も吹っ飛ぶくらいのニコニコ笑顔で風船を受け取った。すぐ泣き止むなんてえらいぞ!
周りのギャラリーも風船キャッチで感嘆の声を上げてくれてちょっと良い気分。
アタシは男の子に手をふりふり返してゆるぴの所へ戻る。

「おお〜!今の凄いジャンプだったね〜!!」

ゆるぴもぱちぱちと手を叩いて褒めてくれる。

「ふふん!これでもバスケで全国行ってたかんね!」

そんなこんなでまた色々話しながら歩くと目の前にゲーセンが見えてきた。

「音ゲーしよ〜!」
「りょ!」

入ってアタシらは真っ先に音ゲーコーナーへと向かった。

​───────

「面白かったー!さすがゆるぴ、得意って言ってただけあるね!」
「前に凄くしごかれたからね!マリカも面白かったな〜」
「プリ、スマホの後ろ入れとこ!てかプリ通さなくてもゆるぴお肌つやプルじゃん!これが中学生のお肌か」
「どうだこの若さぱぅわ〜!」
「うわっ!眩しすぎ!」

ゲーセンから出て、2人で笑い合う。
思ってたよりガッツリ遊んでしまった。ま、アタシ普段から頑張ってるしいーよね!

ふと一瞬、ゆるぴがアタシを見てるのにまるでもっと遠くを見てるような、心ここにあらずみたいな顔をしてるような。そんな気がした。
でもそれは一瞬だけで、瞬きしたらまるでそんなことないですよ〜って顔でゆるぴは笑ってる。

アタシはゆるぴに抱きつくような形でがばっと背中に覆い被さる。

「ゆるぴまだ時間あるー!?この近くにめちゃウマのりんご飴スタンドあるから行こ!」

そう言うとぱちくりと瞬いた後、ゆるぴは屈託の無い笑顔を向ける。

「ちょうど甘いもの食べたいと思ってたんですよね!りんご飴さ〜いこ〜!!」

アタシも合わせて「さ〜いこ〜!!」と言って、2人でそのままりんご飴を食べに行った。

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