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【有栖川櫻子SS-3】 桜と杏

「『有栖川家の若い世代間での交流を深めましょう!』ですって」

「はぁ〜!バッカらしい!寝言は寝て言えっての!」

手元の招待状を適当な所に投げ、足を組み悪態をつく。

「お姉ぇ、口悪いよ」
「ね、お姫様らしくていいじゃん」

双子の弟の言葉にアタシのイラつきは膨らんでいく。

「アンタらの櫻子贔屓もマジでムカつく!!アンタらはウチの弟でしょ!?アタシの味方しなさいよ!!」

「……杏子様」

本家から迎えに来た老齢のドライバーがコホンと咳払いをする。

「おー怖」
「ほらお姉ぇ、大人しくしてな?」

「……チッ」

アタシも馬鹿ではないから、イラつきは収まらないけれどもこれ以上騒ぐのはやめた。

​───────

ウチの家は一応由緒正しい有栖川の家系には属している。
ただ正直、末端も末端だ。
本家は大豪邸らしいがウチは他よりちょっといい家程度。
ウチの祖父母はさぞ慎ましやかな性格だったんだろう。

さて、アタシがこんなことを言いながら招待に応じた理由。
確かに祖父母は慎ましやかだったが、父母は違った。
虎視眈々と有栖川の中での地位を狙ってる。
現当主様の下に女子が生まれなかったとかで、末端にもチャンスが回ってきたんじゃないか!?ってね。

今回アタシらがしろと言われたこと、ひとつは有栖川櫻子のスキャンダルを握ること。次期当主として相応しくないと糾弾してアタシを後釜に据えたいんだと。櫻子蹴落としたとこでアタシ以外にも候補いるんだし無理でしょ。

もうひとつはウチの弟たちに。有栖川櫻子に擦り寄って次期当主の婿になれと。ウチの弟達、顔は良いけどやれと言われたこと素直にやるタイプじゃないし無理でしょ。

子供をのし上がる為の道具としか見てない親も、自分にはどうせ関係ないとヘラヘラしてる弟達も、強者の余裕みたく交流を深めましょうなんて言う有栖川櫻子もみんなみんな嫌い。

……逆らう力もなくて従うしかないアタシ自身のことも嫌い。

有栖川家、爆発しないかな。

──爆発なんてする訳もなく、車は有栖川邸の別邸へと到着した。

​───────

「ようこそ、いらっしゃいませ!お待ちしておりましたわ!」

満面の笑みで櫻子が出迎えをする。

「お招きどーも」

招かれた者として一応挨拶をしておく。
アタシの後ろの弟達も挨拶を済ませて部屋の中へ案内される。弟ら、こういう時の外面はいいの何なの?

にしても、何食べたらあんな風になんの?
櫻子を見てるといつも思う。
後ろ姿からもオーラみたいなのが溢れてる感じがする。

「こちらですわ!」

そんなことをぼーっと考えているうちに目的の部屋に通される。

豪華な飾り付けに豪華な料理。
有栖川家の財を表したようなパーティー。
アタシら以外にも何人か集まっている様子みたい。

「流石有栖川のお姫様、凄く豪華なパーティーですね」

「ふふ、そうでしょう!だってわたくしのパーティーですものね!」

嫌味ったらしく言ったのに櫻子には全く響いていない。
アタシはため息をついて料理の皿を取りに行った。

​───────

次期当主になる気もないし、親の言う事を聞く気も更々無いけど一応櫻子の動向を観察する。

ウチの弟達は櫻子に近づいて笑顔を振り撒いてる。親の言う事に従ってるのか別の意図があるのかは分かんないけど。

対する櫻子は少し話してから他のゲストにも挨拶するからと離れていく。フラれてんじゃんウケる。

とか思っていると、櫻子はアタシの方まで歩いてくる。

「杏子さん、わたくしと一緒に来てくれないかしら!」

「は?」

急な誘いに呆気に取られる中、アタシの腕を櫻子は引っ張る。
……ほっそい腕なのに意外と見た目よりは力があって地味痛い。

一応次期当主サマだしあんまり逆らうと良くないな、とアタシは素直に後ろに着いて行った。

​───────

「パーティーの主催者サマが離れていいワケ?」

「ふふ、手厳しいですのね」

何とも思ってないように優雅に微笑む。
櫻子に連れられたのは有栖川邸別邸の屋上だった。
頬を撫でる風が気持ちいい。
バルコニーにもたれかかり櫻子を見る。

「で、何の用?」

「貴方、つまらないパーティーだと思っていたでしょう?」

表情を崩さず問われる。

「は、はぁ!?んなわけ」

「ふふ、分かりますわよ?貴方表情を隠すの下手ですもの」

そう指摘され顔が熱くなる。
んなことないし。そりゃ身内の前では隠さないけど喋ってないのに出るわけないじゃん。

櫻子はクスクスと笑い、話を続ける。

「わたくし、実は分からないことばかりですの。だから、分かりやすい人と話すと嬉しく感じますのよ?」

よく分からないカミングアウトに何も返せないでいると、櫻子はくるりとアタシに背を向ける。

「わたくしは席を外しますわ、また気が向いたら戻ってきてくださいましね?」

……もしかしたら、櫻子なりに気を使ってくれたのか。
嫌味な奴だと思ってたけど実は良い奴なのかもしれない。

「そうそう」

櫻子が去る途中でこちらを振り返る。

「わたくし、貴方のこと好きですわよ
貴方とも、貴方以外の親族の皆とも仲良くなりたいと思っていますわよ!」

───前言撤回。やっぱり嫌いかもしれない。

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