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【有栖川櫻子SS-5.5】 #6'迷宮 side櫻子&ベネット

  • To:ベネット・ラングマン

  • From:有栖川 櫻子

わたくし、此度の迷宮に挑戦しようと思いますの。
共に来てくださるかしら?

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From:ベネット

すでに支度は整っています櫻子様。
どこへでも参りましょう。
まやかしの幸せなど幸福に非ず。
櫻子様の行く手を阻む者、すべて叩き潰してさしあげます。

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【依頼受諾】
From:有栖川 櫻子

わたくし、迷宮とやらは危険だと伺っていたから本当は参加する気なんてありませんでしたわ。
でも、わたくしの世界が迷宮に取って代わられるかもしれないなんてこと聞いたら、以前のように何もしないでいるというのもよろしくないと思いましたの。

それにわたくし、興味がありますわ。
迷宮の魅せる“幸せ”とやら。

ともかく、やると決めたからには中途半端な働きは見せませんもの。報告を楽しみにお待ちになってくださいまし。

まずは情報収集が大事なのでしょう?
ベネットは既にいくつか迷宮を経験していますもの。
頼りにしていますわよ。

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【異変】
From:ベネット

申し訳ございません櫻子様。
いえ、体が先程から妙に重く感じるので確認しましたところ私の身体能力が、ふだんよりも低下しているようです。
どの程度低下しているかはわかりませんが、決してこれは私自身の願望ではございません。おそらくですが、魔女の妨害行為でしょう。

櫻子様の御身を御守りし、お力になる事こそ私の幸せ。
ここが幸せな世界ならば、私を虚弱に至らしめるなどありえない。魔女自らこの世界を否定するようなもの。

ですが、この程度小さな問題。
鍛えればいいのです。
……いえ、1日をずっとくり返す世界なら、鍛錬しても、これ以上の成長は望めないかもしれません。
困りましたね……(※あまり困っていない顔)
まぁ、やれるだけの事はやってみましょう。

櫻子様、まずはこの世界の自分について探りましょう。
現実の櫻子様はとても高貴な御方でいらっしゃいますが、迷宮でもそうとは限りません。この世界の櫻子様がどういったお立場であるかで、行動範囲が変わるでしょう。

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From:有栖川 櫻子

以前の迷宮でもベネットはその身体能力を活かして解決したと聞いているもの、相手に警戒されていてもおかしくないですわね。
でも、だとするとこの迷宮の性質……幸せの定義が妨害に利用出来るようなものなのかしら……?
まだ判断材料が足りないですわね。
貴方の言う通り、情報収集に勤しむとしますわよ!

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

わたくしことについての情報収集は簡単ですわ。
「有栖川櫻子について知っているか」そう聞けば良いだけですもの。

箱猫に住んでいてわたくしのことを知らないのは、新参者か余程の世間知らずくらいですわ。

そのはず、ですけれども。

残念なことに、ここでは違うようですわね。

「誰?」「有名人?」「いや、知らない」と。
何とか1人、その名を知っていると答えた方がいらっしゃいましたわ。
「そこの家のお嬢さんよね」と言って指差した先を見たのですけれども……

わたくしの見間違いでなければ、民家にしか見えないのですけれども!?

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【途中報告】
From:ベネット

はい、櫻子様。
とても立派な御宅でございます。
インターホンを鳴らしてみましたが、どうやら留守のようですね。

ただ、妙な気配を感じます。
どこからか見られているような……。
とくに悪意のようなものは感じませんが、警戒するに越したことはないでしょう。
櫻子様、どうかお気をつけて。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

ベネット、迷宮のわたくしのフォローまでしなくてもよろしくてよ?
荒屋、いえ、そこまで酷くはないけれどもこれは現実でのわたくしの家とはどう重ねても重ならないシロモノじゃないかしら!?

ともかく、仮にわたくしの家だとしても家主が留守で鍵が掛かっているのなら後で出直すしかないですわね。
その視線とやらも気になるけれど、害が無いのなら今は良いですわ。
夕方になれば家主も帰ってくるでしょうし、それまでの間学校へ行ってみますわよ。

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【途中報告】
From:ベネット

黄昏学園に到着しましたが、校門が閉まっていました。ふだんなら力づくで開けるなり、櫻子様を抱えて飛び越えるなり致しますが、今はそのようなことはできません。
先生方の通用口は常に開いていますので、そちらを利用しようとしたところ警備員に呼び止められました。
「家の事情で遅刻した」と申し上げたところ、櫻子様は校舎に入れましたが私は入れませんでした。
というのも「見覚えがない」と警備員の方から言われたので「私は彼女の友人で、付き添いです」と答えたからです。
決して油断していたわけではありませんが、私についても調べる必要がありそうですね……

先程、チャイムが鳴りましたのでお昼休みのようです。櫻子様、しばし別行動となりますが、調査を終えましたらすぐにそちらに向かいます。櫻子様は生徒にまぎれ様子を伺ってください。

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From:有栖川 櫻子

まさかいきなりベネットと別行動になってしまうなんて、出鼻をくじかれましたわ。
ベネットがここの生徒でない、ということはこの迷宮におけるわたくしとベネットの関係も大きく異なるのかもしれないですわね。
まぁ、ここでのベネットについては調査を任せますわ。

学校内で調査を進めたのですけれども、ここでのわたくしは現実とかなり異なるみたいですわね。
返されたテストは60点だとか70点で正に平均点、という感じみたいですし。
友人も多くて……わたくしに友人が少ないという意味ではありませんことよ!?
……そうですわね、友人との距離感が現実と異なる気がすると言えばいいかしら。
帰りに買い食いしようだとか、ゲームセンターに寄り道しようだとか。
わたくし、庶民の皆様とは違うから誘いにくいのかしら、そういった誘いを受けることは殆どないのだけれどもここでは違うみたいですわね。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

学校が終わって、迷宮の友人たちと遊びに出かけましたわ。
別々の味のクレープを買って1口ずつ分け合ったり、プリクラを撮ったり。
わたくし、現金はそう多く持ち歩かないからプリクラはいい、と言ったのですけれども「なら払うよ、今度代わりに奢ってね」と。

庶民的な遊びをすることも、奢られるという経験をすることも中々に新鮮ですわね。

途中であまり遅くなってはお稽古事に遅れてしまう、と思ったのですけれども、そういえばこの世界ではわたくしの家はただの庶民の家なのですわよね。失念しておりましたわ。
この後の予定を気にせず遊ぶ、存外悪くないですわね。

ふと、「枷のない自由を楽しんで」と声が聞こえたのですけれども、振り向いても誰もいなかったんですわよね。
一体、誰の声だったのかしら。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

ひとしきり遊んだ後、暫定自宅へ行きましたわ。
ちょっとまだ信じられなくてインターホンを押したのですけれども……中からわたくしの長兄が出てきたので確定ですわね。
いえ、兄は今箱猫にいないからここにいるというのもおかしな話なのだけれども。
「自分の家なのにインターホンを押すなんて櫻子は変わってるね」と笑われてしまいましたわ。

家の中に入ったら次兄とお母様とお父様、お祖母様がいらっしゃいましたわ。
それとなく、兄にいつお帰りになられたのか聞いたのですけれども「ずっと箱猫にいるだろ?急におかしなことを言って疲れてるのかい?」と言われたからこの世界では箱猫から出ていないのですわね。

兄が当たり前に箱猫に留まっていることも驚きましたけれど、それよりもお祖母様ですわ!
普段はそう、厳しい人なのだけれどもここでは全くそうでなくて。
穏和というか、会話していて受ける印象が異なりすぎて困惑していますわ。
普段は有栖川の後継としての自覚を持ちなさいと、振る舞いや在り方について厳しく言いつけられていますけれども、一言もそういった話は出ませんわね。
まぁそれもそうですわよね、ここは現実と違いますもの。
何か家業がある訳でもなさそうですし、家を継ぐという概念がそもそもこの家にはなさそうですわ。

そうそう、この家流石にグランドピアノは置いていなかったけれども、小さなオルガンが置いていましたわ。
少し弾いてみたら「将来は音楽家かしら」と。
家族の皆が笑って言っていましたわ。

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【途中報告】
From:ベネット

時間がかかりそうなので、自分の調査は中断しました。
というより、0時になるのを待つことにしました。
木枯嵐さんが、「野宿したはずなのに部屋のベッドにいた」と仰られていましたので、こちらも同様であれば、むやみに探し回らずともこの世界の自宅へ移動できるかもしれません。
それまでは、解決の手がかりがないか付近を調べてみようと思います。

ところで、見知らぬ女性から「あなた今、幸せ?」と聞かれましたが、新手の宗教勧誘でしょうか。
生憎櫻子様の安否と迷宮の解決方法以外に気がかりな事はありませんので、あさっての方向に耳をお貸し致しました。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

迷宮に来て2日目ですわね。
昨日あれから家の中を色々見てみたのですけれども、シャンプーも見たことのないブランドのものだしクローゼットの中の服も見覚えがないですわね。
少し、わたくしの肌には合わないけれども贅沢は言ってられないですわね。

朝起きたら白米に味噌汁、卵焼きにほうれん草のお浸しが人数分準備されていましたわ。
皆、朝早くから仕事や学校へ行くみたい。
わたくしも早く支度しなさい、と言われましたわ。
まだまだ分からないことだらけですもの。
今日も学校で調査致しますわ。

……ベネットは今頃どうしているのかしら。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

今日も友人に遊びに誘われましたわ。
昨日誘われたのと同じように買い食いをしてゲームセンターに行こう、と。
これは単なるループだから、同じことを繰り返すのは当たり前。

……なのだけれども、庶民の友人関係ってそういうたわいもない日々の繰り返しの中にかけがえなさを感じるものなのではないかしらって。
少し、そう思いますわ。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

誘われた通りに今日も遊びに出かけたのですけれども、わたくし気になることがありますの。

それは昨日、わたくしに声を掛けた存在。
今日はその存在を確かめるべく神経を集中させていましたわ。
そのせいで友人に話しかけられていることに気が付かなくて、「何ぼーっとしてんのよ」って少し怒られてしまったのですけれども。

昨日声を掛けられた辺りをくまなく探してみたのですけれども、その存在は残念ながら見当たりませんでしたわ。
昨日と異なる動きをしているってことは、もしかしてループの外にいる存在なのかしら。
気になりますわね。

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

暖かく「おかえり」と家族の皆に迎えられる。
手狭な部屋は家族との距離感をより一層近く感じる。
会話の端々からわたくしの能力がみられているのではなく、能力があろうがなかろうがそれでも良いという空気を感じる。

ああ、この迷宮では有栖川の人間としてでなく、ただの櫻子として皆から接せられるのですわね。

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【途中報告】
From:ベネット

気づいたら、ベッドで横になっていました。
無事に、この世界の家にたどり着いたようです。この家に見覚えがあるかないかと言われましたら、正直わかりませんね……。寝室を見るかぎり、家具の並びや構造は私が暮らしているアパートの一室によく似ているような気がします。
歩きまわって疲れていたのでしょうね。体が重いですし、筋肉痛も……。あとでトレーニングしなければ。

ちょうど体を起こしたところで、ドアをノックされました。返事をしないで相手の反応を待ったところ、男性の声で「ごはんができたからあとで持ってくる」と言って、足音は去っていきました。

どうして「リビングに来てほしい」ではないのかとふしぎに思いつつ、ひとまず向かうことにしました。あちらが食事をお持ちになられるなら行かなくてもいいのですが、いまの私は普段のように動けませんから、逃げ場のない寝室にいるのはちょっと……。それに、家に着いたらすぐに調査するつもりでしたので、ここでじっと待っていようとは思いませんでした。

部屋から出ると、すぐそこが居間と台所になっていました。その男性は、たぶん父だと思います。最後に会ったのはずいぶん前ですから、家族という実感はあまりありません。ただ幼い記憶と写真などで見た面影から、そうなのだろうと考えているだけで。

私を見て、父はとても驚いていました。「もう部屋から出て大丈夫なのか?」と何度も確認されましたので「今日は、たぶん大丈夫だと思う」とあいまいに答えました。もしかして、迷宮での私は部屋にこもりがちなのでしょうか……

それから、父は私のことを「イレーネ」と呼ぶのです。イレーネはたしか■■■■だったかと思いますが………これは一体…………

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【途中報告】
From:ベネット?

母は仕事で不在のようで、父とふたりで食事をとりました。ここしばらくひとりでしたから、だれかと一緒に食事というのはちょっと心がくすぐったいですね。
ああ、もちろん、有栖川さんとご一緒するのもとても楽しいですよ。
ただ、現実の……身内のお話をしてしまうと、両親はずっと不在でしたから、まわりが考えるような一家団欒をうらやましく思った時期も、もしかしたらあったかもしれません。
自分のそばに、自分以外の存在があるというのは、こうもあたたかくなるものなんですね。身の安全が保証される安心感ではなく、本やテレビ、街角で見かけたような、ありふれた日常風景であること自体に。

食卓には、おかゆが入った茶碗と解熱剤があって、どうやら私は体調をくずしていたようですね。それなら、大丈夫かと確認されてもしかたありません。
私が大丈夫だと言ったからか、父はちがうものを用意してくださいました。トーストと目玉焼きとソーセージ、サラダが目の前に置かれて……………いつもの私なら完食できるのですが、今回はほとんど入りませんでした。食欲がまったくわかず、せめてサラダの中にあったプチトマトだけでも口に入れようとしましたが、無理でした。父もあまり無理しないようにと言ってくれました。ご用意してくださったものを残してしまうなんて、申し訳ないですね……

ただ、食事中もずっと、父は私をイレーネと呼ぶのです。どうしてでしょうか………

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【途中報告】
From:ベネット?

寝室を調べたところ、黄昏学園の制服と生徒手帳を見つけました。生徒手帳の名前にもイレーネと書かれていて、顔写真も私のものでした。

学園の警備員も見覚えがなく、部屋にこもりがちなら、私は不登校なのでしょう。実際、寝室で過ごしていても家事をしていても、学校のことを父からは何も聞かれませんし、むしろ心身を気遣われているような……

なら、体力が衰えているのも、食欲がないのもわかるような気がしますが……どうしてこれが私の幸せになるのでしょうか。それに……私の名前も……

今のところ、私にはどれもピンときません。
昔何かあったのか思い出そうにも、そもそも私は、小・中学生の頃、自分がどのように過ごしていたかまったく思い出せないんです。
有栖川家からお声がかかり、櫻子様のおそばにいる以上、経歴に問題はないのだろうと思いますが………

なんでしょうか……その…………全身が、警笛を発しているような……これ以上調べたらいけないような……気が……

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【途中報告】
From:有栖川 櫻子

朝起きて、今日も早く学校へ行くように急かされましたわ。
けれどもわたくし、今日は学校へ行く気はありませんの。
普段のお祖母様に知られたらお叱りを受けてしまいますけれども、解決の為ですもの。致し方なしですわ。
それに、ここでのお祖母様はわたくしを叱りそうにありませんものね。

でも勇んで出たはいいものの、わたくし人探しはあまり得手では無いことに気づきましたの。
探し人の特徴も分からないし、どうしようもないですわ。

だからわたくし、オープンテラスのあるカフェでお茶にすることにいたしましたの。
闇雲に歩き回るのは得策ではないですものね?

そうしていたら、幸運なことに探し人はあちらから来てくださりましたわ。
「サボりなんてしていいのかしら?」って。
顔を上げて見たらその方も制服姿だったもの。わたくし笑って「お互い様でしょう?」と返しましたわ。

それから彼女、二次 最善さんとお話をしましたわ。
「永遠の幸せってとても素敵だと思わない?」
「貴方だって、ここが幸せと感じているのでしょう?」
「ここでなら重圧に押し潰されることもない、好きなことを好きなようにしていいのよ」と彼女は言っていましたわ。

なるほど、確かに一理ありますわ。
実際わたくしはこの生活に幸せのようなものを感じていますもの。
彼女の言葉のひとつひとつ、とても優しく甘美な蜜のよう。

嗚呼、でもそれはとても───つまらないですわ。

確かに重圧に押し潰されそうになることもあるのも嘘じゃないですわ。
けれどもわたくし、それは苦痛では無いですの。
困難を乗り越えてこそ、幸せが輝くのではなくて?

わたくしの返答に彼女は変わらず笑っていましたわ。
「貴方がどう思おうとこの迷宮の拡大は止まらない。なら幸せを大人しく享受している方が賢いんじゃないかしら」とね。

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【途中報告】
From:ベネット?

いけませんね。弱気になるなんて。
こちらに来てから、思いも寄らぬことばかりで平静を欠いてしまったようです。
早く身のまわりのことを調べて、櫻子様と合流しなければ。

押入れの奥から、ダンボール箱を見つけました。そこに古いスケッチブックがあって、幼いこどもがクレヨンや色鉛筆で描いたような絵がたくさんありました。手をつないだ女の子がふたりと、背の高い男の子と女の子……いえ「ぱぱ」「まま」と書かれているので、おそらくこれは家族の絵ですね。ほかにも、絵日記がありました。
ふふ。私にも、このように可愛らしい時期があったのでしょうか。

褐色の肌の女の子のほうに「いれいね」、色白の女の子のほうに「べねつと」と名前のようなものが書かれています。
……なるほど。私以外にベネットという人物がいるようです。肌の色が私と違うなら、探しても見つからないのはしかたな

え?

あ、あの……
こ、これが本当なら

わたし は

だれ?

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【途中報告】
From:ベネット?

夕方になってスーツ姿の母と、白い肌の女の子が帰ってきました。父が女の子を「ベネット」と呼び、彼女もまた寝室から出てきた私に手をふりました。
肌が白いこと以外は、私と同じ色の目と、同じ色の髪の女の子で「具合は大丈夫?」「元気になったら旅行に行こうね」と笑いました。

家族の会話から察するに、彼女は私の姉妹のようです。黄昏学園の制服を着ているので、年齢は私とそれほど変わらないでしょう。
できるかぎり平静を装って、生徒手帳を見せてほしいと言ったら、彼女はふしぎそうな顔をしながらも見せてくださいました。
黄昏学園の生徒で、名前欄に「ベネット」と書かれていて、顔写真も彼女のものでした。
苗字も誕生日も同じ………なら、双子の姉妹でしょうね。外見は……あまり似ていませんけど……

私に姉妹がいるなんて、そんな記憶ありません。
両親からも知人からも、そのようなお話聞いていません……
で、では、では私はずっと、姉妹を騙って暮らしていたのでしょうか。
有栖川家にも、まわりの皆さまにも嘘をついていたのでしょうか。
わ、私は…………私にそのようなつもりは……!!
まさか、私が昔を思い出せないことと何か関係が?
こ、これは…………ど、どのように受けとめたら……

申し訳ございません……ちょっと食事ものどを通りそうにありませんし、なんだか頭がぼんやりとします。熱がぶりかえしてしまったのでしょうか。……少し、ベッドに横になります……

【ベネットさんがログアウトしました】

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【サルベージ依頼】
From:有栖川 櫻子

ああ、可哀想なベネット。
自分が分からなくなってしまっているのね。
迷宮に呑まれかけてログアウトしてしまったから、ここからの声も届かないみたいですわ。

わたくしが人探しが不得手なことは前の報告で書いたでしょう?
どうしようかしら、と思っていたのだけれどもやはりわたくしは運に愛されていますわね。
五十鈴さんがわたくしの自宅の前にいましたの。

五十鈴さんにはベネット探しとあともうひとつ、お願いを致しましたわ。
わたくしは戻ってやらなければいけないことがありますの。
サルベージ、お願いできるかしら?

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【サルベージ中】
From:一ノ瀬 濫觴
了承した。有栖川君のところに今、ドローンを飛ばしたから、すぐにサルベージできるはずだ。
ラングマン君はまだ残っているみたいだね。少々不安だが有栖川君の判断と五十鈴君の尽力を信じよう。

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【解決済】
From:有栖川 櫻子

わたくし、この迷宮を終わらせるにはどうすれば良いのか考えましたの。
この迷宮は確かにわたくしにとって幸せでしたわ。
けれども夢はいつか醒めるべきもの、ですものね?

ふふ、話が逸れてしまいましたわね。
解決の方法なのだけれど、わたくし一度サルベージして頂いたでしょう?
元の世界でしたいことがありましたの。
皆様、迷宮が何処にあるかは勿論ご存知ですわよね?
迷宮は再開発地区にありますの。
わたくし、それを利用したのですわ。

そもそもの話、この迷宮が何故生まれたのかとわたくし考えましたわ。
わたくしが考えるに、迷宮が出来たのは現実に今日の幸せを尊ぶがあまりに明日以降もこの幸せが続かないかもしれないという不安を持つ人が多くいたからではないかしらって。

だからわたくし、皆が明日以降に希望を持てるような娯楽を作ることに致しましたの。
そう、具体的には再開発地区の一部を買い取って、複合型アミューズメント施設の開発をすることを決めましたわ!
お祖母様の説得、とても大変でしたのよ?

明日以降に楽しい事が待っている。
その予感だけでも人は強くなれると、わたくしそう信じていますの。
迷宮の中から迷宮をどうにかするのがセオリーみたいですけれども、外から壊してはいけないなんて誰も言っていませんものね?

わたくしはこれを現実で大衆に認知させることと、迷宮内で迷宮の主に認知させることでより強固な事実にしてしまおうと思いましたわ。
それで、現実では有栖川の人員を使い大々的に開発決定の宣伝を行いましたわ。
それで迷宮の主……最善さんの方なのだけれども、五十鈴さんに頼んで学校に来るように誘導して貰いましたの。

最善さんにこのことを告げた後、空が少しずつひび割れて崩壊が始まりましたわ。
ふふ、世界の崩壊なんて滅多に見れない貴重な光景でしたわ。
最善さん、崩壊の原因の事業が止まれば迷宮は壊れないと考えたのでしょうね。
わたくしのことを害そうと掴みかかりに来られましたわ。

でもわたくし、怖くありませんでしたわ。
五十鈴さんがベネットをちゃんと見つけ出して、一緒に学校まで来てくださりましたもの。
きっと、何も分からなくなってしまって不安だったのでしょうね。顔を見ただけでも分かりますわ。
なら、わたくしがすべきことはひとつでしょう?

「貴方はわたくしの従者、わたくしの敵を排除なさい」と。
ベネットにそう告げましたの。

それからは早かったですわ。
ベネットの力があれば拘束なんて容易いですものね。
弱体化していると言っていたけれど、きっと迷宮が壊れかけていて現実との境界が曖昧になったから力が戻ったのかしらね。

それで迷宮の崩壊は進んでいって……終わりですわ。
綺麗さっぱり無くなりましたの。

ベネットのこと、わたくし不安なんてありませんでしたのよ?
だって、わたくしのベネットですものね!

わたくしが危機に陥れば、貴方は助けてくれるでしょう?
だって、貴方はわたくしのボディーガードですもの。
わたくしがわたくしである限り、貴方の存在はわたくしが証明致しますわ。

ふふ、少し報告が長くなってしまったけれどもわたくしの迷宮攻略はこれでおしまい。
件の娯楽施設だけれども、誠意開発中なので是非楽しみにしていてくださいまし!

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【礼文】
From:一ノ瀬 濫觴
有栖川君、解決ありがとう。
流石というか豪快というか、私にも考えつかない方法の解決だ。きっと魔女も想像だにしてなかっただろう。
外からの破壊か。今回のケースは稀有な例だが、もし確立できれば安全に迷宮を消すことができるだろう。
 
何年かかるかは分からないけど、完成の暁には解決部みんなで行きたいものだね。
 
ラングマン君も一緒に帰って来れてよかった。
彼女も色々自分のことに対して悩みがあったことだろう。
本人は嫌がるかもしれないが、これからもお互いにサポートし合える関係であって欲しい。
改めてふたりともおかえり。今日はゆっくり休んでくれ。

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