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生き残ったのはゴールド~ビットコインスタンダードより②~

初心者向けによく勧められている『ビットコインスタンダード』(著者:SAIFEDEAN AMMMOUS 、出版:WILEY)を読んでいます。勉強のために自分の言葉でまとめてみます。

チャプター2から3を中心にまとめます。

ヤップ島の石貨(Rai)が廃れるまで

歴史を振り返ると、使われるお金は移り変わっていきました。一時期は使われていたけれど、廃れていったというお金はたくさんあります。

その例として、ヤップ島で使われていた石貨(Rai)を取り上げます。Raiは円盤型で、中央に穴が空いた見た目をしています。石灰岩を切り出して作ります。

大きさは様々ですが、Wikipediaによると、ほとんどが直径30cm~50cmであるようです。ただし中には、直径わずか3.5cmのものもあれば、直径360センチ(3.6メートル)に及ぶものもあるそうです。ちなみに、以下は240センチのRaiです。

Raiに価値があった理由

1700年代から数百年の間、Raiはお金のように機能し利用されたと考えられています。利用されるシーンは様々ですが、冠婚葬祭での贈り物や相続、政治的な取引、食料との交換などを例として挙げることができます。

お金の価値を決める要素に以下の3つがあります。Raiは当時、このうちの2つ目と3つ目を満たしており、このため価値を持っていたと考えらえます。

  1. 金額を問わず使える

  2. 場所を問わず使える

  3. 時を問わず使える

3つの要素をそれぞれ見ていきます。

まず「金額を問わず使える」という点については、Raiは不便だったと思います。大きさや色によって価値は異なっていたようですが、少額のちょっとした支払いには不向きです。

「場所を問わず使える」という要素は、ある程度満たしていました。島外では使えないものの、島内では問題なく利用できたためです。数メートルにも及ぶRaiは持ち運ぶとなると大変ですが、地面に設置したままの状態で譲渡できたため、島内であれば不都合なく利用できました。

「時を問わず使える」という条件は、数世紀間は満たしていました。その理由として、数世紀間は生産が困難だったことを挙げることができます。つまり、ストック・フロー比率が高かったのです。

Raiの生産方法

Raiを生産するには、まず、直線距離にして400キロメートル離れたパラオ諸島(グアム)に、海を渡ってたどり着く必要があります。そして、石灰岩の山から石を切り出し、カヌーやいかだを使ってヤップ島に運び出します。こうして帰ってきてはじめて、生産完了となるイメージです。

数百人もの隊が組まれ、数年に及ぶ遠征となることもありました。さらに、途中で命を落としてしまう人もいました。

このためRaiの生産は非常に困難であり、それゆえにRaiの価値は認められていたと考えることができます

ちなみにビットコインスタンダードでは、Raiとビットコインの類似性が指摘されています。その理由としては、生産するのに困難な作業が伴うこと、大きなRaiについては島民全員がその所有者を把握していたことが挙げられています。

Raiの価値が下がった理由

Raiは数百年に渡ってその価値を認められ、お金として使われてきました。しかし、アメリカ人のデビッド・オキーフェがヤップ島に遭難したことをきっかけの1つとして、その価値は下がってしまいます。

Raiの価値が下がったのは、オキーフェがもたらした科学技術によって生産難易度が下がったからです。島内でお金が必要になったオキーフェは、Raiを生産することにしました。そしてやがては、香港に渡って爆薬や大型ボートなどを調達し、それらを駆使して巨大なRaiを短期間で複数運び出したのです。

オキーフェが生産したRaiは、「苦労が伴わない」という理由で島内で無効とされました。しかし、科学技術がRaiの生産を容易にし、ストック・フロー比率を下げることにつながったと考えることができます。

ちなみに、Raiの利用がストップしたことには、ヨーロッパ諸国の覇権争いなども関係しています。また、貨幣としては使われていないものの、Raiは今日も伝統的な用途で使われているそうです。

塩から金属へ、金属から貴金属へ

ヤップ島の状況はやや特殊で、世界全体的に見ると、紀元前の時期にはすでにお金のシフトが何度か起こっていたと考えられます。

金属へのシフト

最初のシフトは、金属へのシフトです。それ以前は貝殻や塩、牛などがお金として使われましたが、金属加工の技術が高まると、金属が優先的に利用されるようになります。金属は持ち運びが便利ですし、比較的頑丈で作物のように腐ることはありません。また、当時の技術生産では、生産は簡単ではなかったので、お金として優れていたと考えられます。

貴金属へのシフト

やがて、金属の中でも優劣が分かれるようになっていきました。

銅や鉄といった地球上に豊富に存在し、腐食により劣化しやすい金属については、価値が下がっていきました。一方、ゴールドやシルバーは生産が難しく、劣化しづらいという性質を持っていたので、より広く使われるようになります。

金属のお金は、それぞれの価値に応じて使い分けられるようになります。ゴールドは主に高額な支払いに使われ、より価値の低いシルバーは少額の支払いに使われました。銅はさらに少額の支払いに用いられたとされています。

その後のシフト

その後、次第に銅が使われるケースが減っていき、さらにはシルバーが用いられるシーンもなくなっていきました。

シルバーがお金として使われなくなったのは、金本位制(Gold Standard)が実施された頃からです。金本位制では各国の中央銀行が、金を裏付け資産とする通貨を発行します。通貨のおかげでゴールドの価値に基づきながら、少額で支払えるようになったので、シルバーはお役御免になったというわけです。

ちなみに、金本位制が広まってた以後、さらなるシフトが起こります。それはフィアット(今のUSDやJPYなど)へのシフトです。中央銀行が、保有するゴールドの価値以上の通貨を発行したことなどで、金本位制は崩壊します。これについては、続編で触れていければと思います。

ゴールドが生き残った理由

ゴールドは、もっとも長く使われたお金だといっても過言ではありません。紀元前500年頃にリディア王国で使われ始め、金本位制の裏付け資産に選ばれ、さらに今日でも価値の保存先として人気です。

なぜ、ゴールドはここまで生き残ることができたのでしょうか。

ゴールドの価値

改めてではありますが、お金の価値を決める3要素をそれぞれ考えてみます。

  1. 金額を問わず使える

  2. 場所を問わず使える

  3. 時を問わず使える

「金額を問わず使いやすい」とは、少額でも高額でも支払えるといった意味です。ゴールドは高額の支払いには向いています。数枚のコインを差し出すだけで、大きな金額になるためです。しかし、少額の支払いですとか、細かな金額調整には不向きです。「財布の中に1万円札はあるけど、小銭が一切ない」といった状況と似ています。

ゴールドによる支払いには、場所の制約がかかりません。世界中の多くの人がゴールドの価値を認めていますし、持ち運びは比較的確認です。現代では法律などによって縛られているので面倒な部分もありますが、金は1グラム1万円(2023/11/25時点)なので、以下のようなゴールドバーだけで、相当な価値を移動させられます。

三菱マテリアルより

ゴールドは、「時を問わず使える」という点で特に優れています。まず、ゴールドは化学的に安定していて、酸化したり溶けたりしづらい物質です。また、採掘するのが大変で、毎年流通量の1.5%ずつ程度しか生産できません。化学的に合成することもできません。

シルバーの価値

その他の金属の代表例として、シルバーを取り上げてみます。シルバーは「金額を問わず使える」という点でゴールドよりも優れています。しかし、「時を問わず使える」という点では大きく後れを取ります。

シルバーも貴金属の仲間であり、比較的生産が難しい金属です。しかし、ゴールドと比べると生産するのは容易であり、これによって供給が増えやすく、価値が操作されやすくなっています。

仮に、資産家がシルバーで価値の保存を行おうとして、シルバーを大量購入したとします。するとシルバー価値は上がりますが、いずれ価格は元に戻ります。シルバーの生産者が設備投資などを行ってシルバーを大量に採取し、市場で売りさばくためです。

ちなみに、上記のような事例は実際にあったみたいで、シルバー価格は結局もとに戻ってしまってそうです。

そんなゴールドにも弱点が

ゴールドは価値の保存先として優れています。長年使われ続けてきたということから、なんとなく信頼感もあるのかなと思います。

しかし、ゴールドにも弱点があります。それは、支払い手段としては不便だということです。

政府がゴールドを裏付け資産として、通貨を発行した時期には、ゴールドを使った少額取引が簡単になりました。そのため、この体制によってゴールドの弱点は補えるように思えますが、この体制には欠陥があります。

ゴールドはジレンマを抱えています。政府の介入がなければ支払い手段として不便です。しかし、政府の介入があったらあったで別の問題が起こってしまうのです。

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