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【観劇レポ】ミュージカル『ヘアスプレー』

お久しぶりです。1年ぶりに書きます。
長らく書くことから離れておりましたので少々拙いところございますが、どうぞあたたかく見守ってください(笑)。

今回私が観たのは、池袋にある「東京建物 Brillia Hall」 にて絶賛上演中のミュージカル『ヘアスプレー』。こちらのレポでは、9月24日(日)に行われたマチネ公演の模様をお届けします(ネタバレ含みますので、まだ観てない方はご注意願います)。

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【作品紹介】

本作は、アメリカのマーク・シャイマン作曲、スコット・ウィットマン&シャイマン作詞、マーク・オドネルおよびトーマス・ミーハン脚本によるミュージカル。1988年公開のジョン・ウォーターズ監督によるコメディ映画『ヘアスプレー』を原作とし、2002年8月15日からブロードウェイで上演され大ヒットしました。2003年にはトニー賞13部門にノミネートされ、ミュージカル作品賞をはじめとし、8部門を受賞しています。

【あらすじ】

舞台は1960年代のアメリカ、ボルティモア州。トレイシー(渡辺直美)は、ダンスが大好きでちょっぴりビッグサイズな女の子。彼女の夢は、コーニー(上口耕平)が司会を務める大人気のテレビダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」のダンサーになることだった。いつものように親友のペニー(清水くるみ)と夢中で番組を見ていると、新メンバー募集のニュースが飛び込んでくる。トレイシーは「オーディションを受けたい」と母・エドナ(山口祐一郎)と父・ウィルバー(石川禅)に懇願。心配性でトレイシーと同じくビッグサイズなエドナには反対されたが、「夢もビッグに!」というウィルバーの言葉に勇気づけられ、いざオーディション会場へ。会場には「コーニー・コリンズ・ショー」に出演しており、トレイシーが憧れるリンク(三浦宏規)や、ミス・ティーンエイジ・ヘアスプレーを狙うアンバー(田村芽実)の姿も。しかしトレイシーは、アンバーの母で番組のプロデューサーも務めるヴェルマ(瀬奈じゅん)から、体型を理由に一方的にオーディションの受験を拒否される。翌日、学校でトレイシーはビッグな髪型のせいで居残りさせられることに。そこでレコードショップを営むメイベル(エリアンナ)の息子・シーウィード(平間壮一)に出会い、彼のダンスのかっこよさに衝撃を受ける。次の日に学校で行われるダンスパーティーで、彼のようなダンスをすればきっとDJとしてやってくるコーニーの目に留まるはず!!そう意気込むトレイシーは会場となる体育館に向かうのだが…。

【ずっと見たかった景色】

パンフレットのコラムにもありましたが、ミュージカルにおいて1曲目というのは非常に大事なものだと私は常々思っています。なぜなら日常から非日常に入り込むためのファーストステップであり、ここで観客を一気に舞台の世界に誘うからです。

今回のヘアスプレーでは特にそれを強く感じました。
グッドモーニング・ボルチモア(Good Morning Baltimore)」のイントロが流れ、センターに登場した直美さんを見た時、ちゃんとそこにトレイシーがいたのです。この作品の上演を2年も待った私にとって、この瞬間の胸の高鳴りは絶対に忘れることのできないもの。自然と涙がこぼれていました。

そうして始まった『ヘアスプレー』は最後まで私を楽しませ、終演後はこの上ない充足感で満たしてくれたハッピーミュージカルなのです。

【キャストの配役が素晴らしすぎる】

エンターテイナーとしての本気

明るく純粋で愛に溢れた主人公トレイシーを演じた渡辺直美さん。
本作が初のミュージカルであることを全く感じさせない度胸がありました。それは芸人としてだけではなく様々なジャンルで、しかもワールドワイドに活躍されているからなのかなと思ったり。何より、自分の個性をとても大切にしている方だからこそ、トレイシーという役がぴったりだと感じます。

また、白人と黒人が人種差別のせいで一緒に踊ることができないというのに対し、「皆と一緒に踊れないなんておかしいよ」と伝えた時の表情。真っ直ぐな瞳が印象的で、17歳という純粋な少女を現在34歳の直美さんがとても素敵に演じられていました。

歌も以前FNS歌謡祭に出演されていた時より格段に上手で。最初は少しドキドキしながら聞いていたのですが、杞憂でした。表現力の高さに脱帽です。アドリブで皆を笑わせに来た時は直美さんの本領が発揮され、とても笑わずにはいられませんでした。

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ソウルフルで痺れる美声

「コーニー・コリンズ・ショー」で月に一度行われるブラック・デーの司会者・メイベル役のエリアンナさん。
メイベルは人種差別の問題に誰よりも向き合ってきた人で、トレイシーに「差別に対抗してきた人はあなたが初めてじゃないし、最後でもない。だから私は戦う」と言い放つシーンがあります。その言葉は本当に心に刺さりましたし、メイベルが抱えてきた苦しみだけではなく、彼女の意志の強さを感じました。

そのシーンで登場する楽曲が、先日のMUSIC FAIRでも歌われていた「過去から未来へ(I Know Where I've Been)」。TVの前にもかかわらず全身の鳥肌が立ったエリアンナさんの歌声を、実際に劇場で聞けた時は本当に涙が止まりませんでした。またシャイナ役のMARIA-Eさんとの歌の掛け合いも素晴らしく、魂が震えるというのはこういうことなのだと改めて思いました。

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イケメンなのにもったいない…鈍感すぎるバカ(笑)

トレイシーの憧れの人・リンクを熱演した三浦宏規さん。
お顔も1つ1つの言葉も華やかすぎるほど華やかなのですが、今回のリンクは映画版のZ・エフロンよりナルシストを徹底していてとてもよかったです。

初めはアンバーと恋仲だったリンクですが、トレイシーの前向きなところに惹かれてどんどん行動が変化していきます。少し間抜けなところもありますが(劇中では「鈍感すぎるバカ」と揶揄されているシーンも)、黒人の皆に対し悪口を言うことはありませんし、アンバーの意地悪な行動にもちゃんと注意をできる優しさがあります。だからこそ愛おしく思えるんですよね。

ふたりでひとつ(It Takes Two)」で見せた歌声も素敵でしたが、彼のバレエ経験を生かした綺麗なダンスはシーウィードとはまた違うかっこよさがありました。白人リンクを演じる三浦さんと黒人シーウィードを演じる平間さんのそれぞれのダンスを見ることができるのもこの作品の楽しみの1つかと思います。ラストの「ビートは止められない(You Can’t Stop The Beat)」では二人が仲良くなった様子を窺わせる、微笑ましいシーンもあるのでぜひチェックしていただきたいです。

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ペニーだけでなく観客も恋に落としていく

ダンスの名手であり、トレイシーが人種差別の問題と向き合うきっかけになったシーウィード役の平間壮一さん。
抜群のキレとアクロバットがとてもかっこよく、その良さが顕著に表れていました。特に平間さんはダンス全般は勿論のこと、ヒップホップを含めブラックカルチャーを尊敬し、大切にしている人なのです。だからこそ、シーウィードを平間さんが演じることに意味があると思っています。

また、この作品で平間さん演じるシーウィードに恋をした方も多いのではないでしょうか。シーウィードはトレイシーの親友・ペニーと恋仲になるのですが、初めてペニーを見た瞬間の彼の表情は絶対に見逃してはいけません。前髪をサッと整え、ペニーを狙おうとするザ・男の目線。近い距離を保ちつつ、彼女の腰にスッと手を回したり肩に触れたり…。少し本編の方に目を向けていると、すぐ端の方でイチャコラを始めようとするシーウィード、愛が重い、重すぎます。ただ、ペニーが恋に落ちる気持ちもわかります。だってシーウィード、めちゃめちゃかっこいいんですもの(笑)。最後の最後まで2人は可愛いカップルでしたので、観に行かれる方はぜひキュンキュンしていただきたいです(ラストの「ビートは止められない」でペニーのこめかみ辺りにキスしてました、2回も)。

そしてもう一つ印象的だったのは先程メイベルのところでも記述した「過去から未来へ」のシーン。メイベルがこれまでの差別について話している時、シーウィードも辛そうな表情をしていて。普段は明るく踊ってばかりいるけれど、「実際には差別を受けてきたんだろうな、メイベルや仲間たちと戦ってきたんだろうな」と思わせるその繊細なお芝居に、役者・平間壮一のすごさを感じました。

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予測不能な言動と溢れんばかりの可愛さ

敬虔なキリスト教信者(+白人至上主義)のプルーディーを母に持つペニー役の清水くるみさん。
厳しい母親の元で育ったけれども、本人はそのことをあまり気にしていなさそうな自由さで、要所に不思議な言動が見られます。オーディション会場でヴェルマに「帰って」と拒否されたトレイシーに、ペニーは「トレイシーのこと、気に入ったみたいだね」と的外れなことを言ったり、常に変な歩き方をしていたり(笑)。しかしそれが彼女の良いところでもあり、無意識のうちに誰かの心に寄り添える人なのだと思います。だからこそシーウィードは惹かれたのではないでしょうか。

そしてシーウィードが縄で縛られたペニーを助けに来るシーン(「愛こそすべて(Without Love)」では、とにかくペニーが可愛いです。あんなにシーウィードに溺愛行動を取られているのに、「私だけが両想いだと思っていたらどうしようかと思ってた」と話し、しかも彼の胸にそのまま飛び込み、押し倒しちゃう。それまでずっと恥ずかしがっていた表情を見せていたのに…ずるいぞシーウィード!特にペニーからシーウィードへの愛の歌詞が私は好きで、黒人であるシーウィードのことをチョコレートに表現するところに作り手のセンスを感じます。

そんな可愛いペニーを演じたくるみちゃん。癖のある独特な動きをずっとしているのも、本当はダンスができるのに下手なふりを演じているのもすごいです。歌も高音があったのですが、綺麗に響いていて。くるみちゃんだからでもなく、ペニー役だからでもなく、くるみちゃんが演じるペニーだからこそ、ずっと目で追いかけていたくなるほどとても魅力的なキャラクターになっていました。

あと、「鐘の音が聞こえる(I Can Hear The Bells)」中の動きは毎回違うのでしょうか。コーラスの1人にロリポップを持たせて動き回った後、再びロリポップを回収しようとしたら中々相手に離してもらえなくて(笑)。コメディの役、今後も見てみたいなと思いました。


どこか憎めない悪役美少女

「コーニー・コリンズ・ショー」のダンサーで トレイシーのライバル・アンバーを演じた田村芽実さん。
アンバーはきゅるるんとした可愛らしい見た目とは裏腹に、睨みの利いた顔は本当に怖いですし、トレイシーに対しても結構えげつないことをする女の子です。しかしそんなアンバーをただの悪役で終わらせないのがめいめいのすごいところだと思います。

ミス・ティーンエイジ・ヘアスプレーになりたいという夢は彼女にとって大事なもので、きっと母・ヴェルマの期待に応えたい気持ちもあったのではないでしょうか。番組で目立つために歌もダンスも、どうすれば可愛く映るのかも誰よりも研究して努力を積み重ねてきたはずです(実際、めいめいの歌もダンスも素敵です、大拍手)。たとえカメラから外されても何度も前に出続けようとするアンバー。その姿からはダンサーとしてのプロ意識を感じます。

だからこそ私は彼女を憎むことができません。想いが強すぎるゆえに、相手のことを気遣う余裕がないだけだと思うので。勿論、トレイシーたちを傷つけていいという理由には決してならないけれど、めいめいだからこそ悪役でもキュートなアンバーになっていたのだと思いました。

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この親にしてこの子あり

ここでは三人の親について書かせていただきたいなと。
まずはトレイシーの母・エドナを演じた山口祐一郎さん。
祐様がエドナを演じるなんて…。とてもとてもビッグで、ほわほわしているエドナでしたが、トレイシーが傷つかないように時には厳しいことも言ったり、あたたかく見守ったりと、本当に素敵なお母さんでした。
また、「ようこそ60年代へ(Welcome To The 60’s)」という楽曲で、エドナが外の世界に触れ、気持ちが明るくなっていくシーンが大好きなのですが、祐様がキラキラ美人になっていましたね。

次にトレイシーの父・ウィルバーを演じた石川禅さん。
ウィルバーは、デモ行進でトレイシーが捕らえられた時、自分の大切なお店を抵当に入れて皆の保釈金を支払うという寛大なお方。娘の為なら自分の夢を諦めても構わないと思える強くて優しい性格は、黒人のシーウィードやメイベルたちのために白人の自分が戦おうとするトレイシーにもしっかり受け継がれていると思いました。あとピタゴラの禅さん、愛おしいので皆さん見逃さないで下さい。ちなみに今回の公演は「ギリセーフ」でした(笑)。

エドナとウィルバーを見ていると、この二人からトレイシーが生まれたことが腑に落ちるんですよ。こんなにも愛情深い二人の元で育っているトレイシーもまた愛に溢れていて、沢山の人に愛を届けることができているのだろうなと。「ふたりはいつまでも(You're Timeless To Me)」の二人がとても幸せそうで、私まで心が満たされます。

そして、アンバーの母であり番組プロデューサーのヴェルマ役を務めた瀬奈じゅんさん。
アンバーの悪役ぶりは先程めいめいのところでお伝えしましたが、このヴェルマも中々の悪女。清々しいほど意地の悪さに全振りした瀬奈さん…色気たっぷりで美しかったです。そしてヴェルマのナンバー「ミス・ボルチモア・蟹(Miss Baltimore Crabs)」も「ヴェルマのリベンジ(Velma's Revenge)」も深みのある歌声がとにかく最高でした。

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ヴェルマと対峙するシーンにドキドキ

番組の人気司会者・コーニーを演じた上口耕平さん。
あんなにバチバチに踊る上口さんを初めて私は見たのですが(ドン…の時そんなイメージなかった)、コーニーのスター性が体現されていて、とてもかっこよかったです。私の好きな「最高にいかしたやつら(The Nicest Kids In Town )」の楽曲でも、コーニーが一番キラキラしていました。

そして2幕、トレイシーを番組のスターとして扱い、黒人の風も吹かせようとすることを決めたコーニーと、それに猛反対のヴェルマが対峙するシーン。「番組を他局に持っていくことはできるんですよ」と半ば脅しのような言葉をかける上口コーニー、恐ろしいけれどグッジョブでした。

しかも上口さんは代役としてMr.Pinkyも務めていたのですが、やはり華がすごい!!急遽演じていたとは思えないくらいのあの素晴らしい動き。アレックスさんが明日9/26のマチネ公演より復活するため、もう観ることができないのですが、幻のMR.Pinkyとして私の心にはずっと残ることでしょう。

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パフォーマンス能力に長けたダイナマイツ

作品中、度々登場するダイナマイツと呼ばれる黒人女性の三人組。青野紗穂さん、原田真絢さん、MARIA-Eさんが演じているのですが、その歌唱力の高さに驚かされます。真っ赤なスパンコールに身を包んだダイナマイツは、その名の通り、とても爆発的でパワフルな歌声を響かせてくれるのです。ダンスも勿論キレキレでかっこよくて、一際目を引く存在感でした。

魅惑の〇〇〇〇

ミュージカル界隈でこの方のYouTubeを知らない方はいないはず。そうです、可知寛子さんが今回もまた七変化っぷりで楽しませて下さいました。
ペニーの母・プルーディーをメインに演じながら、アンサンブルで様々な役を務める彼女はどこにいても見せ場をちゃんと作っていく面白い方で、特に今回は体育教師の役で表れていました。あの眉間に皺を寄せた険しい顔、私たちを笑わせに来ているとしか思えません。さすが「魅惑の可知寛子」さんでした。

プリンシパルもアンサンブルもとにかく素晴らしい役者の方ばかりで、これほどまでに適材適所だと言える配役は私の観劇人生で見たことがありません。とても充実した観劇体験になりました…。


【最後に】

2022年9月17日(土)より上演予定だった本作は、出演者のコロナウイルス感染発表を受け、3公演が中止になりました。もちろん、初日のチケットを所持していた私も心苦しく、どこにもぶつけることのできない怒りと悔しさで胸が痛かったです…「また観ることができないのか」と。

実のところ、ミュージカル『ヘアスプレー』は2020年6月より日本初演を迎える予定でした。しかし、コロナウイルスの感染拡大により全公演中止に。大変人気な公演でありながら当時もチケットを手に入れることができていた私は、それはそれはひどく落ち込みました。

何としてもいつか絶対日本で上演してほしいと思い続け、今回2年越しの上演という悲願がようやく叶いました。そして実際にこの目で観ることができたことはとても幸せなことです。

カンパニーの皆様、関係者の皆様に改めてお礼を言わせて下さい。
本当に素敵な舞台を、ありがとうございました。

そして2020年の時とは全く違う世の中になってしまった2022年の今だからこそ、この作品の持つメッセージが色々な人に届いてほしいと思います。
『ヘアスプレー』のように皆が手を取り合える、そんな明るい未来が訪れますように…。

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【公演情報】

ミュージカル『ヘアスプレー』
2022年9月17日(土)~10月2日(日)東京・東京建物 Brillia Hall
2022年10月7日(金)~10月18日(火)福岡・博多座
2022年10月23日(日)~11月8日(火)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2022年11月12日(土)~11月20日(日)愛知・御園座
上演時間2時間45分(途中休憩あり)

ステージ写真は全てステージナタリーさんのものを使用しております。

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