笑ってみせて

舞元啓介の笑い方

【以下、「舞元力一」#9内の一部書き起こし】

力一
:裏のときに打ち合わせでさあ、舞元さんと通話繋いで、「音量調節しまーす」ってさあ、「じゃあ俺笑い声でやるんで、今から笑うんでそれで音のバランス取ってもらっていいすか?」っつって、「ハハハハハ!」って笑ったときが、本当にいつも笑ってるやつとほんっとにおんなじで、おれはちょっと複雑な気持ちになるっていう……

舞元︰で力一が、「本当にこいつ普段本気で笑ってくれてるんだろうか」って疑問を覚えてて……

力一:笑うのお上手ね〜って思っちゃった

舞元︰ちゃうんだって!普段笑い声調整をしてなかったぶん、わりとデカめに取るようにしてるの、笑い声をね。あれなんすよ〜違うんすよ〜ちゃんと笑ってるんすよ〜。舞元の笑い方作り笑いっぽいって言われると傷つくんですよ〜っていう。

力一:それはわかる、それは申し訳ない。

舞元︰普通に笑ってるんでね。

笑い声を忠実に再現できる、ということの何が人を複雑な気持ちにさせるのか。
「音量調節したいからちょっといつも通り喋ってみて」という流れで、配信前よりも高いテンションで話しだしたとしても、そこまで心が揺れることはないはずだ。配信に乗っていない普段の声を知ることがないリスナーならばそのギャップに驚く可能性があるが、よく打ち合わせ等で話しているライバー間ではことさらに違和感を抱くことはないだろう。
だとすれば、笑い声というのは自分でほとんどコントロールができないもの、たとえばくしゃみや咳払いの癖と同じカテゴリーだと見なされているからこそ、自分で意識してその再現が可能だという事実に意表を突かれるのだと考えられる。

自分の笑い声を自分で把握していて再現できるからと言って、それが作り笑いとは限らない。
ただ、このような自己言及的な行為は、他者ー観察者としての〈私〉の姿を見透かされたような気まずさを抱かせることがある。
たとえば、当人は気づいていないと思っていた会話の端々に現れる方言的なフレーズやアクセントが、あえて残されていたものだと明かされたとき。何度も見返したライブでのあの声の掠れ方や裏返り方を、いま正確に再現できると知ったとき。本人による本人の誇張した物真似の完成度が異様に高かったとき。
すべて作られたもので、精巧なセルフプロデュースで、〈嘘〉だったらどうしよう?
……実際にはそんなことはなくても。

ジョー・力一の笑い方

ジョー・力一の最初期の配信で見られる、いかにもピエロめいた高笑いは最近現れることはない。いつかの配信で、本人が「あれはピエロっぽさを意識していた」と語っていたように記憶している。
それとは別に、季節ボイスなどで演技をするとき特有の「フッフッフ……」という笑い方がある。ボイスでは普段の配信よりも柔らかい口調や“キメた”感じの声色で語りかけてくることも多いが、いつもの話し方と異なる部分として特にこの笑い方が目立つ。

おそらくどちらも、ジョー・力一の笑い方のパターンの引き出しの中で普段遣いのものとは別の段に入っていると思われる。
現在配信で載せている笑い方だけが〈素〉で、それ以外はどれも偽物だと判断することはしたくないのでこのような迂遠な言い回しになっている。
人は変わるものだし、実際2018年のジョー・力一の話し方の刺々しさがすべて意図して作られたものだとは思えないというのもある。

ジョー・力一のボイス(※ネタバレ注意)


2020年の怪談ボイスでは、普段のラジオ配信を想定したトラックが含まれている。
03では配信中にリスナーが“何か”の異変に気づき、最初は冗談だと思っていたジョー・力一も最後にはそれと対面してしまう。
06では配信中に妙な音声が挿入されているのに、本人は通常通り話し続け、何事もないかのように配信を閉じてしまう。
この2つはシチュエーションとしては似ているが、構造は異なる。ジョー・力一の演技に関しても、03では途中から「〜というシナリオを演じている、いつものボイスのような上手い演技」といった聞こえ方をするが、06では完全に普段の配信と同じ声色を崩さない。
正直なところ、ここが一番のゾッとしたポイントだった。演技として普段の配信と全く変わらない話し方ができるんだ……これは最初に引用した、舞元啓介の笑い方再現を目にしたジョー・力一と似た感情かもしれない。

ちなみに個人ボイス01 Varietyでは誰かとラジオの打ち合わせをしているシチュエーションの5分間のトラックがあります。かなりリアルだと思うんですけど、本当にこの話し方がいつもとまったく同じなのかはわかりません。私は舞元さんではないので。私が舞元さんだったらこれを聞いて複雑な気持ちになるかもしれませんが……。

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