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『Mr. Sound Postman』 街角麻婆豆

 10年くらい習ったバイオリンを中学生の頃にやめた。最後までさっぱり上手くならないままだった。なんとなく落伍したような気がして、クラシックを聴くことからも遠ざかった。程なくしてロジャー・ウォーターズやトム・ヨークに夢中になった。バイオリンはエレキギターにすげ変わり、クロイツェルやカイザーは「Time」や「Paranoid Android」に取って代わった。プログレばかり聴いていたが、しきりにクラシックに範を求めるEL&Pなんかは、コンプレックスの淀んだ発散に聴こえて、当時はあまり好きになれなかった。

 5年ほどが経ち、ふとしたきっかけで街角麻婆豆の『Mr. Sound Postman』に出会った。弦楽四重奏の形態を取っているが、タンゴになったり民族音楽調になったりと、とにかく自由だ。何から自由なのか、クラシックの教条的な重苦しさから……と思ったが、結局、囚われているのはあくまでこちらの方だった。それからまたクラシックも普通に聴くようになった。改めて耳を傾けると、マーラーのコンセプト偏重と思い入れの激しさはロジャー・ウォーターズのそれとひどくよく似ているように思えた。胸のつかえは消えていた。

 最後の『神と民より「ジグ」』が好きだ。1分少々の本当に短い曲だが、アルバムのエッセンスが詰まっていると思う。軽やかさと屈託のなさ。楽器が弾ける純粋な喜びと楽器を合わせる楽しみ。あと、鼻をつく松脂の匂い。

 もう少し経って、友達にアーケード・ファイアのコピーバンドに誘われた。エレキバイオリンを買って、ギター用のブルースドライバーとコーラスに繋いでみた。ちょっと笑ってしまうような音が出た。

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