悪い夢と、結婚生活。
私は、あまり夢見が良くない。そして、たくさん夢を見る。あまり良くない組み合わせだと言えよう。
飛行機事故のニュースを見た夜は、わたしも飛行機事故でだいたい死ぬ。そのまんま系の夢。これはものすごく多い。メタファーなし。
かと思えば、ファンでもなんでもない大物芸能人に控室で猛烈に叱責され、うなだれる自分。なんらかの濡れ衣で。いわば、何の話だ系の夢。この手のやつも、また非常に多い。無駄にクリエイティブな能力を寝ながら発揮する。
どっちにしても目覚めは悪い。ハッと目を開けて、心臓のドッドッという動悸のなかで起きる。
起き抜けの身体がまだ覚えている絶望感。夢の中で起きたことをベッドのなかで反芻する。納得の行かない気持ちのままフラーとリビングに行くと、早起きのマイケルがいる。
「昨日、へんな夢見たわー」
「オウどんな夢?」
ここ。
ここが結婚のいいところである。
ベストパートオブ結婚、である。
断言するが、なんと言っても、人の見た夢の話ほどつまらないものはない。つまらないと分かりきってる話を、どうしたどうした、と聞いてくれる相手がいること。
マイケルは、アーハンとかそりゃ大変だとかいいながらしばらく聞いてくれ、ひとしきり話したわたしは、やっと気が済んで、落ち着いた。
アーハンゆうて聞いてくれる人がいる家で目が覚めてよかった。悪い夢を見たけど、安全な朝に戻って来れてよかった。
***
前に結婚していたとき、夫婦というのは、お互いに刺激を与えあって、高めあって、なにか意味のあることを一緒にするものでしょう、と思っていた。
そんなことを考えていたからその結婚は失敗した。妙な期待を押し付けられていた元オットには申し訳ない限りだ。
今は、夫婦というのは、他の人には話せないほどしょうもないことを話し合う相手だと思っている。
同じコンドミニアムの、車の停め方がいつも超絶に下手な隣人を、二人でけなし合う。
マイケルが買った宝くじがもしも当たったときの分配について何パターンも考える。
それらの話の、実のなさ。
それらの、どうでもいい話の積み重なりとしての毎日。
「で?」とか「結論から言って」は仕事のときだけで良かったと、反省しいしい考える。
でないと、巨大な鳥にガッシと爪で背後からつかまれて、そのまま空に連れ去られるような夢もおちおち見られないし、どうやって起きてこの気持ちを抱えたまま仕事に行けばいいのかも分からない。
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