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2021年5月ブックカバーチャレンジ3日目『大気を変える錬金術』

『大気を変える錬金術』トーマス・ヘイガー著 度会桂子訳

ブックカバーチャレンジ3日目は化学系の歴史書、『大気を変える錬金術』という本で今は当たり前に空気中の窒素を原料にアンモニアを製造している窒素工業、その歴史です。
 窒素は常温常圧では不変で、どの物質ともくっつかない。なので食品など変化を嫌う工業製品をパッケージする際に窒素を入れると保存に便利。冷却の為の熱媒体として例えば水道工事の時に水道管を液体窒素で凍らせて切断工事とかにも使われる身近な存在の窒素。その窒素を水素と反応させてアンモニアを工業的に連続して大量に作る技術が完成し、この技術の応用で人造石油の製造までを書いた面白い歴史書です。
 ところでこの本の中にロイナという街にあったプラントの話があります。ロイナのプラントは人造石油を作っており戦車用の髙オクタン価の有鉛ガソリン、戦闘機用のガソリン、人造ゴムとあらゆる軍需品を生産していた。そのような重要施設故に連合国軍の空襲に備えて防空兵力が注がれ、その防空能力は首都ベルリンより強固で、ロイナ爆撃に向かったB17爆撃機700機中、帰還できたのは僅か400機だった。対空砲火だけではなくドイツ空軍は述べ400機の戦闘機を持って連合国軍を迎え討っていた。ロイナには22回の爆撃が行なわれ6000を超える爆弾が投下され、その総重量は1万8千トン以上の火薬量となり広島に投下された原爆の1万2千5百トン相当を超え、ロイナの街は瓦礫の街となっていた。
ロイナの攻防戦については宮崎駿がかつて出版した『宮崎駿の雑想ノート』の中にも書かれる程の当時世界一の防空能力、それは射撃管制レーダーと高射砲を連動させ敵機の予想位置を機械式計算機で求め自動的に砲弾を目標に打ち込み撃ち落とす何処の国も出来ない技術力で守り抜き、終戦時でもプラントは15%程度とは言え稼働しており戦後のドイツ復興に貢献している。
 空気中に無限にある窒素を原料としたアンモニアプラントが世界中で稼働し、一番の恩恵を得ているのは農業。窒素工業の始まりは1898年、英国科学アカデミーの会長に就任したサー・ウイリアム・ルックスという物理学者が就任講演で産業革命による人口爆発による食料不足を言い出した事が引き金になっている。ルックスの講演から122年を経た現代。先進国の人口爆発はなかったが、食糧問題は今も解決していない。それは窒素工業とは別の理由だから。

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