マガジンのカバー画像

本の感想

11
本以外の感想もあります。
運営しているクリエイター

記事一覧

【本の感想11】聞く力―心をひらく35のヒント / 阿川 佐和子

長らく積んでたけど、一気に読んだ。自分の期待していた会話のノウハウはあまり得られなかったけれど、阿川さんの語り口がとてもいい。 事前準備やインタビュー前の心境ー>やり取りの内容ー>相手や構成作家の方々からのフィードバックー>教訓 おおよそこんな流れの、ご自身のインタビューにまつわる小話を通して、阿川さんは「聞く力」の構成要素をいくつも教えてくれる。読み手は、そこから「聞く力」の輪郭をつかんでいく…のだけど、僕が本書で一番印象に残ったのは教訓の部分じゃない。それは、インタビ

【本の感想10】A DAY IN THE LIFE 7都市・7人の作家が描く、新型コロナウイルス・パンデミック下での、いつもの街の物語。 / 要々舎(発行)

パンデミック下で生みだされた漫画たちのアンソロジー。作品を寄せた7人の作家さんたちは、それぞれ別の国で暮らしている(タイ・台湾・シンガポール・スウェーデン・ドイツ・イタリア・日本)。絵柄や表現だけでなく、漫画の形式まですべてがばらばらだ。 もともと香山哲さんの漫画に惹かれて購入したんだけど、読み始めてみると、このアンソロジー自体に、この「ばらばらさ」自体の魅力に気付いた。レタスが食べたくてサラダを買ったけど、いつの間にか玉ねぎの香り・トマトの酸味・クルトンの食感を楽しんでた

【本の感想09】リベラリズムとは何か / マイケル・フリーデン

今回はアカデミックな内容の本なので、感想じゃなく、要約をしてみました。パワポを画像にしたやつです。 以上です。 実はこの本、最後まで読んでません(全7章で、読んだのは4章まで)。しかも要約したのは3章までで、さらに図を使って読みやすくしたのは1章までというありさま。だから誤った理解も多いと思いますし、要約としても非常に半端なものになってしまいました。 でも読書も要約もnoteへの投稿も趣味でやってることだし、興味と時間は有限なので、とりあえずこれでいいかなと思ってます。いい

【本の感想08】i(アイ) / 西加奈子

本作品は想像力がテーマの物語といえる。出身・生育環境・人種・養子であるか否か・性愛・経済環境など…人生の少なくない部分を決定するこれらの条件は、人それぞれ異なる。では各条件の異なる人物同士が、互いの存在を認めて尊重するには何が必要か。それは、情報の絶えざる更新と想像力なのではないか。本作を読み終えて、まずそのように思ったことを覚えている。 主人公アイは、赤ん坊の頃にシリアからニューヨークにわたりダニエル・綾子夫婦の養子となった。アイは両親から誠実な愛を注がれるも、情勢不安で

【本の感想07】仕事文脈vol.17 / タバブックス(発行)

雑誌形式の本の感想を書くのは初めてなので、うまいまとめ方がわからない。今回は、印象に残った記事について別々に感想を書くことにする。 【「私たちの7年8か月」アンケート(p.50~)】 このアンケート(?)からは、多種多様な属性を持つ人たちの生活や思想がうかがえた。この7年8か月で生活がどのように変化したか、またこれからどう変化するかという質問は、いわずもがな7年8か月続いた某政権のことを出発点にしている。世の中の不穏な空気に戸惑いや不安を感じるようになったり、明確に仕事に影

【本の感想06】三木 清『人生論ノート』(100分 de 名著) / 岸見 一郎

三木清の本を読もうと思ったのはこのニュースを見たのがきっかけだった。 ​ 戦前、哲学者や宗教家が思想犯として投獄されていた(旧)中野刑務所。その刑務所の門を保存する意義を、専門家にうかがうという内容だ。三木は中野刑務所で獄死している。獄中で病に苦しみながらも執筆をあきらめなかったらしい。 2021年2月現在、国内外とわず言論の自由について気になるニュースが多い。三木の「人生論ノート」が発行された1941年、日本は太平洋戦争に突入しようとしていて検閲の目が厳しくなっていた。そ

【本の感想04】『R帝国』 / 中村文則

ナチスは民主主義国家でおこなわれた選挙に勝って生まれた。読みながらそのことを強く意識したし、今現在も世界は同じ過ちを繰り返そうとしているのではないかと思うと背筋が凍った。 この小説は、近未来の独裁国家「R帝国」で生まれた「矢崎」と「栗原」の抵抗の物語だ。 R帝国は民主主義国家であるものの事実上の独裁国家となっていて、意図的な格差拡大・軍の保有・情報操作などによって人々を誘導する仕組みを確立している。矢崎はそんな国で孤児として生まれた一市民で、あることをきっかけに国へ疑問を抱

【本の感想02】『逃亡者』 / 中村文則

選択肢の増加・マイノリティへの想像力上昇・SNSによる発信の簡単化など、ここ数十年社会で改善された点は少なくはないと思う。一方で「差別のなく多様で自由な社会」が近づいているのかと考えると、とてもそうとは思えない…そういった違和感を覚える機会は多い。 本書は、リベラルな思想を持つジャーナリストである山峰が自身の過去やルーツを顧みながら、山峰を追う謎の組織から逃亡する過程を描いた物語だ。この物語は、先ほどの違和感の正体をひとつひとつ詳らかにしてくれた。 多様な選択肢を尊重している

【本の感想05】属性や状態(積立草稿より) / 香山哲

「体が成長すると、たとえお気に入りの服でも着なくなるように、友人との心の距離が時間とともにかわるのも自然なことだ」って言葉を聞いたことがある。聞いた当時はなんとなく納得してた言葉だけど、実はすこし違和感を感じてた。 体の成長は(たいてい)不可逆なことだから、この例えだと、友人の心の距離は一度離れたらもう近づくことはないように感じてしまう。実際はそれだけではなくて、一度離れた友人でも再び近くなるってことも、ままある。離れる/近づくよりも、伸びる/縮むの方が近い感覚だ。 今回

【本の感想03】『コンビニ人間』 / 村田沙耶香

普通という言葉は2種類の意味で使われることがあると思う。ひとつは、珍しくない・ありふれたという意味だ。もうひとつは、そうあるべきだ・そうでなくてはならないという意味で、押しつけがましさを多く含んでる。この本は、後者の意味の「普通」にしばられた女性の物語だ。 人・物・生き物などにまったく執着を持たない性格が原因で小さいころから差別されてきた主人公は、成長するにつれて、他人の言動や持ち物をコピーすることで周りになじむことを覚える。このコピーの能力は、彼女が何気なく始めたコンビニバ

【本の感想01】『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』 / 森山至貴

押し付け・ごまかし・偏見や差別がひそかにこめられた「ずるい言葉」は、人を間接的に攻撃したり洗脳したりするのによく使われてる。そんな言葉に付き合わされてウンザリな人に向けて書かれた本書は、会話の中の「ずるい言葉」の問題点を、社会学や論理学の言葉でとらえてくれる。 社会学の言葉でとらえることで、問題を客観的にとらえられるようになる。すると先人が議論してきたその問題の解決法にたどり着きやすくなったり、被害を周りに共有しやすくなったりする。 もちろんこの客観化の効能を感じられるのは他