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山と谷

お世話になった方が定年再雇用も終えて
定年退職された。

仮にAさん。
もう7年くらい前なのに
振り返ると時が過ぎるのが早すぎて驚く。
当時のAさんは、上司よりも頼りになる方
だった。

当時は、今の会社に勤めてから、私の中では
ワースト3に入る「谷」の時代。

会社の組織の仕組み上、本社勤務でなければ
職種の選択肢が営業職または営業補佐的職務
に限られてしまう環境だった。

営業補佐的職務を経て、ある時期から営業職に
職種変更された。

法人営業なのだが、やはり業界知識がものをいう世界。顧客はみなさんプロの専門家。
そして扱う商品もプロが扱う道具。
道具と言ってもアプリケーションだが。

この後出てくるお客様は、我が社の商品を
自分の頭脳であり、片腕でもあるとまでおっしゃってくださっていた。

会社都合でご利用ユーザーへご提供している
商品の販売形態などが変更になる改定があった時期と、営業職になったばかりで前任者から引き継いだ顧客への挨拶まわりの時期がかぶったのだ。

販売後も販売方針変更を説明するのは、保守料金を継続的にいただいているからで、契約内容にも変更が生じるため。

ある日、通常以上に気を配る必要があると言われている顧客先へのご挨拶兼ご説明訪問の日。

本来、こちらの課長クラスの上司が訪問して然るべき顧客先であったようだが、上司には別の予定があるとのことで、その日は私と販売代理店の課長で訪問することになった。

到着して、ご挨拶をして本題に。

よほど不満が鬱積していたのか
導入したものが、自分の頭脳で手足なはずなのにどれだけ思うように使えないかの説明に2時間近く、方針変更に対するお客様なりの納得できない理由について1時間くらい。と、ただただお叱りをいただくような状況がつづいた。

その後トータル4時間近く。
一生忘れられない出来事となった。

他人から4時間近く怒られる経験なんてなかなか出来るものではない。

販売代理店の課長も一緒に頭を下げてくださり
私としては、お客様と代理店の課長に対しての申し訳なさと心苦しさと、そして何より、同行しなかった自分の上司に対して心底腹立たしさを覚えた。複雑な心境だった。

その上司の対応とか顧客に対する姿勢がお客様のご立腹のトリガーであることは間違いなかった。

きっとこうなることが目に見えていたのだろう。火に油を注ぐとはまさにこのことだ。

初めましての私は、その場で答えられないことの方が多すぎて、丁重に丁重を重ねお詫びを申し上げ、課題については持ち帰らせていただき、早急にご回答させていただきますとお伝えし、4時間後やっと訪問を終えた。(解放された)

担当になったばかりでとにかく状況を把握するのが精一杯で、4時間近くただ不満と言い分に耳を傾ける事しかできなかった。

その日の帰り道に代理店の課長にも丁重にお詫びをしたところ、
「なんでおたくの会社はこの状況で上司が来ないの?けっしてあなたが悪いわけではないんだけど、ほんと理解できませんよね。こうなることはわかってるはずなのにね?」と、一言。

はい。おっしゃるとおりです。
申し訳ございません。
何も返す言葉もございません。
本日はご多忙のところ、同行くださり
ありがとうございました。

と、しか言えなかった。

その頃は、私が担当し、販売したわけではないのに、新たに担当になって挨拶に行く度に会社の方針変更をお客様にお伝えする必要があったため、さすがに4時間というのはあの顧客だけだったが、お客様のご不満を真摯に受け止めるに徹することが必要な時期だった。

そんなことが続いていたので、心がすっかりすり減りきっていた時、いつも相談に乗ってくださり、励ましてくださったのがAさんだった。

Aさんは、本社で問題の商品の営業推進担当者だったので、なにかと問い合わせすることが多かったのだ。彼は彼で社内の私のような顧客からクレームの嵐にさらされている営業担当者から相当な不満をぶつけられていたに違いない。

それでも、丁寧に社内の対応をされていた。
顧客ごとに販売形態も異なるため、顧客ごとにどう対処すべきか一緒に考えて、縁の下で支えてくださる存在だった。

Aさんがいなければ、確実に心を病んでいただろう。そんな苦しい状況を一緒に乗り越えてくださったひとりだった。

昨日のことのように思い出せる。
グランドキャニオン級の谷だったと思う。

その後、4時間のクレームになった顧客には、販売店の課長から、私の上司に対する直接の
猛クレームにより、わが社の社長と、商品開発担当までおでましすることになりやっと落ち着き決着となった。

社会に出ると色々な人にめぐり合うし、良くも悪くも様々な状況を経験する。

大変だったけど、あの時期があるから今があると思えればよいのだ。
結果良ければすべてよし。
人生山あり谷ありだ。

一緒に考え、試練を乗り越える体験を共有できる仲間は今もこれからも大切にしていこう。

今日、知人と会うため久しぶりに新宿の高層ビル街を歩いた。

相変わらず空は四角い。




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