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MM / 異化 / アイコン

昔から大変お世話になっている方からサイフをいただいた.
(Mさん ありがとうございます!)

説明不要の4つのステッチがブランドの特徴にもなっている.
このステッチ, 元々は洋服の襟についているブランド名が記されたタグを簡単に切り離すことができるように, つまりブランド名ではなく, 品質やデザイン本位で洋服をみてもらえるようにということで始まった一種のギミックだったそうだけど(本当か?), 実際はまったく逆に, ブランドのアイデンティティとして機能し, 切り離すどころか, 切れないように気を使って洗濯している人がほとんどだと思う.
その4つのステッチをみれば, ロゴなど無くても一目でどこのブランドか分かるアイコンとなっている.
アイコンとして普遍性をもちえたのは, それが, どんな洋服にでも必ず付けられるタグを縫い付けるためのステッチだからだと思う. 何かを付加するのではなく, "異化"する. タグという手垢のついたものをほんの少しだけずらしてみるという手数の少ないデザインとその効果の大きさ, 鮮やかさ. いつからかシャツやTシャツのブランドロゴをあえて見えるような位置に縫い付けたりするのをみるようになったが, そうしたタグのメディア化はこの系譜なのだろう.

Martin Margiela(MM)は最初からこうなる(アイコン化する)ことを想定していたのだろう. 妻が着ているMM6をみると, ステッチを見せるという点は共通だけど, およそ簡単には切り離せないような直線的なミシン目のステッチワークになっているし, このサイフも, そもそも切り離せないような縫い付けになっているし, 当初はともかく今ではメゾン側もむしろ積極的にアイコンとして表現している.
(MMは2008年以降クリエイションから退いているらしいからどこまでMMの意図したところかは分からないが. )

さて, "異化"ということをごく簡単に勝手要約すると, 「既に知っていると思いこんでいるものをその枠組みから引き離して, それそのものとしてまじまじとみる. そしてその新鮮さを認知する」ということだが, これは何ごとによらず創作のひとつの方法である.
(大江健三郎の「小説の方法」にも記載があったと思う. )
MMはその異化の威力を深く知り得た人なのではないかと思う. 2000年頃かな? 恵比寿にMMのショップができてそれを見に行ったときの衝撃は忘れられない.
何てことは無い古い住宅はそのままに, とにかく全てを白く塗りつぶしてあった. 窓枠から, テーブルから, バスタブまで, 住宅に普通にあるものを全てである.
これは何なんだろうと呆然とした. 全てものたちが, そのテクスチャ(素材としての色や触感)を消されていて, ただそれだけのことなのに, もうその存在の意味も剥ぎ取られて単なる物体になってしまったように感じた.
と同時に, 全てが白いので妙な統一感もあって, その行ったり来たりするような知覚の二重性に何とも言えない不思議な感覚を覚えた.
これほど手数が少ない, しかし効果的なインテリアの手法があるだろうか. (いや無い.)

その後のリノベブームで, 既存躯体をあらわしにしてペンキを塗ってOKというのはMMの遺産なのかなとも思う.


続きは次回に.

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