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Tinderで日記を通して、相手を知る ー【ティンダー・レモンケーキ・エフェクト発売に寄せて〈前編〉】

10月31日に発売を予定している『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』の出版を記念して、インタビュアーとして一人の男性を(脳内)召喚し、自作自演インタビューを実施しました(笑)。本インタビューは前編、後編の全二回となります。前編となる今回はTinderで日記を送る活動や、日記を交換することによって生まれるコミュニケーションについてです。ぜひご興味ありましたらお付き合いくださいませ。

<インタビュアー設定>

僕はたまたま書店で『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』を手に取ったとき、衝撃を受けた。なんなんだ、この訳のわからない人はと。どうやらTinderで「日記」という名前で登録して、ひたすらメッセージから日記を送り続ける活動をしていたらしい。しかも、日記を送っていたうちの一人の男性に恋をして、本には「彼」と呼ばれる、その男性の日記も載っている。読んでいると、お互いの気持ちを追体験しているようだった。
それに、彼女が性病にかかっていたり、セフレとセックスしたり、性についてもかなりあけすけだ。ほかにも、とにかくこの人は展示に行くか、映画に行くかばかりしている。僕はこの本を読んで、この人に会いたいという好奇心が抑えられなくなった。僕は彼女にコンタクトを取り、インタビューの機会をもらった。



Tinderで日記を送りはじめたきっかけ


ー初めまして、本日はお時間いただきありがとうございます。早速色々お伺いしていきたいと思います。


こちらこそ、光栄です。よろしくお願いします。

ーTinderで日記を送り始めたきっかけを教えてください。

日記の中にも書いたんですが、まだわたしがTinderで「日記」と名乗る前にTinderを登録していたときに、マッチしていた男の子から「日記を交換しない?」と言われたんです。その子はたしか小説家志望とかで。相手から送られてくる日記を読むようになって、こちらからもたまに返してたりしたんですが、そのときの距離感がちょうどよかったんですよね。それで日記っておもしろかったな〜って気持ちが残ってて。

ーちなみに、その人とは……?

なにもないです。一回食事に行っただけ。たぶん、わたしのことあんまり気にいってなかったと思う。

ーその後、今までのアカウントを消して「日記」って名前で登録し直すんですね。

これは日記にも書いてることだけど、12月に性病にかかってるのがわかって、なにもかもいやになって、とりあえずアカウント消したんですよね。でも二ヶ月くらい経ったら、誰かと話したい気分になって。でも普通にはじめるといろいろと、「セックスしよう」とか誘われるし、顔出ししてないと「顔見せて」とか言われてだるいし。じゃあそれを回避するには?と思って、日記を送る人格「日記」としてやってみるかと。ほんの思いつきです。

ーはじめてみて反応はどうでしたか?

気持ち悪がられるかなと思ったんですけど、思ったよりも好感触でした。マッチした全員に送ってたらさすがに気持ち悪いので、「送ってください」とか「気になる」ってメッセージくれた人だけに送ってましたけど。あ、でも興味あるのかなと思って日記を送ったら「とつぜんこわいです…」って言われたことももちろんありますよw

ーどういう基準でスワイプしているんですか?

文章読むのが好きそうな人ですかね?とりあえず日記を送ることを面白がってくれそうな人全般ですね。雑な言い方すれば、カルチャー男子というか。でもマッチする人はなんとなくだいたいわかります。

ー僕もTinderで見つけたら思わずLIKEを送ってしまいそうです。

ありがとうございます。わたしもLIKE送ると思います(笑)

100人の男性に日記を送る毎日


ーマッチする人はどんな人が多いのですか?

意外とさまざまですね。音楽とか映画とか本が好きな文化系が多いけど。職業は色々で美大生とかデザイナーとかクリエイター系から、バリバリのビジネスマンとか、院卒で賢い仕事してるんだろうなって人とかもいるし。ナードな感じな人から、パリピっぽい人まで、普段生活していたら関わらないだろうなっていう、本当にいろんな人がいました。都合のいい関係を求めている人と間違えてマッチしてしまうこともあったけど(笑)、そういう人も意外と熱心に読んでくれたりして、それが嬉しかったですね。

ー日記はどれくらいの人に送ってたんですか?

ピークのときは最大100人くらいですね。ちゃんと数えてないけど。述べ人数は自分でもわからないです。

ー大変じゃないですか?

ほんと大変でしたよ。だいだい30分〜1時間かけて日記を書いて、そのあと20分くらいかけて、一人一人に送ってました。よくあんなことできたなって思います。今は無理ですね(笑)

ー頻度は毎日なんですか?

基本的には毎日ですね。飲み会があったりとか、気分が乗らない日は二日まとめて送ったり。送らなかった日もあるけど、ほぼないですね。

ーそれは読む方も大変ですね(笑)

わたしも本当にそう思います。この人たち、よく付き合ってくれるなっていつも思ってました。読んでくれる人たちには感謝しかなかったです。

日記を通して知り合うことで、よりハッピーになれる


ー日記は返ってくるんですか?


ある期間、ハマってくれて、毎日とか数日置きみたいに送ってくれた人は何人かいました。あと気が向いたときに送ってくれる人も結構いましたね。嫌なことあったとき、仕事でトラブったとか、好きな人に振られたとか、そういうときに突然送られてくることもありました。感情をどこかに吐露したくなったんだなあって思って、黙って読んでました。

ー送られてきた日記の中で印象的なものはありましたか?

うーん。送ってもらった日記はあくまでもわたしに向けてくれたものなので、誰かに話すつもりはありません。まあ忘れているっていうのもあるんですが(笑)人の内面が人それぞれなように、日記の書き方やそれに現れてくるもの、一つとして同じものがないんですよね。文章が好きな人だけが書いているわけじゃないから、Twitterやブログでも出会えない、なんともいえないよさがあるんですよね。毎日感動させてもらえてました。でも個人的にいちばん楽しみにしていたのは、ヤリチンのヤリチンエピソードですね……(笑)人間の肉欲はやっぱり面白いです。Tinderでやってる醍醐味です。

ー送られてきた日記に対してなにかリアクションはするんですか?

いいえ、基本はもらった日記に対して、わたしが何か感想をいうことはほとんどないです。だって、そこになにが書かれてあろうとわたしには関係なくて、たまたま見せてもらえているだけって気持ちだったので。たまに「ネガティブな日記ばっかですみません」とか言われることもあったんですけど、わたしは送られてきた日記を基本的に受け流しているので、相手がどんな気持ちでいようと、あまり引っ張られなかったですね。だから、べつになにを思ってても好きに書いていいよと、答えてました。

ー日記以外のコミュニケーションはあったんですか?

ありましたよ。だから、「彼」と会うことになったし、ほかにも会った人はいましたし。よく雑談する相手もいました。あとは恋愛相談に乗ったり、ワンナイト話を聞いたり(笑)

ーたのしそうですけど、いろんな人を相手にするのは大変じゃないですか?

んー、そうでもないです。話したいなと思った人と話したいタイミングで話してるだけなので。誰かと話したいなと思ったときには、話し相手が見つかることが多かったので、ありがたかったです。

ー「日記」を名乗る前からTinderをやっていましたが、日記を通して知り合うことと、ただ知り合うことはどういう違いがありますか?

ぜんぜん違いますよね。「この日記書いている人って誰なんだろう」って少なからず期待しながら会ってくれるし、その逆も然りなので、お互いけっこう興味がある状態で会っていたと思います。仮に相手が日記を送ってくれてなくても、わたしのことは知ってくれている状態で会えるので、わたしとしては楽だし。
日記って別になにが好きとか嫌いとかじゃなくて、この人こんなこと考えながら生きてるんだなってことが、なんとなく共有されるので、共通したトピックがなくても、気が合えば話せるんですよね。普通にマッチングアプリで会うと、共通したトピックの探し合いからはじまっちゃうので、会話してても会話に至らないというか。

ーたしかにそうですね。チャットしてても、結局会うまでに至らないこととかよくありますよね。

興味持ってても、返しづらい球を一発打つともうアウトになっちゃうじゃないですか。返すの遅くなると、なんとなく気まずくなってフェードアウトしちゃうとか、あるあるじゃないですか。でも日記だとお互い会話を無視してても、会話を再開できるから楽なんですよね。友だちだったら、既読無視されても、その次特に気負わず連絡できるみたいな感じで。

ーなるほどー。そう考えると、日記ってかなり画期的なシステムですよね。

そうなんですよ!わたしはだから日記の交換はそもそもわたしがはじめたことじゃないし、専売特許でもなんでもないので、だれでもTinderで日記を交換しあって、出会いはじめたら、ハッピーになる人けっこういるんじゃないかって思うんですよね。

ーたしかに。僕も久々にTinderやってみたくなりました。

やりましょう!今すぐ!(笑)

ーちなみに会った人からなんて言われるんですか?

日記のイメージとぜんぜん違いますね、ですね。喋らなそうとか、おとなしそうとかはよく言われました。面白おかしく書いてるつもりなのに伝わってないんだってショックでした。

日記を読むことで、相手の生活を想像するようになる


ー日記の交換をしているうちに、お互いの存在が身近になっていくと思うんですが……、ぶっちゃけ恋とかされないんですか?


そもそも「彼」がわたしに疑似恋愛してましたからね(笑)ほかにもそうなんだろうなというのはありました。本気度合いはわからないですけど。実は「彼」以外にも恋に発展するのかもと思った人は正直いました。ははは。

ー惚れっぽいですよね……?

ノーコメント。

ー日記を続ける中で変化はありますか?

日記本にするにあたって自分の日記をかなり読み返したのですが、「彼」の日記を意識する前と後でだいぶ文体が影響を受けていると思います。わたしにとっては神様みたいに信仰する気持ちで読んでいたので。どこか「彼」のあり方が染み付いてると思います。
あとは、けっこう幸せに生きてるんじゃないかと、日々を肯定できるようになりました。風で季節の変わり目を感じたり、友だちとたわいもない会話をしたり、それを書き残すことで、ああこういう日々って愛おしいんだと、実感としてわかるようになった気がします。

ーあとがきで、コミュニケーションの新しいありかたに希望を持ったと言っていましたが、具体的にはどういうことですか?

世の中ってTwitterとか見てると、分かり合えないことばっかりだし、少しでもコミュニティの外に出たら、共通言語がないってことばかりで。でも、分かり合えないって思っている人たちだって、彼らには彼らなりの生活があって。それがそうなんだと感じられて、それを尊重したいって思えたことがわたしにとっては希望だったんです。だから、分かり合えない者同士でもなんとかお互いを繋ぐ糸口があるんじゃなかって、そう思える瞬間がありました。

ーありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします!

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。自作自演インタビューの後編は、性やセックスについてあけすけに日記に書き綴ったことや、恋した彼についてお伺いします(もちろん、私が私に)。ぜひ後編もお付き合いのほど、よろしくお願いします。

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