病床 / 20200513

病歿 束の間の言及を、幻想を、譫言を?前略、お身体の具合は如何でしょう?僕には何も言わなくていいよ。坂道を登った先に僕が生まれた頃に住んでいた家があります。そこで今も誰かが生まれ、住み、死んでいる。風を受けるにも、覚悟と準備が要る。弱者として生まれたからには、そればかりは分かっていなくちゃいけなかった。僕も今帰ります。最底辺弱者にも、感情という機能がきちんとあるのには、理由があるんだろうか。そんなのいつ使うんだろう。負債じゃないんだろうか。持っていても、いつまでもしあわせになれない。過不足ない、なんて戯言で、感情という臓器がなければ、しあわせすら感受出来ない。嫌いな料理を避けたいばかりに、皿ごと捨てておくくらいには、根元から切り落としているように見える。憎悪が無ければ、この感情が愛情だなんて、わからなかったかもしれない。どうしようもない劣等感と羨望が無ければ、きっといつまでも不慮に誰かを傷つけていた。今以上に。でも恐らく、それらさえ無ければ、死にたくなんてならなかった。生きてさえいなければ、死なんてわからないままだった、筈なのに。

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