僕にも夜明けを見せて / 20200515

行方が分からなくなっちゃった。ゆくえがわからなくなっちゃった。並行世界の真ん中では、僕がひとり佇んでいて、きみは何も知らずに、両方の世界で、違うことをしている。目玉焼きを焼くいい音がするね。ベーコンも焼いてくれたらいいのに。でも、きみの人生だから、きみの好きにして欲しい。きみが好きなように、きみが気に入るように、きみが楽なように生きていたらいい。僕は、それだけを願っている。捲られた回想録は、日に日に白紙を増して、鈍く光るような、甘い甘い永遠のような、絡繰り仕掛けで、何処までも嘘っぱちであるような。首に出来た傷は、もう治ったよ。あんなに間違ったのに、きみはずっと頭を撫でていて、僕は思わず泣いてしまった。優しい人には、それなりのつらい経験がある。きっときみもつらい思いをしてきたんだろう。僕もきみみたいに優しくなれるかしら。それなら僕のこのつらさは、何処か違うところへ行ってしまうだろうにね。きみと最期に喋ったことが、それでよかったなって、心底思う。永遠にはなれないんだね。永遠には……。なあに、きみ、曇った表情なんて、らしくないよ。永遠なんて実在しないことは、ずっとずっとわかっていた。晴れ間なんて来ないことは、聖書に標すまでもないくらい、明らかだった。夜明けの光が、綺麗だったな。もう二度と見られないなんて。でもね、僕はそれだけが、唯一の救いだと思っているんだ。

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