寄席の交互出演の予定が直前まで出ないので、オタクはExcelを開いた。
最近、寄席通いがひどい。
特に一人で落語にハマっているのがつらくなってきて、静岡在住の笑点好きの友人を本格的な落語ファンに仕立て上げてからがひどい。
友人は元々笑点というテレビ番組が好きではあったが、落語自体には詳しくなかった。
しかし、全く興味がない人に比べれば確実に下地は整っているので、恐らくその友人が好きそうで、なおかつ落語初心者の入口としても最適なA師匠の音源を勧めたところ、こちらが責任を感じるほど見事にハマってしまった。
A師匠はこのご時世に公式ホームページもSNSも無く、寄席以外の出演情報はプレイガイドや各落語会の主催の告知からしか得ることが出来ない。
発売日を見逃すとすぐに売り切れてしまうため、友人はまるで株やFXでもやっているかのように毎日暇さえあればTwitterでA師匠の名前をパブサして、新しい出演情報が無いか見守るようになってしまった。
そんな友人がある日、「寄席に行ってみたい」と言い出した。
私のせいでこのようなことになってしまった以上、責任を持ってアテンドしたい。
私はまず、協会のA師匠のプロフィールページにある出演情報を参照した。
すると、直近では9月下席(21日~30日)に寄席に出演することが分かった。
しかし、これがA師匠・B師匠・C師匠の3人での交互出演だった。
寄席の交互出演の詳しい日程が出るのは、大体その芝居が始まる3日前を過ぎてからという印象がある。
もっと早く出してくれたらいいのにとは思うが、きっと色々な事情があるのだろう。
友人は静岡在住で、比較的シフトがシビアな仕事をしている。
仕事を休んで東京まで来る必要があるため、危険な賭けはできない。
私はそこで、Excelを開いた。
現時点で公開されている3人の師匠方の下席期間中の落語会出演情報をインターネットの隅々から拾い集め、それを表にして埋めていくことで空いたスケジュールから寄席の出演日を割り出すのだ。
幸いにしてB師匠・C師匠は公式ホームページを開設しているため、そこから二人の出演情報を拾っていった。
何と、B師匠は9月下席の出演日を掲載していた。
それによるとB師匠の出演日は22・23日の2日間のみらしい。
これで交互出演のB師匠の日程が確定した。
ここを拠り所にして予想を立てていこう。
C師匠はホームページに寄席の出演日はまだ掲載していなかったが、かなり詳細にその他の落語会の出演情報を掲載していた。
九州など遠方の会に出る日やその前日は寄席にいない可能性が高いだろう。
しかし、都内の出演ならば寄席とハシゴする可能性は大いにある。
このように予想を立てながら、C師匠の出演可能日を水色で塗っていく。
まるでパズルである。
そして問題のA師匠だ。
A師匠の情報は、ドラゴンボールを探すみたいにインターネットの各地から拾って来なければならない。
プレイガイドやSNSを検索して埋めていくが、後から後から情報が出て来る。
都内のみならず地方の出演もそこそこ多い。
いつ寄席に出るんだという感じだが、恐らく首都圏で夜にやる会は寄席に出てから行く前提と考えて良さそうだ。
そうして私は以下のような予想を立てた。
なるほど、基本的にはA師匠とC師匠の交互出演で、A・C師匠が地方に出演する日とその前日をB師匠がカバーするようなイメージだろうか。
そう考えるととても綺麗だ。
なお、友人としては26日にA師匠が出てくれたら休みと被るので行けるということだったのだが、A師匠は26日は18時開演の高崎の会に出演するため、望みは薄いのではないかと思った。
寄席の昼席に15時頃上がるのだが、高崎の会に上がる時間がもし遅めだとしても流石にしんどいだろう。
あとは発表を待つのみである。
17日に寄席のスケジュール表を見ると、交互出演の日程が発表されていた。
気にしてチェックしていると思ったより早く出ているものなんだなと思ったが、それでもやはり地方在住者からすると、前月中には分かっていると嬉しいところだ。
寄席は東京近辺在住者だけの趣味なのかなぁと少し切なくなる。
さて、正解はこうだった。
色々言いたいことはあるのだが、まず、B師匠のホームページの情報が嘘だった。
9月下席昼の部の出演日は22・23日の2日間と書いてあったはずなのに、実際は22日と25日だった。
A・C師匠が地方に出演する23日は、B師匠も寄席は休演のため別の誰かが代演に来るようだ。
B師匠の寄席出演日を起点に予想を立てていたため、まず前提から崩される。
そして、昼席から高崎のハシゴって有り得るんだ。
しかしこの狂気のスケジュールによって、友人はA師匠を寄席で見ることが叶うこととなった。
そういう訳で26日に友人を寄席に連れて行ったところ大変に気に入ってくれたようで、「楽しかった」と「東京に住みたい」という言葉をうわ言のように繰り返しながら新幹線に乗って帰っていった。
やはり生で、それも寄席という空間で聴く落語というのは特別なんだなと改めて感じる出来事だった。
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